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【歌舞伎鳩】スーパー歌舞伎 ヤマトタケル

2月に観ましたから、中村隼人さんのヤマトタケルの日にお切符をとりました(2月は市川團子さんと中村隼人さんの交互出演)。3月20日までは同じく新橋演舞場で、團子さんのヤマトタケルでかかっております。
今年はここからずっと巡業するのすごくない?
5月御園座(愛知)、6月松竹座(大阪)、10月博多座(福岡)なので、気になった方はぜひ……。
5, 6月は團子さんのヤマトタケル、10月は隼人さんもなさるようです。



あらすじ

日本神話の日本武尊やまとたけるのみこと伝説の舞台化。
市川中車)には双子の皇子、兄・大碓命おおうすのみことと弟・小碓命おうすのみこと中村隼人)があった。母を早くに亡くし、帝の後妻である現皇后市川門之助)とその息子に立場を追われると考えた大碓命は帝への謀叛の心を小碓命へ打ち明ける。小碓命がそれを押し留めようと揉み合ううち、大碓命が持ち出した剣で、小碓命は兄を殺してしまう。兄の謀叛の企てを押し隠し、帝に兄殺しを告げる小碓尊。このことがきっかけとなり、小碓尊は帝に言われるまま、長い戦いの旅に出る……。
きちんとしたあらすじはこちら


感想

この2年くらいでなぜかよく天叢雲剣(草薙剣)の縁起譚をことあるごとに観ており、さらっと予習はばっちりみたいな状態で観ました。
鳩の知っている話は神話でしかなく、なんの色もついていないような状態のお話(情感のようなものが)のため、物語として主役を据えるとこういう風に演出されるんだな〜と思いました。

劇中でヤマトタケルが「時代に合わせて変わっていかなければならない(変わらないから滅ぶのだ)」というようなことを言い、これはイヤホンガイドによると、歌舞伎界のことを指している激励ということらしいのですが、この台詞が正直ずっと引っかかったままだった。
端的に言うと、ヤマトタケルは、まずは熊襲を滅ぼし、そのあと蝦夷をも滅ぼすわけです(平定するとも言う)。蝦夷との戦いで明確にこの台詞が出るのですが、これをヤマトタケルに言わせてしまうと(英雄譚であるとはいえ)侵略し、虐殺する側が自分の正しさを正当化しているように聞こえる。異文化の否定というか、自分たちに従わない文化を持つものたちは殺してもよい、と言う風に聞こえてしまう。そこを体良く隠してしまうのはどうなのかな〜……と思ってしまいました。
しかしこれこそをヤマトタケルの傲慢さと捉えるのだろうか……。結構ずっと人の良い感じに見えていて(父親のことしか考えておらず、ただただ意味も分からず命に従っているだけのような)、「ヤマトタケルの傲慢さ」が己自身を滅ぼしていく、といったような解説があんまりピンときていなかったので、鳩の読解力が足りないという話なのかもしれない……。結果的にここにピンと来ていなかったため、不遇だな〜(かわいそうに)に終始してしまい、ここまで酷い扱いされても(熊襲・蝦夷の平定は帝/父の命)、そんなに祖国(大和)もしくは父の元に帰りたいものなのかなあ……など、ずっと腑に落ちないまま終わってしまいました。
マハーバーラタを見た時も思ったけれど、こういう感じの運命に翻弄される?優しい(はっきりしない)主人公には、個人的にあまり身を入れて見ることができないのかもしれない。好みの問題ですね。

でも前述した歌舞伎界への激励はよくわかるよ。そしてそれをやっていこうとする姿勢が見えるからこそ、鳩は歌舞伎が好きとも言えます。もちろん内側から見るのと、外側から見るのとでは見え方が違うんだろうけれども、ほかの伝統的なあれそれがみんなそれをやっているように"見える"かと言われると……ネ……なので……。

ともあれ、全体的な演出方法なんかは力強く、見ていて面白かったです。なので以下、細かいことを書きます。

  • 一幕目
    1. 大碓命(兄)と小碓尊(弟/ヤマトタケル)は一人二役早替わりなんですが、すごいね……!? 結構お衣装違うのにどうなってるんですかね……!? これは姉橘姫えたちばなひめ弟橘姫おとたちばなひめ中村米吉)も同じで、一人二役。入れ替わり立ち替わりで出てくるので華やかだし、とても面白かった。でも一人二役って先に知らなかったら鳩みたいなのは気づかないのかも(人の顔をぱっと識別できないので)……笑。

  • 二幕目
    1. 二幕目終わりの客席のお葬式感がすごかった。客席が明るくなってもしばらく誰も動けず、一斉に息をついてのろのろ動き出すあの感じ。あれ久しぶりに劇場で体感しました。まあお話的にも、あの幕間が実際にお葬式みたいなもんである。
    「ヤマトタケルの一番大切なものを捧げよ」という託宣に、自らが選ばれた弟橘姫は、嬉しくはあったのは確かなんだろうなあ。その後のやりとりは(多少の本心が隠れていたとしても)やはり嘘というか誇張なんだろうと思った。しかし易者が元凶じゃない!? 海路をとる選択をさせたのも、弟橘姫を入水させたのも結局こいつのせいじゃない!?
    2. ↑のシーンで舞台上に船があるんですが、この船、たぶん廻り舞台を動かすことで動きをつけていた。大道具を転換するための機構としてしか見たことがなかったので、装置に対する新しい考え方が見えて面白かった。
    3. 天叢雲剣に「草薙剣」という銘をつけるくだりの場面、あれ焼津だったんですね。場所までは知らなかった。この炎に迫られ、こちらから炎をけしかけ、という場面の、炎の表現が面白かった。色合いの違う布で敵味方を表し、その布を揺らすことで炎のゆらめきや陽炎が見える。とてもシンプルな工夫だけど、よく表現されていた。

  • 三幕目
    1. 白い猪が見得を切ってくれる! 歌舞伎で動物が見得を切ってくれるの好き! たのしい!
    2. 天叢雲剣の居どころが、現在熱田神宮(名古屋)にある由来をようやくわかった。今まで何の気なしにお話として読んでいたので、場所のことを考えたことがなかった。
    伊勢神宮の巫女・倭姫やまとひめ市川笑三郎)がヤマトタケルに渡す(三重)→焼津にて「草薙剣」の銘をつけられる(静岡)→大和への帰り、みやず姫市川笑野)の手にわたる(名古屋)→熱田神宮(名古屋)だったのか……。
    2. 伊吹山の鬼神のところに犬山の使い(犬)が来てたけど、犬山の神は犬なんだろうか。鬼?
    3. 最後、天翔る前のヤマトタケルの台詞、弟橘姫のお名前がない気がするんですが、なんで……。あれだけ心を寄せていたのに口には出さないのか? それとももう自分の女じゃないから(海神の妻となるため入水)どうでもいいんですか? 言葉にできないほど深く大切なところにあるから言わないというのも分からないことはないが、さすがに言葉にしてほしい。でないと疑ってしまう(とか言いながら鳩が聞き落としていたら申し訳ない)。

おしまい。面白かったし決して飽きることはなかったけれども、お話の内容と上演時間的に、体力と精神力がかなり必要だった。見終わってぐったりしました。



新橋演舞場では高いお切符を買え(戒め)②

2階右40番あたり

戒め①の際に3階右席はほぼ見えないということを知ったのですが、お切符争奪戦に出遅れまして、今回も右席……。でも2階です。
上手側に見切れがあるものの、画質悪モニターで補完はできるため、まあ3階右よりはよろしいでしょう。多少はストレスも少なめです。3階右よりは集中力を欠かなかった。
噂にて3階正面は花道が見えないということを聞きましたので、やはり新橋はおあしを積み、最低でも2階正面からが良いのかもしれない。ただし右席は花道ががっつり見える。これは良いですね。
もちろん一階席が良いのかもしれないのですが、新橋も歌舞伎座も座席が千鳥にはなっていないので、どうなんだろう……というところはありますね。以前一階下手側に座った時は、人の頭に被った気がする。



公演概要

スーパー歌舞伎 三代猿之助四十八撰の内 ヤマトタケル
2024年2月4日(日)~3月20日(水・祝)

新橋演舞場

このあと
2024年5月6日(月・休)~19日(日) 御園座(愛知)
2024年6月8日(土)~23日(日) 大阪松竹座(大阪)
2024年10月(日程未定) 博多座(福岡)



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