第一話　間違い電話

「リンリーン、電話だよ」

最近、買い替えた携帯電話は

可愛いアニメキャラクターの声で着信を知らせてくれる。

咄嗟に枕元の携帯電話に手を伸ばしながら、

「誰だ？母の具合が悪いのか？　田舎の叔父に何かあったのか？」

と、寝ぼけた頭で考えながら画面を見る。

表示された電話番号の市外局番は田舎だ。

「もしもし」

「ご主人様は、もう出かけられましたか？」

「はっ？」

「もう、出かけてはりますよね？」

七十代と思われる女性の声。

「間違っておられますよ」

と、電話を切ろうとした私の耳に届いた声は

「ご主人様、呼んでください！」と怒っている。

仕方なく、「間違い電話ですよ」と、親切に言ってみた。

「ああ、私が間違っていますね。私がおかしいんですね」

やっとわかったかと電話を切ろうとすると

「こんな時間にかけた私がいけないんですよね」

そうそう、はいはいと心の中で呟きながら眠りの世界に戻ろうとしたが、

「８時からですか？」

と、電話から問う声がする。切っても罪ではないだろうが、

母と同年代と思われる声に冷たくは出来ない。

「どちらにおかけですか」

「カラオケ『ルンバ』さん」

「いえ、こちらは一般家庭です。お店ではありません」

「ああ、ご自宅ですか。でも、ここにかけるようにメモがあるんです」

と、食い下がってくる。

「何番におかけですか？」

「０９０の＊＊＊の＊＊＊＊を押すようにって書いてあるんですよ！」

と、怒っている。

いや、怒りたいのは、こっちだからと思いつつ、

「では、押し間違いですよ。」と、最後の親切を示す。

「ふーーん」

『ん』の余韻があるうちに電話は切れた。切れた電話に向かって私は言う。

「謝ろうよ」

「間違い電話でこんな時間に起こしてしまってすみませんって言えよっ！」

只今、午前４時３分。