夏の夜が、近づいてくる。
今日はいつもの夏の夕方より少し静かな気がする。
蝉の声は確かに遠くで響いていて、微かに涼しい風も、頬を撫でていく。
日中よりは少しだけ柔らかい太陽の光が、容赦なくあたしを照らしてくる。太陽はすごいよね。
なんにも考えず、輝き続けることができるんだから。
遠い昔に観た夏の夕焼けの美しさは、今でも鮮明に心に刻まれている。
オレンジ色に染まった空が、あたしを熱く包み込まれている。
その瞬間、世界はふたりだけのものになった。
思い出って残酷
消えそうで消えてくれない幻みたい。
この季節に夕焼けを見上げるたびに、なんだか苦しくなる……というかどこかが少し痛む気がするけど……
その痛みすらも、どこか大切に思っている自分がいる……気がする。
そんなことをぼんやりと考えながら歩いていると、風に乗って甘い匂いが漂ってきた。
多分どこかの民家で育てているヒマワリ……の香りだろう。
大きく花開いたヒマワリが、オレンジ色に染められている。
いつもより少しだけやさしく感じる。
そしてその香りに包まれると、やはり不思議な気持ちになる。
ずっと前の夏のこと……
私たちは何度もこの道を歩いた。
オレンジ色の世界で、言葉を発することなく手を重ねて、ただお互いの存在を感じていた。
言葉はいらなかった。
心が通じ合っていると思っていたし、それだけで十分だった。
「あたしが勝手に思ってるだけ」
ただそれだけでよかったんだ。
ずっと昔のことなのに、
今でも思い出しては、そう自分に言い聞かせてる。
時間が経つにつれて、空は徐々に紫色に染まり始める。
夜が近づいてくる。
あたしがどれだけ変わっても、この美しさは変わらない。
この空の美しさだけは、変わらずにあたしを受け入れてくれる。
夏という季節はほんとうに不可思議なもので、
すべてを包み込んでくれる。
でも、決して忘れさせてはくれない。
ただ、暗闇にすべてを放り込んでくれるだけ。
いつまでも、忘れることはできない。
※画像はみんなのフォトギャラリーからお借りしました。
ステキな画像をありがとうございます。
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