堀った芋いじるな

その村は藁ぶき屋根の家と畑が広がる、のどかな村だった。都会の喧騒など知らないかのように、四季折々の自然と人々が共存していた。

ある夜、その村にひとりの盗人が入った。彼は隣の町に住む男で、その村の特産品であるサツマイモを狙ってきたのである。彼は大きな畑のある家の前にある、倉庫らしき建物の前に立った。そこにはシャッターがかけられており、簡単には開けられそうになかった。

彼は村中を回り、サツマイモを探した。だが、畑からは既にすべてのサツマイモが収穫されてしまったようであった。また、他のどの倉庫も開きそうになく、外に放置されているサツマイモもないらしい。

盗人は落胆してさっきの建物に戻った。その裏側に回ってみると、小さな袋の中にいくつかのサツマイモが入っていた。
「少ないが、仕方ない。これを持って逃げよう」
盗人は袋を持ち上げ、逃げ去ろうとした。するとそこに、暗闇の中、近づいてくる足音があった。

「何をしてるんです」
「まずい、ばれた」
「サツマイモを盗もうというわけですか」
薄い月明りの中で見えたのは、若い男の村人だった。盗人は無言で立ち去ろうとした。村人の男はそれを追いかけるでもなく、止めるでもなく、ただ言った。
「やめておいたほうがいいですよ」
その声に怒りや悲しみは感じられず、笑いが混じっているようにさえ聞こえた。それに違和感を覚え、盗人は立ち止った。
「絶対に、後悔しますよ」
男があまりに意味深に言うので、一度はためらったが、結局盗人は村から逃げ出した。

次の日、盗人は自宅で、昨日盗ったサツマイモを取り出した。もともとこれを売りさばいて儲けるつもりだったが、あまりにもうまそうに見え、どうしても自分で食べたくなってしまった。まるで悪魔に耳元で何度も何度もささやかれるように。見れば見るほど食べたい気持ちが増していく。その気持ちが抑えられなくなり、1つ焼き芋にして食べてしまった。その芳醇な香りと甘みに、盗んでしまったことを少しだけ申し訳ない気持ちになった。

その直後、盗人は死んだ。

別の部屋に身を隠していた男が、盗人の死体の前にやってきた。
「だから言ったんです」
そして男は死体をブルーシートに包み、盗まれた袋と一緒に車に詰めて村に戻った。

その日の夜、男は昨日の建物に入った。中心の焚火を囲むように、装束衣装の若者が数人立っていて、その中に一人の老婆が立っていた。
「おや、来たようじゃな」
「”代わり”を見つけてきました」
「そうか。そいつが適格かどうか次第じゃがな」
「今、持ってきます」
そう言って男は建物の外に出て、サツマイモが入った袋と、大きく長い物体を包んだブルーシートとともに戻ってきた。
「彼はこの毒芋を村から盗み出し、衝動に抗えずに食べてしまったようです」
「なるほど、それなら十分じゃろう。命拾いしたな」
「……今後も村のために必死に働いて参ります」
そう言って彼は建物を後にした。すべてうまくいった。男は明日も生きられる喜びを噛みしめ、安堵しながらつぶやく。
「この村に伝わる掟。年に一度、誰かを毒入りの芋で殺め、神様に生贄として捧げる。生贄となるのは、20歳になった若者か、罪を犯した罪人。この条件なら身代わりに交代もできる。この時期に掘られた芋には、毒が仕込んである可能性があるので、決して安易に手にとってはいけない。もしとってしまったら、何が何でも食べずにはいられなくなってしまい、そして死に至るのだ」

「だから、『掘った芋いじるな』」


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