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【海外マンガ】病の前に芸術は無力だと思ったけど。「テイキング・ターンズ」が届いた

「テイキング・ターンズ」は、書店に並べる場合、どのコーナーに置くべきかわからない本です。
エイズが死に至る病だったころの医師やナース、そして患者の言葉が、イラスト入りで描かれている。アメリカのマンガなのでいちおうアメコミだけど、ぼくの知っているアメコミではない。

正体不明の死の病だったころのエイズ病棟では、人生の最後にも「同性愛者だから」「エイズが怖いから」と、家族すら来てくれない患者がいる。
医療従事者の作者は、彼らと会話したり、映画の話をしたり、副作用の説明をしたり…たまに、自分にも感染するかもしれない、と考える。

映像だったら観るのに覚悟のいる景色が、だいたい1ページ4コマ、200ページもの長さで、でも淡々とすぎていく。

驚くべきところは、人生の残り時間がわずかな人の病棟に「アートの部屋」があって、患者が絵を描くことで癒しになっていたこと。

病に苦しむ人の前に芸術は無力だと思ったけど、
死を前にした人は絵筆を手にして、何かを残そうとする。
「この花は自分を現しています」とか、絵を説明することでコミュニケーションができる。

エイズという病気の恐怖があって、死と生があったという話だけど、その病棟に絵筆があって、患者の描かれた絵があったことは、どういうことなんだろう。
おそらく、アートをめぐる患者とのやり取りの影響もあって、病棟での日々を残すとき、文章だけで残すのではなく、絵を添えてみた。
すると、ほかの医療従事者の記録とは違う、ふしぎな時間の流れる一冊ができた。


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読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。