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映画の背景がわかると感動も二倍。『ミナリ』に描かれた移民の事情

 안녕하세요(アンニョンハセヨ) 南うさぎです。

 アメリカで移民として暮らす韓国人家族を描いたアメリカ映画『ミナリ』について、その背景を紹介します。

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Movie.naver.com から。

監督の自伝的な物語

 主人公ジェイコブ(スティーヴン・ユァン)と妻モニカ(ハン・イェリ)のように、リー・アイザック・チョン監督の両親も韓国からのアメリカ移民一世です。移住した時期も同じで、ジェイコブとモニカの7歳の子どもデビッドが生まれたのは監督と同じ1978年。つまりデビッドは監督のペルソナになっているのです。両親の職業や、韓国からお祖母さんが来たことを含め多くのエピソードは監督の実体験。シナリオを作るとき、子どものころのエピソード80個くらい思い出し、その中から映画のシーンを描いたそうです。

 デビッドのお祖母さんスンジャ役のユン・ヨジョンは、シナリオを初めて読んだときに、これは監督の実際の思い出であるということがすぐわかったそうです。そこで監督にスンジャの役を本当のお祖母さんのように演じてほしいのかと聞いたところ、監督はあなたが思うように演じればいいと返事をしたといいます。そしてユン・ヨジョンは自分ならでの表現ができたと、あるインタビューで言っていました。この作品は2020年に『パラサイト 半地下の家族』でアカデミー作品賞を受賞したときにポン・ジュノ監督が言った“一番個人的なことが一番創意的である”という言葉そのままの映画だと絶賛されています。これは元はアメリカの映画監督マーティン・スコセッシの言葉で、ポン・ジュノ監督は胸の奥に刻んでいるそうです。また『ミナリ』にはリー・アイザック・チョン監督の宗教的な世界観も表れるので、その点も注目してみてください。

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Movie.naver.com から。

アメリカ移民

 映画の舞台はアメリカのアーカンソー州という、アメリカ人でもどこに位置するのか、わからない人がいるほどの田舎です。アメリカに住んでいる韓国人移民者は約180万人と言われますが、その中でアーカンソー州に住んでいる韓国人移民者は約4000人。カリフォルニア州などに比べると移民者の数はとても少ないと思います。

 映画で、モニカはひよこの鑑別をする職場で働いている韓国人に会い、この街に韓国教会があるかと聞きます。その人はないと答え、ここに住んでいる韓国人はそれなりの事情があってここに来たので韓国教会を作らないのではないかと言います。その会話から、アーカンソー州の韓国人移民者はあらゆる理由でアメリカの韓国移民社会になじまず、新しい場所を探して集まった人たちであることが予測できます。

 新天地を求めてアメリカに移民しても、韓国移民社会や大都市から離れ、新しく再出発するジェイコブ家族は移民生活の中でも最も大変な状況に置かれていると思います。モニカが韓国教会に行きたがっているのも、信仰心だけではなく、韓国人との交流を望んでいるからです。他国に住む大変さもありますが、韓国移民社会から離れ新しい地で根を下ろす覚悟は想像できないぐらい大変なことではないでしょうか。ジェイコブはその地でなんとか結果を残そうとし、モニカは大都市に戻ろうとしていますが、それでも二人は韓国に戻ろうという気持ちはありません。この映画はどんなに大変な試練があっても他国で生きていくことを決めた移民者たちの胸に大きく響いていると思います。

ひよこ鑑定士

 ひよこ鑑定とは、ひよこのオスとメスを判別する人のことです。アメリカ移民が盛んだった1970年代の韓国では、移民のための技術としてひよこ鑑定を学ぶ人が多くいました。監督の両親もひよこ鑑定士を務めていたようです。

 ひよこの肛門で鑑別をするため、集中力が高くて指が長く繊細な人に向いているそうです。鑑別作業は卵から孵って1日目に行われ、卵を生むメスだけを残します。オスはメスより成長が遅く肥料の費用も多くかかるため、残酷ですがオスはすぐに殺処分されてしまうそうです。
 ひよこ鑑定を行う職場の煙突から立ちのぼる煙を見ながら、ジェイコブが息子デビッドに「メスひよこのように必要な人間にならないといけない」という話をしますが、鑑別の事情やその仕事に生きがいを見いだせないジェイコブの心境が理解できるシーンでもあります。

 こうした移民の生活や仕事の事情をふまえて、ぜひ映画を見てみてください。

 안녕!

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