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秋の夜長の夢のようなもの

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(寝てる時に見る方の)夢、みたいなものを書いたら追加します。
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#小説

世界のほとぼりが冷めたら

一緒に歩きに行きませんか。

世界のほとぼりが冷めたら、で構いませんので。

暑い夏の昼にあなたが辿った道を行きましょう。
草むらでスズムシの鳴く夕暮れに、あなたが立ち止まった場所を訪ねましょう。
街の灯りで月しか見えない夜に、あなたが引き返してしまった、その先に行きましょう。

何かを見つけようという訳じゃありません。

道すがら、少し話をしませんか。

今日食べたカレーの感想を教えてください。

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途中計算

「去りたいのです」と彼は言った。姿勢を正し、僅かに緊張した硬い声で。

博士はその両目に宿す光を微かに強くして、こちらを見つめ返すだけだった。

「……すみません」彼は眼光の意味を自身に対する不満と捉え、怖くなって謝罪した。その光は肯定でも否定でもないはずだったが、彼の世界では明らかな拒絶の意味を持っていた。

博士は、右の眉をくいっと上げた。

彼は目を泳がせた。ああ、気まずい。正しい答えが分か

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