世界のほとぼりが冷めたら

一緒に歩きに行きませんか。

世界のほとぼりが冷めたら、で構いませんので。

暑い夏の昼にあなたが辿った道を行きましょう。
草むらでスズムシの鳴く夕暮れに、あなたが立ち止まった場所を訪ねましょう。
街の灯りで月しか見えない夜に、あなたが引き返してしまった、その先に行きましょう。

何かを見つけようという訳じゃありません。

道すがら、少し話をしませんか。

今日食べたカレーの感想を教えてください。
忘れられないあの日の喜びを聞かせてください。
これからを不安に思う気持ちをぶつけてください。

別にお節介をするつもりじゃありません。

あなたが、確かにそこに居たという確信を得られればいいと思ったのです。そこに居て、確かに感じていたのだと、思い出せたらいいと思ったのです。

今のあなたが、余りにも所在なげだったので。

人生そのものに対する退屈は、好ましくありません。本当に、良くないと思うのです。

酷く苦痛に満ちた人生はこの世とのお別れに近い場所にいます。
けれど人生そのものを退屈に思うときは、同じくらいこの世界とのお別れに近い場所にいる気がするので。

歩きに行きませんか。
私はただ隣を歩きます。

少し話をしませんか。
私はただうなずきます。

その日が来る頃には、あなたはもう人生を退屈には思っていないかもしれません。もしそうなったら、私はあなたのそばで安心して眠ります。

世界のほとぼりが冷めるまで、どうぞこの約束を忘れないでいてください。


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