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竹の子族とフィーバー世代

オフィス。コーヒーブレイク。

マリコ部長(以下マ)「うちの部の伴武(バン・タケシ)課長、今週末で最後ですって。来月、定年退職なので有給消化に入るんだって」
みつき(以下み)「バンブー課長?」
マ「そう、バンブー。六〇歳には見えないから、もう? って感じなのよ。でも、本人はもう仕事はいいや、って。再雇用も希望しなかった」
み「ってことは、年金支給までの五年間をしのぐメドが立っているんでしょうね」

みつきの後輩で、マリコ部長の部下、エイコがやって来た。
エイコ(以下エ)「そうそう、バンブーさん辞めちゃうんですよねー」
二人「あ、昼からエロい話してるー、って言わなかった」
エ「だって、先輩たちの会話からエッチネタを捻り出すのにも疲れちゃったしー」
二人「……」
エ「ところでバンブーさんって、なんでバンブーだったの?」
マ「彼、若いころ、竹の子族だったの」
エ「竹の子族?」
マ「1980年代、原宿の歩行者天国で独特の衣装で踊っていたグループがたくさんあって、その服を売っていたブティックの名前から竹の子族って言われたの。彼が入社して来たときは、すごい話題になったらしいわ。『竹の子族も社会人かー』って。わたしも宴会で、彼のブレイクダンスを見てびっくりしちゃった。背中でくるくる回転するやつ。目の前で実物を見たのは初めてで、いまでもよく覚えている」

み「そういえば、社史編さん室の佐田出(サタ・イズル)さんも、先月、会社を去りましたよね」
マ「サタデーさんね。六五歳の再雇用満期明け。辞める前に挨拶に来てくれたけど『長い刑期を終えて、やっと網走刑務所から出獄できます』ですって。だから『お勤めご苦労さんです』って返事した」
エ「あはは。うまいこと言いますね。確かにわが社、待遇は刑務所みたいなもんだもんね」
マ「こら」
み「わたし、仕事がらみでサタデーさんとよくしゃべりましたけれど、自分はフィーバー世代、若い時分はディスコに繰り出して騒いでいた、って言ってました」
エ「フィーバー?」
マ「サタデー・ナイト・フィーバーよ、映画の。1978年に日本公開された。彼、学生時代に観ていたんでしょう」
み「ビージーズの歌がたくさんあって、わたしも大好きです。日本のディスコ・ブームに火をつけたんですよね」
マ「そう。そんな踊りまくっていた若者が、もう会社を去る年代になってるんだなーって考えると、こっちもいつまで若ぶっていられないなーって身につまされる」
み「サタデーさんといい、バンブーさんといい、いまのおじさん顔、おじさん体型からは想像できないですよね、ディスコでフィーバーだの、竹の子族だのだったなんて」
エ「そうよ。人を外見で判断しちゃいけないんです。わたしなんて誤解されているけれど、真面目でしっかり者、貞操堅固、貞淑の鑑ですよー」
二人「どこが!」
エ「『女は見かけとは別ものですわ』って手塚治虫先生もマンガで書いてましたよ。清純で、大人しくて、真面目で、虫も殺さぬような、おしとやかそうな人ほどスケベなんです。ね、みつき先輩」
み「わたしに振らないでよ」
エ「へへー、むっつりスケベのくせしてー。じゃ、外回りに行ってきまーす」
エイコ、脱兎のごとく、ピューっと去っていっちゃった。
二人「やれやれ」

※参考:
サタデー・ナイト・フィーバー」(1978)
「ネオ・ファウスト」( 手塚治虫、朝日文庫、1992)

みつきの微笑みがえし」では、みつき、エイコ、マリコ部長が、もろエッチな本音をさらしているわよ。シェー! R18ざんす。

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