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1人のガラス作家と18人の画家が言葉だけのやりとりで作り上げたアートプロジェクトの軌跡

年度末ギリギリのスケジュールのなか、会期最終日前日に駆け込んだ「ガラスの器と静物画」の展示。

今年1月から3月までの約2ヶ月間開かれていたガラス作家の山野アンダーソン陽子さんと18人の画家の方の作品展で、ガラス作品好きとしてこれは行っておきたい!とギリギリ観に行けました。

東京オペラシティ アートギャラリーにて


「山野さんのガラス作品を本にしてみたらどうでしょう」
この一言から始まったというプロジェクト。

自身で描いてみたいガラス食器について、18名の画家たちが山野さんに言葉のみで伝える。
それに応えて山野さんがガラスを吹き、出来上がったガラス食器を見ながら画家それぞれが自身の思い描くシーンで絵を描く。
というストーリーがこの本では綴られているのだけど、「言葉のみで伝える」っていうのがすごく面白いなぁと展示会のベンチに置かれていた見本誌を読んで思わず購入。

展示終わりのベンチのあちらこちらで読めるようになっていた



何かイメージを伝える、というと絵や図に書いたり、ネットからいくらでも画像を拾ってこられるこの時代に「言葉のみ」っていうのがとても原始的というか、根本のみでやりとりする作業がすごく興味深かったな。

「ナチュラルな雰囲気で」とか、「明るく柔らかいイメージで」など、言葉だけでのやりとりも多い私自身のスタイリングの仕事にも通じる部分があって、受け取った言葉から自分なりに細部のイメージまで落とし込んでいく作業は頭の使い方が似てるのかも、と思ったり。

本の中には18人の画家さんとそれぞれのやりとりが書かれているのだけれど、海外の画家さんの話はなかなかハードなエピソードが多かった。

本当は展示用に描いた絵をそのままにしておいてほしいのが、売っちゃって描き直してもらったり、想像以上に描いてもらった絵が大きくて搬入出が大変だったり。
やっぱりこのプロジェクトから降りる!という人もいて、いやーこれは大変だぁ!と読んでるだけでも大変さをずしんと感じられました。

日本の画家さんのエピソードを読んでいると、そういった制作の流れ以外の苦労がなく、とても穏やかに進んでいった印象に見えてしまった。
(制作の工程は何十個と試作したりとても大変そうではあったのだけれど)
性格は人それぞれとはいえ、国民性も少しはあるのかな?なんて思うことも。

これは絵なの?というくらい透明感やリアリティがすごい作品も


制作の過程では、リクエストでもらった言葉のイメージを掬い上げて、山野さんのガラス制作でできることに落とし込みつつ、イメージに近づくように様々なチャレンジをしている様子が端々に垣間見られました。

「(言葉の)イメージからものを作り上げていく」過程のイメージの落とし込み方だったり、やったことのないことに挑戦してみる姿勢とかクリエイティブな仕事をしている人には共感できる部分も多いんじゃないかな。

5年越しのプロジェクトということで、展示を見るだけでは知ることができない裏側がぎゅっと詰め込まれた内容。

山野さんの体験を通した感情がストレートに伝わってくる読み応えのある一冊なので、展示行ったけど本は読めてない、という方も読んでみると違う発見があるかもしれません💡

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