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この映画…何か変… -映画『変な家』感想-

みなみ京二と申します。

何かと話題になっている映画『変な家』を見て来たので感想を書いていきます。
見るか迷っている方の参考にもなるように、途中まではネタバレなしです。

小説版は未読、動画は視聴済みです。


原作者・雨穴について

ご存知の方も多いかとは思うが、はじめにこの映画の原作者にあたる人物・雨穴(うけつ)氏について簡単にまとめる。

氏はこの映画の原作にあたる動画『【不動産ミステリー】変な家』の投稿者であり、WEBメディア『オモコロ』などに記事を寄稿しているWEBライターである。
年齢や性別など、本人の情報は一切不明で、当然顔出しもしておらず、声もボイスチェンジャーで加工されている。
手作り感あふれる紙粘土の仮面に全身黒タイツという、極めて奇抜なビジュアルを目にしたことがある方は多いはずだ。

登録者数130万人越えのYouTubeチャンネルでは、これ以外にもホラー・ミステリー系のオリジナル作品を多数投稿しており、その全てが数百万再生されている。

これだけを見るとホラー系の動画投稿者だと思われそうだが、他にも歌って踊ったり、おせちを食べたりと活動は多岐に渡る。
私が初めて見たのは、水の生き物を育てる動画だった。
投稿されたのは2019年の8月、お子さんの自由研究にもピッタリな内容だ。

……これに限らず、氏の動画に登場するモノはいずれも極めて奇天烈である。
元々はこういった、異世界の商品レビューとでも言うべき動画を中心に活動しているチャンネルであった。
最近の動画は前述したホラーやミステリーがメインとなっているため、「雨穴=ホラーの人」として認識されている節があるが、こんな感じの動画も上げていたことを知っていただけると、氏の1ファンとして嬉しく思う。

このポスター、何かが、変、ですよね?

これはこの映画の宣伝ポスターである。
一見すると何の変哲もないポスターだが、この中には一つの大きな嘘が隠されている。
どこが嘘か、分かるだろうか。

正解は最下部の文言だ。
この映画はミステリーではない。正しいジャンルはJホラーである。
公式サイトではキャストが「ホラー映画ではない」などと宣っているが、紛れもなくこれはホラー映画である。
ゆえにホラーが極端に苦手な方は、注意して見ていただきたい。

また、これはホラーが強すぎてミステリーが相対的に弱くなっているという訳ではなく、シンプルにミステリー要素がほぼないという意味だ。
ミステリーを期待して見に行くと確実にガッカリするので、そこも注意が必要である。

実際、私は完全にミステリーの口で見に行ったので、いざお出しされた映画の内容に強烈なコレジャナイ感を覚えた。
動画『変な家』にあった、小さな手がかりを繋げ推理するようなミステリー的楽しみはほとんどない。

ならホラーとして面白かったか?と問われると、それも正直微妙。
怖く感じさせようと頑張っているのは伝わるのだが、脚本の詰めの甘さや一部の演出が足を引っ張ってしまっており、ゾクゾクするような恐怖はなかなか感じられなかった。

栗原さんもなんか変

映画の主軸は、因習に囚われた村とその過去に置かれている。
その他の要素はかなり簡潔に済まされており、それは「間取りの謎」ですら例外ではない。
せいぜい冒頭の10分程度で、動画『変な家』にて語られる内容はサラッと流される。

これがかなり大きな問題で、栗原さんがかなり滅茶苦茶を言っているように見えてしまった。

動画では20分以上の尺をたっぷり使い、「一見普通の家で、常習的に殺人が行われている」という飛躍した妄想を、現実的なものとして感じられるようにしている。
普通なら「この家は殺し屋の家です」なんて言われたら「いやいや、そんな訳ないでしょ」と思い、相手にしないだろう。
信じさせるには、証拠を見せて理解させる必要がある。

「あくまでも妄想である」ということを再三にわたり言いつつ、様々な状況証拠を示して繋げる。
そうすることで、荒唐無稽にしか思えない推理を「もしかしたらあり得るかも……」と視聴者に感じさせているのである。

それが映画では、ノルマを消化するが如く適当に流されてしまう。
本作の主人公である売れないYouTuber・雨宮が、マネージャーの柳岡から変な家の間取り図を渡され、知り合いの設計士・栗原さんに相談する、というところまでは概ね動画をなぞっている。
しかし、その後の推理パートが異常に駆け足で進むので、着いていけなかった。

映画館の中だしこんなに駆け足になるとは思っていなかったので当然厳密な時間など測れていないが、体感だと10分もなかった。
いくらなんでも圧縮し過ぎである。
その弊害か導入も漫才の入りかよというレベルで強引だし、栗原さんが提示する証拠の数も減っている。
動画での絶妙な「もしかしたらあり得るかも……」は完全に崩れているのでこちらとしては納得しかねたが、しかし雨宮は数段飛ばしで納得してしまう。

結果、登場人物はこの家で常習的に殺人が行われていることを確定事項のように扱って話が進むものの、見ているこちらは「いやいや、そんな訳ないでしょ」状態であり、温度差を感じてノれなかった。
言い出しっぺの栗原さんはともかく、雨宮はもうちょい疑えよ。
すぐ信じるにしても、オカルト系の動画投稿者なんだから「実際に過去に起きた近い事件を知ってた」とか、何かしら理由付けが欲しかったよ。

加えて、映画での栗原さんは初登場シーンから奇行に走るような、何故かやたらと怪しい雰囲気の男性であり、しっかりした「大人の男性」という感じで、冷静かつ聡明だが毒舌家な一面もある動画での栗原さんとはイメージが大きく異なるキャラクター造形になっている。
言葉を選ばずに言うなら「ヤバいオッサン」でしかないので、猶更栗原さんの言葉に説得力がなくなる。

そんなこんなで全然物語に入り込むことができなかった。
ホラーとしても楽しめなかったのは、これが大きな理由の一つである。

真面目さが辛い

登場人物の言動や設定もまあまあ滅茶苦茶で、突っ込みどころが無数にあったことも楽しみ辛かった要因だ。
物語が進むにつれて、常識的に考えておかしい行動や矛盾した言動、無理のある設定がポンポン出てくる。

そういった映画には、純粋なホラー作品としては楽しめなくとも、突っ込みどころを茶化し、笑いどころに変えて見るという楽しみ方もある。
しかし、本作でそれができるか?と問われれば。答えはノーだ。

理由は簡単。
真面目過ぎるのである。

作中で行われる儀式の内容や、その発端となった過去の事件はなかなかに生々しい内容で、他の部分もキッチリ詰めれば1本のホラー作品として凄く面白くできそうなものばかり。

にも拘らず、ホラー映画としては微妙。
早い話が「素材はいいのに調理方法を間違った」タイプの映画だ。

悲しいことに、間違った調理方法とはいえ大真面目に作られているため、絶妙に茶化せない出来になってしまっている。
この映画は、滅茶苦茶な話でありながら起きている事象はエゲツないし、登場人物が命の危機に瀕するようなシーンも少なくない。
ギャグシーンなんかもほとんどなく、終始ガチガチにホラーの雰囲気を固めている。
しかし、致命的に脚本の練り込みが甘く、没入もできなければ登場人物の言動もどこかおかしいために、作品全体の完成度が下がってしまっている。

物凄く勉強が苦手な友達が、自分なりに頑張ったもののテストでは全然結果が出なかった、という状況をご想像いただきたい。
とてもじゃないが、馬鹿にして笑うことなどできないだろう。

役者の演技力が高いのも「茶化せなさ」に拍車をかけており、総じて笑えない作品である。

中締め

こんな感じでなかなか楽しめなかったが、同時に「ホラー映画を作ること」への強い熱量も感じられた。
もう少し詰めれば化けただろうし、もしかしたら近い将来、傑作ホラー映画が生まれるかもしれない。

ほんとにミステリー要素ないな……。



▲▲▲ここまでネタバレなし▲▲▲
▼▼▼ここからネタバレあり▼▼▼




窓も常識もない

主人公・雨宮の言動は終始意味不明だった。
意味不明ポイントをざっくり列挙すると、

・そもそも怖い話を生配信で朗読するという活動スタイルが謎
・現在進行形で売られている物件をマイナスな話題で配信に出す
・間取りも映す
・そこまでやっているのに「特定できないようにしたつもりですけど」
・初対面の1視聴者を自宅に上げる
・普通に内見に行けばいいのに不法侵入する
・当然ながら無断で動画を撮影する
・直前に襲ってきた柚希を普通に自宅に上げる
・片淵家の本家も無断で撮影する
・なんの脈絡も根拠もなく「実は殺人のための家じゃないんじゃないか?」と言い出す
・何故か神に祈ることをやたら嫌がる

多いな……。

雨宮だけでもこれだけあるが、他にも

・特に理由もないのになぜか雨宮を襲う柚希
・隣家の中を覗き、写真まで取る女性
他人の姉を確たる証拠もなく殺人者と呼ぶ栗原さん
・抵抗できない状況の雨宮ガン無視で銃を持っている清二の頭をカチ割る重治

と、釈然としない行動や非常識な発言が多い。

ストーリー面も、埃まみれなうえに傷や血痕が放置されたままの売り物件とか、なんで家の人らが外出したのにわざわざ怪しい裏ルートから外に出ようとするのかとか、滅茶苦茶武装してるのに簡単に抜け出せる包囲網とか、村の人間が隠し通路を知らないガバガバっぷりとか、常時何かしらの突っ込みどころが発生し続ける。

笑えない雰囲気の中、作品に没入できないまま非常識な言動と破綻した展開を延々と見せられるのはかなりキツイ体験だった。

助けてチェーンソーマン

そんな中、唯一心の底から笑えたシーンがあった。
チェーンソー婆である。

唐突に登場し、奇声を上げながらチェーンソーを振り回し、岩に刃がめり込んで自滅する。
雨宮たちには一切のダメージを与えられない。
雑に生えてきて雑に退場するだけのキャラクターだ。

これこれ、こういうのが欲しかったんだよ!
ビジュアルだけでも笑えるのに、その行動も面白い。
老婆とチェーンソーという意外な組み合わせもあり、一瞬で強烈なインパクトを残してくれるいいキャラクターだった。

とはいえ全体的に真面目な雰囲気が漂う本作では浮いた存在であり、制作サイドがなぜこのシーンを入れたのかは正直謎である。
もしかすると元々意図していたものではないのかもしれない。
というか正気で「チェーンソー振り回すBBAを出そう、これは怖くなるぞ!」とか思ったんならそっちの方がよっぽどホラーだわ。

リスペクト

ここからは凄まじく個人的な話にはなるが、動画『変な家』の、ひいては雨穴の1ファンとして、リスペクトの欠如は非常に気になったポイントだ。
なんだかやたらとこの映画を悪く言ってきた気がするが、そうなった原因は恐らくこれである。

最初に雨男のビジュアルが映ったとき、雨穴の何を見て来たんだという怒りが湧いてきたのはよく覚えている。

漂白されたムンクの『叫び』のような不気味なフォルムに、これまた不気味さを醸し出す目や口元の黒いライン。
ひたすらホラーに寄せたその姿は、もはや雨穴とは似ても似つかないものだ。

雨穴は、確かに第一印象では不気味かもしれない。
だが発言や行動は常識人寄りであり、動きに愛嬌も感じられる。
ボイスチェンジャーのかかり具合もどこかに可愛らしさが感じられる程度に調整され、意図的なおどろおどろしさは感じられない。
あの仮面も、ずっと見ていると段々と可愛く感じてこないだろうか?
感じられない??ならもう少し雨穴の動画を見よう。
そのうち可愛くなってくる。

そして中身に関しても、動画では軽妙なトークやブラウン管PCなどの小物、そして雨穴自身のシュールさといった「遊び」の要素がある。
このおかげで、重たい内容の動画も軽く見ることができるわけだ。
しかし映画ではそういった「遊び」の一切をオミットしているため、ずっと重たい展開が続くこととなる。

ここまで雨穴の良さを無視し続けていると、そもそも動画『変な家』の内容を軽く流してしまうことも、栗原さんのキャラクターが似ても似つかないのも、原作を軽視しているからなんじゃないかと考えてしまう。

原作者として雨穴を至る所に載せ、作中でも雨穴をモデルにしたキャラクターを出しているのに、雨穴とその作品の長所や特徴を無視した作品作りをしているのは「そもそも『変な家』である必要があったのか?」と疑問を感じざるを得ない。
仮に原作を軽視していないのだとしたら、それはそれで雨穴と動画『変な家』の何が面白いのか、何がウケているのかの分析は少し甘かったんじゃないか、とは思う。

締め

他の方の感想では、「普通に楽しめた」「ホラーとして見ればそこそこ」といったような、ある程度好意的な意見が多く見られる。
興行収入も結構出ているようだし、世間的な評価もそこそこレベルに落ち着きそうだ。

ただ原作要素の扱い方が私に致命的に合わなかった、それだけの話なのではないかと思う。
まあでも合わなかったことで楽しめなかったのは事実なので、とりあえず感じた事をひたすら書いてきた。

中締めで今後には期待できるといった旨の内容を書いたが、これは嘘ではない。
光るものはあったし、間違いなくホラー映画として良いものを作ろうとはしている。
しかしながら空回りしている部分やそもそもズレている部分が多々見受けられ、それが原因で面白くなくなっている印象だったので、バランスさえなんとかなれば面白くなったとは思うのだ。

なので、もし次作があれば見に行くとは思う。
興行収入が良いとなれば、続編の制作や他作品の実写化も現実的だし。
個人的には、雨穴の長編動画の中では『差出人不明の仕送り』が一番好きなので、実写化して欲しいような欲しくないような微妙な気分である。

とはいえ原作及び原作者へのリスペクト不足は気になるところではあるので、完全新作で作ってくれるのが一番嬉しいというのが本音。
ということで、オリジナルホラー映画『チェーンソー婆』の制作待ってます。
割と本気で。

〈了〉


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