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SF好きならとにかく見てくれ! -映画『DUNE/デューン 砂の惑星 PART2』感想-

別にSF好きじゃないって人も騙されたと思って見てほしい。

みなみ京二と申します。
1作目の公開から約2年半、待ちに待った『DUNE/デューン 砂の惑星 PART2』を観てきたので感想を書いていきます。
見るか迷っている方の参考にもなるように、途中まではネタバレなしです。

なお原作は未読。
映画は吹き替え版で観ました。


前作の印象

まず最初に、今作は完全な「続きモノ」であるため、前作の視聴は必須である。
Amazonプライムで配信されているので、未見の方はぜひ一度視聴していただきたい。
面白いから。

1作目の『DUNE』も公開当時に劇場で観たのだが、その時に抱いた感想は
「映像は綺麗でシナリオも世界観も面白い、ただちょっと地味」
であった。

それもそのはず。
『DUNE』の物語は、ざっくり言うと
「超重要な物質である『スパイス』が採取できる宇宙で唯一の星・アラキスを舞台に、貴族の息子・ポールが政治闘争や壮大な陰謀に巻き込まれる中で特別な能力に目覚め、それを駆使してアラキスの王、ひいては宇宙の王に成長していく」というお話。
繊細な心情の変化もかなり丁寧に描かれ、壮大な物語を描き切ろうという気概を感じられる。

しかし1作目のストーリーはこの中で言うと「~特別な能力に目覚め」で終わっており、ここから面白くなるぞ!というところで区切られてしまう。

加えてストーリーの軸に政治的な争いが深く関わり、SFであるが故に用語がめちゃくちゃ沢山出てくるからかなりややこしい!
次々に出てくる用語を把握しながら大筋を追いかけるだけで、結構疲れてしまったのをよく覚えている。

とはいえ、アラキスの砂漠やカラダンの海といった自然風景の美しさ、サンドワームの迫力やメカニックのカッコよさ、高レベルのアクションは非常に見応えがあり、
加えてアラキスの特異で興味深い生態系や原住民・フレメンの独特な文化をはじめとする世界観設定も非常に面白い。

「ちょっと地味」なのはこの映画の唯一の弱点であり、
それは2作目になれば克服される可能性が極めて高い、
重厚な物語を語るために避けて通ることのできない一時的なものである。

そう感じさせるには十分な面白さを持つ作品だった。

そして公開された『PART2』。
滅茶苦茶面白かった!!
前作の弱点はしっかりと克服され、良いところをさらに磨き上げ、
期待通り、いやそれ以上に面白い映画に仕上がっていた。

緊張と弛緩の黄金比

今作は「緊張感のあるシーン」「肩の力を抜けるシーン」のバランスが非常に上手い。

ストーリーでは、ポール率いるフレメンと、アラキスを我が物にせんとするハルコンネンや皇帝が直接対決に至るまでが描かれている。
時折見える未来に翻弄されながら、一人のフレメンとして戦いに身を投じるポール。
切り札を戦場に投入し、アラキスの支配のために動くハルコンネン。
暗躍するベネ・ゲセリットと皇帝。
戦火が増すにつれて、必然的に物語の緊張感は強くなっていく。

ともすれば疲労で観ているのが辛くなるほどに重い内容だが、ヒロイン・チャニとのロマンスやスティルガーを始めとするフレメンとの交流、美しい自然描写など、様々な心を癒し緩めてくれる要素が細かく挟まれ、清涼剤としての役目を果たしていた。

バリエーション豊かな緊張と弛緩を理想的な配分で繰り返すおかげで、重厚な物語を疲弊せずに楽しめる
さらに作品全体に大きなメリハリも生まれ、それに合わせてこちらの感情も大きく揺さぶられることとなる。

ポールの見え方

貴族の息子として生まれるも陰謀に巻き込まれ没落し、アラキスで這い上がりフレメンを率いて王となる──主人公であるポールは、極めて数奇な人生を辿っている。
境遇があまりにも観ている自分とかけ離れている一方、若さからくる青い部分や身に余る力に悩み、陰謀に翻弄される様は魅力的で、前作では自らの息子のように「一歩引いた位置から見守る」ような楽しみ方をしていたのを覚えている。

しかし今作で、彼は「感情移入がしやすい主人公」になった。
彼がフレメンとともに行動し、「フレメンを助け、共に生きる」という、前向きかつ共感しやすい行動指針を手に入れたからだ。

前作ではレトが「フレメンとの共存」という目標を掲げており、それは息子であるポールへと受け継がれた。
チャニやスティルガーを始めとするフレメンとの交流と、その中でポールが正真正銘仲間の一人として認められるまでの過程が今作前半の見せ場である。

一人の人間として迷い悩みながら、真にフレメンと共に生きる統治者へと成長していく様子がとても丁寧に描写されており、
『ポール・アトレイデス』という人物はより深みを増した。
そのおかげで今作におけるポールは、境遇・能力における観客とのかけ離れっぷりは前作の比ではないほどに増したものの、心理的な距離が観客とぐっと近づいた!
だから感情移入がしやすく、親しみやすい。

前作ではまだ「レト・アトレイデスの息子」であり未熟だったポールが、父を失い一人の人間として成長していく。
2作を通して、彼の内面を巧みに描写し、最も物語が面白く感じられる魅せ方がなされていることを強く感じられる。

そして、感情移入がしやすくなったことで前述した「緊張と弛緩による作品のメリハリと、それによる感情の揺れ動き」に気持ちよく乗ることができる。
圧倒的な没入感が生まれるのである。

変わらず素晴らしい映像面

ここまでストーリー面の話をしてきたが、映像の面白さも前作からさらに強化されていた。

前作で映像面において特に印象的だったのは「大自然の驚異」であるサンドワームの迫力だろう。
巨大な土煙を起こし、あらゆるものを飲み込む様の恐ろしさは、脅威の一つとして強烈な存在感を放っていた。

今作でもサンドワームは脅威であるが、彼らに抱く印象は今作で大きく変わった。
きっかけは、物語中でフレメンが彼らといかにして共存しているのかが描かれたことだ。
サンドワーム───『シャイ=フルード』の生態は、様々な面においてフレメンの生活と密接に関わっていた。
前作でもクリスナイフなどに『シャイ=フルード』への信仰は現れていたが、それをより詳細に知るとサンドワームは「現象」から「生物」となる。
映像面でもそれを補強するように、彼らは生き生きと描かれていた。
フレメンの抱く畏怖の念を観客も抱けるような、素晴らしい映像だった。

そして、白兵戦のシーンも外せない。
今作でも前作と同じく、物語上最大の見せ場は白兵戦である。
ハイレベルなアクションは健在であり、砂漠に関する知識と高い身体能力、そして練りに練られた戦術で戦いを挑むフレメンたちの活躍を存分に楽しむことができた。
狡猾かつ残忍な敵との間に繰り広げられる、知略・戦闘技能の双方において高いレベルのぶつかり合いを見事に描き切り、説得力のある映像となっている。

総じて、ストーリー面・映像面の双方で非常にハイレベルな作品である。
一切の迷いなくオススメと言えるほどに面白かった。
上映時間は約2時間半と長く、ほぼ同尺の前作の視聴が前提とやや楽しむためのハードルは高いが、そこまでしてでも観る価値は確実にある。


▲▲▲ここまでネタバレなし▲▲▲
▼▼▼ここからネタバレあり▼▼▼





アラキスで生きるということ

『DUNE』の舞台、アラキスとそこに住むフレメンについての深堀りは、今作でも特に面白い要素だった。
最も印象的だったのは『シャイ=フルード』の活用方法。
前作におけるサンドワームは「僅かな音にも反応し、山のような巨体を持ちながら高速で移動するアラキスにおける頂点捕食者」として描かれており、フレメンからの信仰などについては、クリスナイフや随所の台詞に現れるのみであった。

それがまさか乗り物や死体の処理に使われているとは……!
サンドワーム乗りについては一応前作のラストに描かれていたものの、あそこまでガッツリ移動手段として利用されているとは思わなかった。
「サンドワームでないと超えられない壁」なんてあったら、そりゃあラッバーンも集落を見落とすだろう。
まさかあんな化け物に跨って移動するとは思わんて。

フレメンの文化も、砂漠に生きる信心深い民族として非常に納得感があった。
憎き敵の死体からも水を絞って使い、仲間の死に対しても涙を流すことを「水を無駄に流すな」と言って善しとしない。
しかしながら、仲間の死体から絞った水は「聖なる水」として貯め続け、決して手を出さない。
水以上に仲間を大切にする生き方は、厳しい環境で生き延びるために協力が不可欠であることが根底にあるのだろう。
逆に、外部の人間は仲間のための貴重な水を奪う危険な存在である。
なるほど、『リサーン=アル・ガイブ』かもしれないポールですら、邪険に扱われるわけだ。

そんなポールが、『ムアッディブ=ウスール』の名を送られ、サンドワームを乗りこなし、フェダイキンとして戦っている!
フレメンに馴染み、最後には真の『リサーン=アル・ガイブ』として大群を率いている!
あの青い目で!!

裏でジェシカが暗躍していたり、ポールも命の水をキメて悟りを開いたみたいになっていたり、そもそもベネ・ゲセリットが流布した都合の良い信仰が根底にあったりと素直に喜んでいいものかは若干怪しい。
それでもあの演説シーンは真の『リサーン=アル・ガイブ』、救世主の降臨であるように感じたし、ポールもフレメンのために行動していると感じられた。

復讐と救世

しかしながらそのポールは、物語が後半に進むにつれてなんだか人間味が感じにくくなっていたのも事実。

スティルガーやガーニイとのやり取りでは、前作からの対比要素もあり彼の精神的な成長を感じ取れた。
しかしながら視えた未来を恐れて南へ行くことを拒み、焦りや怒りを露わにする弱さもある。
前半の「お父様は復讐など望まない」に対する「僕は望みます」という返しは、彼の心の黒い部分を感じられる人間味に溢れた台詞であり、今作でもトップクラスに好きなシーンだ。

前~中盤では彼の魅力的な人間らしさを堪能できたのだが、命の水を飲んで以降は『リサーン=アル・ガイブ』としての言動が主となってしまう。
演説シーンはアツいし、その後の戦闘シーンも迫力満点で面白いのだが、なんだか「ポール・アトレイデス」という人間が遠くに行ってしまったような気分だった。
もはや彼は『リサーン=アル・ガイブ』であり、フェダイキンの一人『ポール=ムアッディブ=ウスール』なのだ……。

しかし、彼は最終決戦においてハルコンネン男爵にキッチリ止めを刺し、捕虜を得た際もサーダカ―だけは名指しで殺すように命じる。
本当に嬉しかった。
良かった、復讐のことは忘れていなかった!
彼はレト・アトレイデスの嫡子、ポール・アトレイデスのままだ!

戦いの最初に核ミサイルを用いているのも、最初は「まあ最大火力だし不意打ちで確実に当てるよね」くらいにしか考えていなかったが、全てを見た今では「アトレイデス家」としての宣戦布告に思えてならない。

もちろん、フレメンの王としてアラキスに安寧を取り戻すことも目標であったと思うし、だからこそ最後には皇帝の娘との結婚を選んだのだろう。
そんな中に彼のルーツであるアトレイデス家への誇りや、敬愛する父を殺したハルコンネンやサダーカーへの憎悪がしっかり見えた。

目が青くなっても、命の水を飲んでも、『リサーン=アル・ガイブ』となっても、そしてハルコンネンの血が混ざっているとしても、彼の根っこはアトレイデス家なのだ。

「異常者です!」

フェイド=ラウサ・ハルコンネン、彼も良いキャラクターだった。
平気で周りの人間を殺す倫理観の欠如した戦闘狂であり、レトのことを「弱い男」と罵り、自らがそうしていたようにポールにとってのチャニを「ペット」と呼ぶ。
一方でよく戦った相手は称えるし、言動からは高い知性も感じられる。

アクションも印象的で、特に生誕祭で戦闘は頭から離れないシーンだ。
なぜかモノクロになる映像、シールドを外す余裕、周囲の黒子の介入も許さず一方的に勝ってからの
「よく戦った、アトレイデス」

いやもう、好き。
個人的に強いハゲが好きというのもあるが、それを抜きにしても圧倒的な強者感とカリスマ性を感じ、フェイド=ラウサという人物に一気に引き込まれてしまった。

今作の中盤が初登場でありながらそのビジュアルと言動によって短時間で強烈なインパクトを残し、ポールとは従弟でありながら色々と対照的な人物ということもあって、最後に戦う敵として相応しいと思えた。

締め

本当に面白い映画だった。
3年間待ち続けた甲斐があった。

ラストは一つの区切りでありながらまだまだ先の物語を感じさせるものであったが、PART3はあるのだろうか。
いつぞやネットの記事で「2部作である」と見た記憶もあるが、続編も作ってほしいと心の底から思っている。

もっと『DUNE』の世界に浸りたいし、ポールの統治や連合との諍いの行方が気になるというのも勿論あるが、何よりもこのままではチャニが報われなさすぎる!
ポールの愛に偽りはないと思うし、最終的に関係がどうなるにしてもキッチリ関係にけじめを付けられるような続きを見たい。
流石にこの終わり方はモヤモヤする!
これはこれで味があるのだが、あれだけ仲睦まじくしている様子を見せられた後だからなぁ……。

原作だとこの後はどのように書かれているのだろうか。
映画がこれだけ面白いのだから原作も面白いのは間違いないと思うし、読んでみたい気持ちもあるが、続編への望みを抱いて楽しみに待ちたい気持ちもある。
うーん、幸せな悩みだ。

〈了〉



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