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スレンダーライン

しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説です。
テーマは、ダイス に続き 「スレンダー」 です。

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「スレンダーライン、っていうのがあるんですね」彼女は言った。気に入ったのだろうか。
わずか7、8畳の小部屋の中で、僕らは四方をずらりと純白のドレスに取り囲まれていた。細かな刺繍が入ったもの、網のようなもの、さらさらしたもの、つるつるしたもの――布にこれほど無限とも思えるバリエーションがありうるだなんて、考えたこともなかった。

それらを式場スタッフが一つ一つ説明してくれており、僕は一体いつ終わるのだろうかという疑問を抑えつつ話を聞いていたのだった。そして、彼女が自分のアンテナに引っかかったものをいくつかピックアップし、僕はそのうちのいくつかに対して彼女に似合いそうだと思われる理由を丁寧に述べ、帰路についた。

「昔々の話なんだけど」駅から家に向かう道を歩きながら、彼女が言った。
「スレンダーな人が好き、って言ってた男子がいてさ。なにかの会話でちらっと聞いた程度だったんだけど。私そいつのこと好きで。すっごいダイエットしてから、告白したんだよね。半年くらい、超ストイックな食事制限して、毎日ランニングと筋トレまで」
「それはすごい」
「ところが、普通に振られたわけ」彼女は肩をすくめる。「ダイエットしたことにすら気付かれずに。今より5キロくらい、いやそれ以上痩せてたっていうのに」
「今くらいがちょうどいいよ」ちょっとふっくらしてるくらいが丁度いいんじゃない、とだけは言ってはいけないことを僕は知っている。デリケートな話題なので、それ以上は言葉を重ねないようにしておく。

「結婚するの、そんな鈍感な人じゃなくてよかったな」彼女は僕を見ておかしそうに言った。
どきっとする。先週昼間から一緒に出かけた日、彼女が新しい色のアイシャドウを使っていることに夕食を食べているときになって気付いたことを思い出し、反省した。
前髪を切った日も、ポニーテールの位置がいつもとちょっと違った日も、新しい靴を履いていた日も、彼女のことならすぐに気付ける。彼女のこだわりには全部気付いて、ちゃんと褒めてあげたいと思うのに、メイクだけは、どうにもちょっと難しい。

「ねえ、幸せ太りしちゃったらどうしよ」
「うーん、一緒に走ったりすればいいんじゃないかな。あとは、おからとかこんにゃくで作れて美味しい料理のレシピ勉強するよ、作ってあげる」
彼女には「言ったね?1cmでも太ったらあなたのせいだからね!」
と言われてしまった。
き、気をつけよう。

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次回は
スレンダー → 「ダークマター」です。
友人の、なしころもサクサク(@jupiter_00270)が担当します。

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