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誕生日だけは、覚えている

今の会社に入って、5年が経とうとしている。
仕事場では各メンバにデスクが与えられ、PCを置いていく場合はデスクにしまって鍵をかけて帰る。

デスクの鍵は、4桁のダイアルロックだ。

浅はかな私は、入社当時付き合っていた恋人の誕生日に設定してしまった。

この鍵の番号を変更するには、非常に面倒な手続きが必要だとも知らずに。

よくある話なのだろう。
学生の時に付き合い始めた人で、私が一足先に社会人になった。
生活や考え方がすれ違うようになり、入社から半年と少しが過ぎた頃に別れた。

今では、彼もとっくに社会人になっている。
5年も経てば、見た目も変わっているに違いない。
ビールでお腹が出ているかもしれない。激務で痩せ細っているかもしれない。
もう実家暮らしじゃないかもしれない。

彼はどんな音楽をよく聴いていたのか、どんな食べ物が好きだったのか、どんな話し方をしていたのか、もう忘れてしまった。

今の彼について、知っていることは何もない。
誕生日の4桁だけが、もはや意識すらしないほど日常のものとして私の生活の中に残った。

昨日も今日も、おそらく明日も、
彼の誕生日をセットして私は仕事を始める。

4桁の数字ではなく1人の人間としてどこかで生きている彼が、元気にしていればいいなと思う。

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