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[手芸の行事] 七夕はおそうめんを食べて手芸上達祈願する日だった

って、ご存知でしたか?
てっきり、好きな願い事を書いて竹笹に飾る日だと思っていました…よね…!?
(数年前までの私です)

「お願い事をする」

もちろんそれこそが七夕の起源。でも、当初はなんでもお願いしていたわけではないようで。

七夕の歴史はかなりディープで地域差もありますが、今日は「七夕におそうめんを食べるとなぜ手芸の上達祈願になるのか」にスポットをあて、調べたことをカンタンではありますがシェアしてみたいなと思います。

手仕事好きのみなさん、良かったら今夜は、おそうめん食べてくださいね。(UPするのこんな時間になっちゃったけど・・・!)

七夕の起源は中国の「乞巧奠」

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6C中頃、『荊楚素歳時記』という記録書に登場する「乞巧奠」。これが宮廷行事として定着したのが、日本行事としての七夕の始まりといわれています。
伝来の時期については「ここ!」と定かには言えないようです。様々な儀式や由来が時期を別にして渡ってきたのが実態でしょう。

さて、この元祖七夕である「乞巧奠」とはどんな儀式だったのでしょう? 実際の記録を要約してみました。

七夕の夕方に美しい色とりどりの糸や7本の針を飾る。金や銀などの貴金属で針を自作する者もいた。庭に筵を敷いて机を置き、お酒や肉、瓜の実などのご馳走を並べ、お裁縫や機織りなどの手芸の上達祈願をする。蜘蛛が瓜の上に巣を張ったら願いが叶う。

このように、はっきりと手芸の上達祈願祭であると記されています。

更にこれより前、2C後期には『四民月令』という12ヶ月の行事をまとめた記録書の七夕の記載があり、早くも牽牛と織姫に祈願していたことや、曲を作ったり害虫除去の薬を作ったり、本や衣類の虫干しをしていたという記録も。手芸だけでなく、書や雅楽など文化的技芸の上達祈願も行われていたことがわかります。

(ちなみに2Cの日本は弥生時代です・・・!)

日本伝来に関する3つの時代

七夕の日本伝来には、大きく分けて「5C代」「7C後期」「8C後期」と3つの大きなキーポイントがあったのではないかと考えられます。

このうち今回特記したいのは8Cの奈良時代、宮廷行事の様子です。当時宮廷行事で使用された実際の品のうち、7本の針3色の色糸「縷」(白糸、黄色、赤色の絹の糸玉や糸束)は今も正倉院に所蔵されています。

 (儀式で使用した針と糸が残っているなんて興奮・・・!)

針や糸の他にご馳走(夏の食べ物や中国から伝わった索餅など)を飾り宮中行事をしていたこともわかっています。まさに中国の「乞巧奠」と同じですね。

また、女性陣と男性陣で分かれて座し、歌を詠み合う遊びも行われていたとか。対岸に離された織姫と牽牛に自分たちを見立て、ロマンチックにこの日を過ごしていたのでしょうか。万葉集にも七夕に関する詩歌が残っています。

(現在では旧暦の七夕に、冷泉家が乞巧奠をされています。コロナ期に入る前は観覧可能なイベントだったようですが、お写真だけでもまさに!といった様子が感じられますので、ぜひ検索して見てください)

そうめんの元となったのは「索餅」という食べ物

祭壇に供される夏のご馳走というのは、スイカや桃、きゅうりや茄子など、旬のもの。そして特別な日だからこその肉類やお酒、索餅だったそう。神様にお願いする際の捧げ物として、その時期に1番美味しいものや手に入りにくいものを捧げるのはごく自然なことですね。

ところで、疑問に感じませんか? さらっと登場したけど「索餅」とはなんぞや・・・と。

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これです!

 (去年初めて食べたのですがとっても美味しく、今年も買えば良かったと後悔しています。。)

索餅は、米粉や小麦粉を練って硬く仕上げた食べ物。奈良時代(8C)に中国から伝来しました。乞巧奠と一緒に伝わった可能性もありますが、はっきりしません。見た感じはお菓子のようですね。当時のものとどれくらい近いのかはわかりませんが、砂糖の甘さではなく粉本来の地味深い甘味があり、とても硬く食べ応えがありました。

日本では古代から稲の裏作として小麦を栽培していましたが、米も小麦も、とにかく粉にするのが大変。平安時代(9C)に回転式の石臼が登場しますが、それを使ったものを食べられるのは貴族のような位の高い人たちだけでした。奈良時代の索餅がいかに貴重な嗜好品だったか想像されます。

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これを細く伸ばし油を塗って乾燥させたものが現在のそうめんといわれており、鎌倉時代に今に近い形になったというのが定説のようです。

江戸時代になると、やっと一般層にも回転式石臼が普及します。更に中期以降、水車が都市部に広まり、一気に小麦製品の大衆化が進みました。それまでとても貴重な食べ物だった小麦製品が人々の暮らしに浸透してきた痕跡が、浮世絵や時代劇などからも伝わってきます。

七夕行事が一気に庶民に広まったのも江戸時代。地域によってはお盆などとも習合し、身分を問わないお祭りとして独自の進化をしていきます。

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生命力の象徴として竹がメインで登場するのもこの時代(それ以前の記録を見ると別の植物を使った儀式が主だったようですがこの話はまたの機会に・・・)。ここから行事のスリム化が起き、近代化とともに豊作祈願や大量祈願、金運上達など、さまざまな願いを込めた七夕飾りが竹に吊るされるようになっていきます。

乞巧奠の頃から「飾る」というのはキーポイントですし、日本での儀式では早々に聖なる植物が登場します(そもそも庭でやる行事なので植物ありきの環境です)。スペースや手軽さといった意味から、それらが一つにまとまったという側面もありそうです。「竹に捧げ物(=願い事の象徴)を吊るす」と簡潔にまとめたからこそ、庶民の間で広まったとも言えるかもしれません。

ちなみに索餅は糸の束を模して作られているそう。これがそうめんを「白い糸に見立てる」ということにも引き継がれている気がします。当時の糸は庶民には高級だったため、大量生産できるようになったそうめんを代用としたという説もあるようです。

索餅に似た糸束

確かに似ている・・・!

竹の糸

 (これは竹の繊維で作られた糸。いつか七夕のワークショップで登場させたいと思っています)

織姫さまが「織りの名手である」からこその意味

ここまででわかったこと。

☑︎七夕は中国の手芸(技芸)上達祈願祭が日本に伝来したもの
☑︎そうめんは糸に見立てた当時の高級品「索餅」がルーツ
☑︎江戸時代に庶民のお祭りに変化。近代にかけて裁縫上達祈願の意味合いがなくなり広義の意味での願掛け行事となった

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最後にここに添えたいのが

☑︎織りの名手である織姫さまがいるからこそ、七夕に裁縫上達祈願をした

ということ。2Cの『四民月令』に「牽牛織姫」の名前が登場している通り、星読みと治世の関係が深かった中国では、古代から占星術が発達していました。おそらく七夕祭りはもともと、織りの神様に手仕事の上達をお願いするという、極めてシンプルなお祭りであったのでしょう。

シンプルとはいえ、そこに込められた願いはかなり本気のものだったのではないかなと思います。中国でも日本でもどこに住むどんな人にとっても、「衣服を用意する」というのは命に関わる大切な仕事でした。今のように服は売っていません。作るための布も糸も売っていません。針も簡単には手に入りません。植物を育てるところからのスタートです。

布を作り仕立てるという仕事を農業や家業の合間にするのは、ほとんどの地域で女の仕事だったようです。特に寒い地域では、身に纏うものがないということは死に直結します。食べるものがなくても数日は生きられますが、雪の中を身一つで何時間生きられるか・・・衣服以外に、寝具なども欲しいところですよね。

当時の人たちが針を自作してまでお祈りをするというのは、ただ「針仕事が上手になりますように!」という明るい気持ちだけではなく、もう少し切実なものも含まれていたと想像できるのです。

糸だって布だって、とても大切な宝物だったことでしょう。ご馳走と一緒にそれらを神様にお供えするという行為に、それが表れています。

やがて糸を供える文化がそうめんに変わり、お裁縫が我々の暮らしの必須業務でなくなってそうめんも消え、「星に願いを」の風習だけが残ったものと思われます。

7月7日は道具を労い、自分の手を労い、おそうめんを食べよう

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このことを知ってから、毎年七夕当日、もしくは七夕前に、ワークショップやトークイベントをするのが恒例になりました。

最後に、今年のワークショップでお伝えした七夕の日にすることの振り返りを載せておきます。

☑︎水浴びをする(お風呂でいいよ)
☑︎お道具を清める
☑︎針に5色の糸を通す
☑︎竹(梶、楸がルーツ)に5色の糸(紙)を飾る
☑︎おそうめんもしくは索餅(糸の見立て)と旬の食べ物を頂く

この全てに由来や歴史があります。

その他にも、「なぜタナバタと読むのか」「男女神(織姫と牽牛)である必要性」「牽牛の役割とは」「一夜妻信仰」「日本古来の機織り集団について」「短冊について」「七夕飾りの意味」「五行色について」など、七夕にはまだまだまだまだ! 興味深いお話がたくさん。ワークショップでも少しづつお話ししていますが、手を動かしながら聞いてもらうのでなかなかじっくりとはいかず・・・

機会があればまた文章に残してみたいです。

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それではみなさま、ステキな七夕の夜を!

(ちなみに私は、朝風呂に入った後、カッペリーニ風のおそうめんを食べました!)

※本来は七夕の夕方に行う行事です。とはいえ今は今の生活スタイルに合わせて、無理せず楽しくがいいですね☺︎

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