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【詩】あなたという山/水川都

あなたという山/水川都

ミチコちゃん、あなたが小学校の先生になったら、いろんな子供たちがあなたという山に遊ぶだろう。

コザルやコジカやオタマジャクシやヒナがあなたを駆け巡り、木から木へ飛び回り、葉っぱをむしったり土に潜ったり水浴びをしたりするだろう。

あなたはちょこまか駆け回る子供たちを愛おしみ、自由な姿を愛でるだろう。
木から落ちて怪我をしたら心配するだろう。自分の木が折れたことを怒るなんて思いつきもせず。
こりもせずまた木に登る姿をはらはらしながら喜ぶだろう。

多くの子供たちは、そんなふうに山に愛されていたこと自体気付きもせずに、あなたという山を去り、旅を続けていくだろう。振り返りもせずに。

怪我をした子供は留まるだろう。
あなたは暖かい落ち葉が敷き詰められた洞穴に怪我をした子供を導き、静かに癒すだろう。
そしてその子も山を去る。
あなたは寂しくも誇らしく見送るだろう。

子供たちが思うがまま折ったりむしったりした枝葉、子供たちを思うあなたが散らした葉っぱで山の地面はふかふかだ。
山は傷つきながら、豊かになる。

そして春がめぐってくるたび新しい子供たちがやってくる。
彼らが遊ぶ落ち葉はあなたの苦悩だったり優しさだったり、そんなことは想像もせず遊び散らかしながら成長していく。
自分ひとりで成長したつもりであなたにずっと抱かれている。

ある子供は親になったときあなたを思い出し、あんな山で子供を育てたいと思うだろう。
ある子供はずっと年老いてふとあなたのもとを訪れるだろう。
そのときもあなたはそこにいる。
彼らは自分のつけた傷跡を懐かしく見つめるだろう。
自分が前を向いて走っている間も山がそこにあり続けたことに安らぐだろう。

ミチコちゃん、あなたはそういう山になれる数少ない人だと思う。
すでになってる。

(過去日記、教員を目指していた友達へ)

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