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大恋愛

2年ほど前の話。

大学時代に付き合っていた人と、イオンモールですれ違った。

彼は、1人で歩いていた。

私は、子どもをミッキーのキャラクターカートに乗せて歩いていた。


彼を見つけた瞬間、なぜか「恥ずかしい」という気持ちでいっぱいになった。
今の私を見られたくなくて、下を向いて歩いた。


2005年、小説から始まった恋

出会いは大学。

彼はロマンチストで、いま振り返ると情緒不安定な人だった。

約3年半付き合ったが、その中で3回か4回、別れたり元にもどったりを繰り返した。

「別れよう」というのはいつも彼で、「やっぱりやり直そう」というのも彼だった。


彼とは、本や音楽の話をよくした。

彼を好きになったきっかけは、金城一紀の小説「SPEED」を持っていたことだ。

私も同じ本を持っていた。

高校時代、小説の話ができる男子なんていなかったので「これは運命の出会いかもしれない」と思い、恋に落ちた。

それが、18歳の春の話。


付き合う前に、オススメの小説を貸し合うことになった。

彼が貸してくれたのは、石田衣良「1ポンドの悲しみ」。

百キロ離れて暮らすカップル。久しぶりに再会したふたりは、お互いの存在を確かめ合うように幸せな時間を過ごす。しかしその後には、胸の奥をえぐり取られるような悲しみが待っていた――。

集英社


私は、島本理生の「一千一秒の日々」を貸した。


オススメの曲も教え合った。
彼はアンダーグラフの「アンブレラ」。

https://youtu.be/70Jm57nbPlk

君にそっと降る雨避けてあげれる僕でいたいから
やがて止んだその後でもね
隣でギュっと手を握っていたいから


私はMCU feat.Ryojiの「いいわけ」。

抱き合って 笑いあって 語り合って 今になって僕が
君を失ってしまうのは
つらいよって つらいよって つらいよって 泣いた
君を見失ってたんだと 気付いた

…私は、空気が読めてなかった。
いくら好きな曲でも、これから付き合いたい人に教える曲じゃない。
失恋ソングを教えるなんて、何も分かっていなかった。

お互いに付き合うのが初めてだったので、恋愛に夢を見過ぎていた部分もあった。

名作と呼ばれる作品を観たり 聞いたり 読み漁ったりして
大人を気取って 少し無理して暮らした

付き合い始めに発売されたアルバムに、収録されていた曲。

自分たちのために書かれた詩だと思って、何度も聞いた。

何物かになりたかった私達

私も彼も、小説家になりたかった。

人とは違う、特別なモノの見方をしていると思っていた。
自分は何者かになれると信じていた。

しかし大学生活は、授業とアルバイト、恋愛と飲み会であっという間に過ぎていった。

2人とも、創作物を残せずに4年間のモラトリアムは終わった。

そして、卒業と同時にこの大恋愛は終わりを迎えた。

「この町で出会って 私 あなたに恋をした」

…当時、カラオケでよく歌ってたなぁ。


2011年の違和感

彼と最後に会ったのは、東日本大震災が起きた年だ。

このまま会わずに死にたくないな、と思い、私から連絡した。


数年あっていないブランクを感じないほど、話すと本当に楽しかった。
小説、音楽、映画、ドラマ、美味しい食べ物、ムカつく職場の人の話、昔話…。


でも付き合っていたときのような、特別な感情は湧かなかった。
あの頃好きだった彼と、目の前にいる彼は、違う人だった。


山田詠美の小説に「僕は勉強ができない」という作品がある。

その中で主人公の彼女が、元彼とセックスをするシーンがある。
「2人の間の、懐かしいことの一つだから」と言って。


彼に会ったら、私もそんな気持ちになるのだろうか、と思ってたけど、ならなかった。

後になって かなりこたえた
あなたを失うってことは
世界で一番の友達も失うってこと

…本当に、そう思う。


選ばなかった方の人生は、輝いて見えるものだ。

もしも私達が別れずに、付き合っていたとしたら?

楽しく暮らせていたのかな?

子どもの名前を、ミスチルの曲名から付けていたのかな?


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あの頃、ベッドの上に全てがあった

彼は、私が結婚したことを知っているだろうか。
母になったことを、誰かから聞いただろうか。

何物にもなれずに、でも平凡な幸せを手に入れた私を知ったら、どう思うだろうか?


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彼と過ごしたあの日々は、私の人生の中でも特別で、いまでも宝物だ。

たくさんワガママを言って、たくさん傷つけたけど。

一緒に過ごした3年半が、彼にとって、良い思い出であって欲しい。


彼はよく「人生は、このベッドの上だけで良いのにね」と言っていた。

暖かくて、幸せで、心が満たされているから、他にはなにもいらないという意味だった。


今の彼にも、そんな場所がありますように。

幸せであるように こころで祈ってる
僕も出会うように
君も出会うように


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