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みちのくミステリミーティングを拝聴してきました!

 2024年6月15日(土)に岩手県盛岡市の「書肆みず盛り」さんで開催された、みちのくミステリミーティングに参加してきました!
 『現代ミステリはなぜ永劫館を生んだのか』というイベントのタイトルどおり、2024年3月に星海社から刊行された本格ミステリ作品『永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした』のトークイベントです。

今回のイベントの概要

 こちらのイベントは、限界研『現代ミステリとは何か 二〇一〇年代の探偵作家たち』というミステリ評論の書籍の関連イベントになります。

 上記の書籍は、二〇一〇年代のミステリ話題作とその作品らに共通してみられる<特殊設定×ミステリ>という要素についての論集で、今回のイベントにはその執筆者(論者)の中からお二人が登壇されます。
 登壇される御三方は以下。

 ミステリ評論家 坂嶋竜さん 蔓葉信博さん
 小説家 南海遊先生

 ↓前回のイベントレポ。

 前回の京都に引き続き、テン年代以降の特殊ミステリ作品について語るイベントなのですが、今回はなんと! 作品の作者様ご本人が登壇し、限界研のミステリ評論家お二人に囲まれ、根掘り葉掘り聞かれてしまうというスペシャルな回。(冷静に考えるとこれ穏やかな公開処刑では…/そしてそれを娯楽として観覧する民衆の気持ち)

 前回の法月綸太郎先生の時は、ミステリ作家の大先輩からテン年代作家さんの作品に対する温かくも鋭い批評と興味深いお話が沢山聞けてとても楽しかったのですが、あくまで他のテン年代作家さんの作品を論じるというのがメインだったので、法月先生ご本人の作品についてはあまりお話しされていませんでした。
 今回は著者である南海遊先生ご本人が、ご自身の作品について話されるということで、制作秘話や裏話などが期待されますね!

永劫館超連続殺人事件とは?

 イベントレポの前に一応作品についての概要を貼っておきますね。
 このレポを読もうとした方には既に説明不要かとは思いますが、中には気にはなってるけどどんな感じなのか知りたくて…みたいな方がいるかもなので。

『館』x『密室』x『タイムループ』の三重奏(トリプル)本格ミステリ。
「私の目を、最後まで見つめていて」
そう告げた『道連れの魔女』リリィがヒースクリフの瞳を見ながら絶命すると、二人は1日前に戻っていた。
(中略)
大嵐により陸の孤島(クローズド・サークル)と化した永劫館で起こる、最愛の妹の密室殺人と魔女の連続殺人。そして魔女の『死に戻り』で繰り返されるこの超連続殺人事件の謎と真犯人を、ヒースクリフは解き明かすことができるのかーー

Amazon.co.jp 永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした

 上記は密林さんのページに貼ってある引用なので、ここからの文章は公開されている程度の内容バレはあると思ってお読み下さい。(それ以上のネタバレは随時バレ警告を挟みます)
 トリックや真相に触れるネタバレは伏せますが、ミステリ読み慣れている方とかはピンときてしまう可能性は大いにあるので「真っ白で読みたい!」って方は、先に作品を読了されてから記事をお読みいただけると幸いです。

イベントへ…の前に

 イベントは17時〜19時までの2時間の予定で開催されました。
 前半1時間→休憩→後半1時間、という構成です。
 が!……すみません、開始時間を勘違いして、前半に出席できませんでした……_(:3 」∠)_
 既にもう、イベントレポとは…という状態ですが、そもそもこの記事は自分の思い出備忘録なので大目にみてください……。
 行けなかった方のために後半だけでもお裾分けしておきますね。

(以下、余談です)
 単純に間に合わなかったのなら諦めもつくのですが、午前中に会場の裏の駐車場に停めて会場の位置をバッチリ確認して16時には駐車場戻ってたのに、あまり早く行ってもご迷惑かなと10分前まで本を読んで待機していたのがめっちゃ悔やまれるっていう。
 でも、おかげで内容バキバキに入ってる状態で行ってるから、それはそれで! …と思いたいです。
前半含む詳細なイベント内容は、いずれ限界くんが呟いてくれるそうなので、公式まとめを待ちましょう。

 じゃあ、私は何をこの記事に残すのか。もちろん私の感想です。
 お話を伺って「私が何を感じたか」という内容なので、全てあくまで私の個人の主観ですし、聞き間違いや話の内容や順序に記憶違いがあるかもしれませんが、ご了承くださいませ。

トークイベント後半戦!

 己の勘違いのために、めっちゃ温まってる感のある会場に単身乗り込む時の気持ち……おわかりいただけるだろうか……。
 ちょうど休憩時間だったため、途中でお話を妨げることがなかったのが不幸中の幸い……。
 ですが、会場であるお店「書肆みず盛り」の方も優しく対応してくださり、みなさんドンマイ空気で迎えてくださって救われました。
 入ってすぐに平謝りする私に「大丈夫ですよ」「後半だけでもぜひ」「前半はまた何かで」と優しいお声がけをしてくださる登壇者の御三方。笑顔があったけぇよ……後光が見える……この暖かさに泣くわ。本当にすみません! ありがとうございます…!
 そして、遅刻の戦犯なのに、前列のめっちゃいい席が空いてるっていうね。ええんか?
 いや、わかるよ、そんなド真ん前でオーラ浴びたらファンは溶けるもんな。私も前回は一番遠い席で心臓守ったもん。けど、まあ、お陰様で、今回は無敵ですよ。これ以上何も震え上がることないしな。ということで、前回とは違い、変に冷静になって落ち着いてお話が聞けました。

 蔓葉さんと坂嶋さんは前回のイベントでお顔を見たことがあったので、消去法で真ん中の席に座ってらっしゃるシュッとしたお兄さんが南海先生なんだなっていうのはパッとわかりました。
 好きな作品の作者がどんな方なのか気になる人もいるかと思うので、私の印象になりますが、おしゃれ眼鏡の似合う笑顔の素敵な好青年て感じの方でしたよ。(実は会場入る前にすれ違ったのですが、その時はまさか先生とは思わず…)
 というか、私が肉眼で見たことあるミステリ作家の先生がた、みなさん温和で柔らかな印象だったり明るく笑顔が素敵だったりするんだけど、作品中ではエグイ犯罪やら大量⚪︎人してんだから、つくづく作品と人は別だよなって。

 で、会場はそんな笑顔あふれる温かな雰囲気の中、密室殺人の話が続いております。
 ちょうど、作品のキーワードの一つである<ループ>についてのお話の続きというところだったようで、その流れで装画を担当された清原絋先生のお話に。

表紙について

 清原先生は、綾辻行人先生作『十角館の殺人』のコミカライズ版を担当された作家さんとしてもミステリファンの間で広く周知されているのではないでしょうか?
 超絶美麗なタッチで描かれた表紙のリリィ。南海先生ご自身も大絶賛されていました。画力の高い信頼ある作家さんの手によって、自身の生み出したキャラクターが視認できるっていうのは本当に嬉しいだろうと思いますし、読者の側から見ても「ああ、リリィがいる!」ってなる表紙。
(以下、微ネタバレ)
 でも、それだけじゃないんですよね。私も読んでいて感じていたんですが、この一度目があったら逸らせなくなる吸引力の高い表紙、中身読んだら、さらに納得の仕事なんですよね。南海先生のお言葉を要約すると、この表紙、「表紙のリリィと目が合うことで読者は、この結末の世界線に道連れになっている」というメタ構造。もう、読者も清原先生に大感謝ですよ。こういうの大好物なんで、ありがとうございます!
 個人的に、読後に本を閉じた時に解る系の仕掛けとか好きなんですよね。構成だったり、表紙絵だったり、タイトルだったり、内容が面白いことにプラスした要素として、本自体に何か仕掛けられている作品が好きなので、今回も読みながら「そういう意味でこの表紙なのかな?」と思っていたので、先生の口から明言されて嬉しかったです。

物理トリックと特殊設定について

 この作品は<ループ>が需要なキーになるミステリですが、永劫館というタイトルから館モノを期待されると思うので、もう少し館要素があっても良かったのでは? というお話が評論家お二人からありました。
 作品が世に出る前の段階で読まれた坂島竜さんも、トリック自体はシンプルなので、試読段階でそれは指摘していたとのこと。
 しかし、それ以上に<ループ>要素を使ったトリックが素晴らしいので、充分「これは凄い作品だ!」と感じたので、推したそうです。
(以下、微ネタバレ)
 ご本人としても、物理トリックに関しては「そんな長いピアノ線あるのかw」など思わないでもないと仰られていました。
 確かに、物理トリックが易しいというのはあると思います。
 だって、めちゃくちゃフェアで親切なんですよ。物理はわかれよと言わんばかりの親切設計。密室殺人に使用されるものは全て丁寧に読者の記憶に残るよう描写に出て来るし、図面も色んな角度から細かく掲載されている。ミステリを読み慣れている人であれば、「これが出て来たらこう使うんだろうな」「この舞台設定でこの位置にこれがあるということは、こうか」という推測がちゃんと出来るようにしてあるんですよね。
 逆説的に、そこまで解るようにしてくれている段階で、それを解かれても痛くもかゆくもない自信がある作品であるということです。
 私個人としては、この作品は要素のバランスが素晴らしいなと思っていて、館モノを期待して買うと確かに前半は物足りないかもしれないんですが、坂嶋さんも仰る通りメインは<ループ>のトリックなので、物理であんまり複雑なことをしてしまうと、ごちゃごちゃするというか、どこに作品の胆があるのかフワッとしてしまうと思うんです。
 <魔女>の能力と<ループ>を駆使して、その魅力を読者に伝えるには、物理トリックはあくまでサブ要素でなければいけないのではないかと。
 しかし、その物理をしっかりやること、そしてそれを論理的に解き明かす<名探偵>を配置することで、<魔女>や<ループ>が存在する世界の特殊設定ミステリを、何でもアリではないフェアな本格ミステリにしているのではないかと。
 <物理>と<特殊>、<名探偵>と<魔女>それぞれの要素に関わるキャラクターが魅力的に描かれ、相乗効果で作品を面白くしてくれているのもいいんですよね。
 それらの作品の魅力を構成するバランス配分がとても見事だなぁと感じました。

タイトルについて

 <永劫館>というワードの流れでタイトルについてのお話に。
(以下、微バレ)
 館の名前は最初、<落淚館>だったそうです。
 ただ、こちらは少し物理トリックのネタバレになるため、メインである<ループ>要素を押し出したタイトルにしようということになり<永劫館>に。案は星海社の太田社長とのこと。社長自らの案とか凄い。いい名前ですよね、<永劫館>。
 南海先生としては、「超連続殺人事件」は半ばヤケクソ的に考えたもので、本来はサブタイトルの「魔女はXと死ぬことにした」が元々先生の考えていたタイトルだったそうです。
 上記のように色々あって「永劫館超連続殺人事件」になったものの、ご本人としては「魔女はXと死ぬことにした」を気に入っていたので、絶対残したかったということでサブタイトルになったそう。
 蔓葉さんからは「各章もサブタイトルに習った章題になっていて、かっこいいですよね」というお言葉もあり、みなさん結果的にはこのタイトルでよかったよねという感じでした。

作品の舞台について

 現代を舞台にしなかったことには特に理由などあるのか、というお話の流れに。
 特にこの時代背景でやろうと最初から決めていた訳ではないそうで、<魔女>や<ループ>という素材が先にあり、そこから固まっていったそうです。固める過程で入れたい要素を入れていき、「永劫館」の世界観が出来上がったと。南海先生も「うみねことか好きだったので」と仰っていたので、私もなんか納得してしまいました。
 他の作品の名前を出すのは失礼かなと思って言わなかったんですが、ご本人の口から出たんだもの。いいですよね?
 やはり、<密室><魔女><ループ>この要素で、私世代は「うみねこの鳴く頃に」を想起しないのは無理なんですよ……。なので、「永劫館」の読み始めはキャラや雰囲気に懐かしい匂いを感じてしまったというのが本音。
 ですが、中盤くらいになると「うみねこ」は頭から離れて、「永劫館」の作品世界に没頭できるので、未読の方は全く気にせず読んでほしいです。

 舞台が現代ではないということで、途中、剣でのアクションシーンもありますよね、という流れに。
 蔓葉さんの「バトルシーンも良いですよね」というお言葉に、南海先生も「もし作品が映像化するなら、バトルシーンは映えるから入れたい要素だった」とのこと。
 今回は時代背景的に剣だけど、元々は体術系のバトルもお好きとのことでした。ケインの格闘シーン観たいです。ぜひお願いします。(今度は推しの勝つとこみたい……)

好きなミステリについて

 先ほど「うみねこ」の話が出ましたけど、好きなミステリとかミステリ作家さんはいらっしゃいますか? というお話に。
 南海先生は、特にミステリに特化して読んでいる訳では無いそうで、他のジャンルも読むので、ミステリで挙げるならという事になりますが……という前置きがありつつ、「好きなミステリも沢山ありますし、ミステリ作家は基本的に全員尊敬しているのですが、誰か一人を挙げるなら、「すべてがFになる」の森博嗣先生です」とのこと。
(以下、微バレ)
 あぁぁ、わかる~……ってなりますね。
 私もめちゃくちゃ好きな作家と作品なので、森ファンとしての共感の意味もあるのですが、「永劫館」を読んでいて、リリィの死生観のズレというか、感覚の浮世離れした感じが、どこか真賀田四季の匂いを感じさせるなぁとも思ったので。
 ですがそれ以上に「すべてがFになる」も、物理トリックはフェアに解けるように出来ていて、かつ<F>の謎に「あああああっ」てなってタイトルに唸る作品なので、「すべてがFになる」を挙げられたことに納得。
 作品を形作る姿勢のようなものが重なるなぁと感じました。

 他にも沢山面白いお話はあったのですが、裏話的なものやぼかしようのないガッツリネタバレを含む話は私には書くことが出来ない為、限界くんの報告待ちということで……。

最後に、この作品について

(以下、ラスト微バレ)
 今作の「永劫館」を書く際、「あなたは一人ではない」というメッセージを大切に書かれたとのこと。「永劫館」は本格ミステリ作品という形で世に出ていますが、「ミステリというのはあくまでメッセージを届けるためのツール(表現)のひとつ」であり、作品の読後感は「明日も頑張ろうと思えるものにしたかった」そうです。
 あくまでそれは南海先生自身の作品の話で「もちろん、トリック重視の作品もいいし、重い気持ちになる作品だって必要ですが、それは自分の役目ではないなと。そこは役割分担で、自分は今後も希望が持てる作品を書いていきたい」と仰られていました。
 ミステリ評論家のお二人に挟まれ、「ミステリは道具ですよw」と笑いを交えイジられていましたが、その道具を上手く使いこなし、伝えたいメッセージが真っ直ぐ届いた読後感の良い作品だと私も思いました。

質問コーナー

 申し込みフォームや会場の挙手であがった質問に答えて下さるコーナー。
 直接的なネタバレや今後のお話などは書けませんが、それ以外を少しご紹介。
 キャラに関するお話も少し聞けました。

 推しであるハンナについて語ってほしいという質問があり、そういえばキャラの話を全然してませんでしたね、と。
(以下、微バレ)
 ハンナについては、外のキャラに比べ「こういうキャラにしよう」というのが元々あったキャラではなかったらしいです。書いているうちにハンナになっていったようで、「キャラが勝手に動くというのには懐疑的なのですが、こういう事をいうのかも」と思ったそう。
 たしかに、メイドであるハンナは、リリィ(魔女)やジャイロ(名探偵)のような物語の構造上代理の利かない要素を持たないキャラだからこそ、人間的な魅力を感じる女性になっているのかもしれませんね。特にラストは可愛さ爆発ですし、質問者さんが推すのもわかります。

 他にも、「後半のヒースがめっちゃカッコイイんですよね!」という蔓葉さんの熱いヒース推し語りがあり、上記で書いた剣のアクションシーンや明かされていくヒースの過去などに会場一同頷きました。
 その流れで「ジャイロもいいキャラなのに、全然話さないままでしたね」と、ポロっと仰ったので、思わず「え!」って声が出てしまいました……。   
 いやいや、嘘やろ? ジャイロ抜きで前半何を話してたんスか? ってなったよね。いや、ほんま。
 てっきりもう語り尽くされたであろうと思っていたので、最初は質問コーナーに挙手しなかったんですが、話してないなら話は別です。(貴重なお時間に前半で話した事をもう一度させる訳にはいきませんし……と思っていた)
 推しであるケインとジャイロの話を聞かせてくれという欲望そのままの質問をさせていただきました。
 単純に好きなキャラだからというだけではなく、この二人は物語の構成上、この場(ネタバレOKな場)で語られるべき人物だと思ったので。
 ケインがブラッドベリ家に忠実であり、<遺言書を絶対に勝手に見せない事>や、ジャイロが有能な名探偵でありながら、<論理だけでは真実に辿り着くことが出来ない>ということも、「永劫館」における本格ミステリとしての背骨だと思うので、二人をどうしてこういうキャラにしたのか……は、やはり気になるじゃないですか。

 ケインのモデルとしてはバッドマンの執事のイメージで、とにかく忠実で有能な人と設定して創っていったそうで、南海先生ご自身としても気に入っているキャラだとのこと。
 なるほど! 具体的なビジュアルイメージできます! ありがたい!(リリィ以外のイラストがないので助かる~)
 派手に目立つキャラではないけど存在感があって、渋くて頼れる大人でありながら、どこか影のある感じ……好き要素がすぎる。
 そして、この記事書いててバットマンの執事に若き日のスピンオフ作品がある事を知る……ケインの若き日のスピンオフもぜひ……!(だって過去に何があったか気になるキャラナンバーワンでしょ……)
 というか、ケインの過去設定が元傭兵なわけですけど、デビュー作のタイトルに関係あったりしませんか……という希望を抱きつつそっちも読んでみたいと思います。

 ジャイロのモデルは、映画「レオン」の刑事のイメージで、薬を飲む仕草が気持ち悪いのが印象的だったので、そういう仕草に特徴を持たせようと思って、ジャイロをああいう感じにされたそうです。
 レオンの刑事も、麻薬捜査官なのに麻薬に手を染めていたりと刑事という立場なのに正し過ぎないところがあって、冷静で頭の回転が速くて捜査に迷いがなく、時には手段を択ばないトリッキーなキャラクターで、主役に引けを取らない印象の深いキャラですし、ジャイロに通ずるところも沢山ありますよね。

(以下、オタクの感想が続きます)
 トークの中で、「ジャイロは有能な探偵なのに、話の構造上、現実的過ぎるがゆえに真実に辿りつけないので、ちょっとかわいそうな役どころ」というようなお話があったんですが、そこがまさに私がジャイロ推す理由なんですよね。
 <探偵>と<探偵役/推理担当>が別というのはミステリ作品には珍しくなく、探偵が途中退場して他の人物が推理を引き継ぐとか、色々ありますけど、その理由が<探偵>が油断して殺されたり、身代わりになって死んだりと、本来の能力を発揮することが出来ないで退場というケースが多い気がするんですけど、ジャイロの場合はそうじゃないのがいいなって。ジャイロは<探偵>としての役目は果たしており、有能であるということを保持したまま、ヒースが<推理役>を担うしかないという構図がいい。
 ミステリ作品では、探偵役を引き立たせるために警察や関係者の知能を下げるという手法がありますが、そうではないのがいいし、それってかなり難しいことなんですよね。単純に作者が高い知能のままに探偵役を書いたとて、それは一般読者に伝わらなくなってしまうジレンマがあるわけで。そこを、読者にも分かるルールで、フェアに<有能なのに出来ない>を成立しているというところがいい。
 ので、ぜひ、ジャイロ主役の話でその有能ぶりを遺憾なく発揮していただきたい……!(前半でスピンオフの話くらい出てるだろうと思ってましたよ、ええ)

 とまあ、この二人が推しという段階でお察しかもしれませんが、個人的に解決編に入るまでヒースに対するヘイトが割と溜まっておりました。(正直)
 推しの仇というのは冗談として、元々、ダークヒーロー的なキャラだと思うので、みんなに愛される主人公! みたいなキャラ造詣されてはいないとは思いますけど、主人公の行動理由の根幹みたいなものが後半まで隠されているのでそれも仕方ないと思ってほしい……。
 で、私としては、ヒースにとっての二周目の夜の出来事で「そういうのはいいのにぃぃ……」となったんです。個人的には、あくまでも利害が一致しただけのバディであってほしかった……。
 の、ですけど! 最後まで読むと、それも印象が変わりました。あの件があったからこそ、男女のバディとして事件を乗り越えた世界線ではより強固な関係になっているというか。男女コンビでその辺の関係性がフワフワしているよりも、二人にとってもうあの一件は<過去>のこととして明言されているのが個人的には嬉しい。もちろん、この二人の関係性をどう読むかは読者次第ではあると思うので、あくまで私の好みの話です。
 結局、本を閉じる頃には、私の中で続編を読みたくなる主人公になっていました。次のお話を期待できる終わり方をしているので、彼らのその後を見られる日を楽しみにしております。

 と、キャラの感想が続いたついでに作品の感想も。

 上記の中でも私の感想を織り込んでいたので、散々言ったと思いますが、この作品に対する一番の印象は「フェアでかつ、超えてくれる!」でした。
 物理トリックに関してのフェアさは上記で触れましたが、<ループ>に関するヒントも丁寧なんですよね。どうしてそういう設定のキャラになっているのか……を考えたら、誰がどうだとかは見当がつくわけですし、それを示唆する描写も丁寧に描かれている。それも、さらっと読み飛ばしを狙った感じではなく、印象的に提示されているというフェアさ。(個人的には読み飛ばし狙いのどんでん返しとかも大好物なんですけど)
 読者がミステリに最も期待するものって<驚き>だと思うんです。人によっては、トリックだったり、動機だったり、結末だったり、色々だと思いますが、驚かせてくれることを期待して読む人は多いでしょうし、私もその一人です。だから、ここまでフェアにしておいて、どう驚かせるつもりなんだろう? と読みながら思っていたんです。(近年読んだ作品で、フェア過ぎるがゆえに予想通りの結末になっていたのが少し残念だった作品があったので)
 でも、「永劫館」はちゃんと驚かせてくれました。
 <ループ>世界と分岐についての収束のさせ方が凄いんですよね。
 特殊設定なんだけど、自分の考えたルールを読者に説明するだけになっていないというか。複雑なルールを聞いて「へー、そうなんですね」となるんじゃなく、ちゃんと「あ、なるほどね!」ってなる。
 個人的な感覚で言うと、解決に必要な道具は読者に解るようになっているのに驚けるというのが、マジックを見た時の驚きに近かった。これを使ってこうするんだろうなというのが何となく分かっても、それを目の前で鮮やかにやられるときの爽快感というか。すっきりする。
 分岐については、蔓葉さんは読みながらフローチャート書かれたらしく、「私もそれやりたかった!」って思いました。イベント前でバタバタしていてそこまでできなかったんですが、それやって読むと絶対面白い作品。(サウンドノベルが栄養食だった私にとって、こういう分岐とループを繰り返して解る繋がる要素がある作品は離れられない沼なんですわ……)
 二週目読む時にはフローチャート書いて読みたいと思います!

 ただ唯一、引っかかっていたことがあって「○○の○○を使うっていうのはダメなんですか?」というのをサイン(!)していただいた時に先生に直接聞いたんですが「それはもう〇〇だからできないんです。(作品中ダメな理由が明言されていないので)その指摘はもっともですが、この物語はヒースの視点なので」と解説いただき、視点人物が知ることの出来ない情報をご都合で入れないという潔さもいいなと思いました。

銀のペンを選んだら「リリィの色ですね」と返して下さるという粋なファンサ嬉しい✨

 後半だけでも大満足のトークイベント。盛岡に来るタイミングで開催されて本当によかったです!(文学フリマ東京38の時に限界研さんのブースで、「また関西でイベントやってください!」ってお伝えした直後だったので、本当に神タイミング)
 イベントを開催してくださった限界研さん、楽しいお話を聞かせて下さった、南海先生、坂嶋竜さん、蔓葉信博さん、雰囲気のいい会場を提供してくださった「書肆みず盛り」さん、みなさん本当にありがとうございました!

とりあえず、続編希望とファンレター書いたので送っておきます!

おまけ

 恒例の文学散歩メシのコーナー。
 当日のお昼ご飯は会場から徒歩圏内の「盛岡じゃじゃめん」さんに。

「盛岡じゃじゃめん」さんの外観。お店の方も親切で一見さんにも優しかったです。

 わたくし、人生初「じゃじゃ麺」でした!

 盛岡は何度も来ているのに、まだ食べてなかったんかい! って感じですが。盛岡の友人曰く、「麺にセメント色の味噌が乗ってるだけだよ?」と、言われていたので、他のものを優先してきたんですよね。
 いや、そうだけど! 全然それだけじゃねーじゃん! ってなりました。

見た目は超シンプル! だけど、これが深い沼だった……。

 ふんわりもちっとした食感のほっこほこの麺に、しょっぱすぎない塩味の味噌が絡まって……(まあ、たしかにセメントぽくはあるけど)、美味い……なにこの味噌……食べたことない味の味噌……白米にも絶対合う……。
 刻んだきゅうりが、塩味のとがった感じをまろやかにしてくれるのもいい。超いい仕事してるよ、きゅうりさん。
 そして、卓上に置かれた各種調味料で味変が色々楽しめる……最高やん……。
 そもそも、味噌だけでも充分美味しいのに、まだ先がある、だと……。
 お店の方や友人に説明してもらいながら食べましたが、ニンニク、しょうが、ラー油、酢、それぞれとっても美味しくて、掛け合わせると無限にいける気がしてくるこの味……。

 さらに、「チータンタン」というたまごスープの〆があるとか……!
 本来はお皿に少し麺を残して、そこに注いでもらうものらしいのですが、私は別で出してもらいました。選べるの嬉しい。
 そして、午前中冷房のききすぎた中で展示とか観ていたので、暖かくてやさしいお味のたまごスープが胃腸にもうれしい……。
 食べ終わる頃には、満腹になっていました。
 というか、うどんってこんな胃に溜まるものでした? めちゃくちゃ腹もちいいんですけど……。無限にいけると思って調子に乗らなくてよかった……。箸が進み過ぎる危険……。

 お店ごとに違うと聞いているので、今度行った時は他のお店も試してみたいなと思う反面、また次回もここの食べたいなってなるくらいめちゃくちゃ美味しかったです! ごちそうさまでした!

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