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柘榴忌に、鳥羽みなとまち文学館に行ってきました!

江戸川乱歩館、リニューアルオープン!!

消失前からずっつと行きたかった!!乱歩の名を冠する文学館!!

 言わずと知れた、日本探偵小説の父、江戸川乱歩。(乱歩については、名張か池袋の記事にまとめる予定ですので省略。書いたらリンクは貼ります。)
 そのゆかりの地、三重県鳥羽市にある、<江戸川乱歩館>(鳥羽みなとまち文学館)に行ってきました!!

 2015年に文学さんぽを始めてから、もう、ずっと行きたかったんです!でも、コロナ禍や自身の手術入院やらでタイミング逃していたら焼けちゃったんです……。
 しかし、奇跡の大復活を遂げ、2023年4月29日、リニューアルオープン!!
 周囲には火災の傷跡が今も残っており、その際に焼けて失われてしまった貴重な資料もあるようですが、地元の方が懸命に火災から守ってくださった書簡などは、ボランティアの方々の手によって補修され、その一部が館内に展示されています。

鳥羽みなとまち文学館とは?

 上では<江戸川乱歩館>と紹介しましたが、<鳥羽みなとまち文学館>と呼ぶ方が正式なのだと思います。

現在のチラシと旧乱歩館のガイド(旧版は配布終了)

 もともと<鳥羽みなとまち文学館>は、2002年に地元の商工会が、乱歩と親交が深く挿絵も担当した、画家の岩田準一の旧宅を改装し、孫である岩田準子氏が館長を務める<鳥羽みなとまち文学館>として、岩田準一や岩田が師事した竹下夢二といった鳥羽にゆかりある文化人関連の展示や鳥羽の文化を伝える施設として作られたものでした。
 そこから二年後、2004年に<乱歩館>と<書斎>の二棟を追加し、さらに二年後2006年に岩田家の土蔵を改修し、乱歩の作品世界を再現した<幻影城>がつくられました。
 なので、<江戸川乱歩館>も正式名称なのですが、<鳥羽みなとまち文学館>が先に建てられた経緯や、岩田準一など乱歩の展示だけではないことを思うと、<鳥羽みなとまち文学館>と呼ぶ方がよいのかなと。
 と言いながらも、言いやすいので話すときは<乱歩館>て言っちゃうんですけどw
 ※館内撮影OKとのことなので、資料などの一部の写真以外は記事に使わせていただいております。

受付の壁には特大サイズの大乱歩!!
幻影城とも呼ばれる蔵の中で、睦まじい様子の乱歩と隆さん。
入口の正面には二十面相の影……!!テンションぶち上がる!!
受付の天井を見上げると……。中には人形?それとも……?

乱歩と鳥羽①村山隆との出会い

 転職・転居(計46回)の多い作家として知られる江戸川乱歩。
 乱歩が鳥羽で暮らしたのは、作家としてデビューする5年前の24歳~25歳の頃で、1年3ヶ月という短い期間でした。
 しかし、暮らした期間は短くとも乱歩にとって鳥羽は、人間・平井太郎としても、作家・江戸川乱歩としても、大変重要な土地だと言えます。
 乱歩はここで、生涯の伴侶となる村山隆と出会い、結婚の約束をし、その後、東京で隆と結婚します。
 乱歩は大正6年11月、24歳の時に鳥羽造船所電気部(現・シンフォニアテクノロジー)に就職、翌年に鳥羽造船所の社内報『日和』の編集に従事します。この会社の寮で暮らしていた時の体験が「屋根裏の散歩者」を生むヒントとなり、鳥羽は「パノラマ島奇譚」のモデルの地として有名です。
 鳥羽造船所勤務時代、乱歩は社の同僚と一緒に<鳥羽おとぎ倶楽部>を設立し、劇場や小学校を巡回して子どもたちにお伽噺を聞かせる活動をしていました。その活動の中、坂手島で会を開くことになり、村山隆と知り合ったのだそうです。
 隆の実家は<村万商店>という雑貨商店でしたが、隆のお父さんは、店の経営は人に任せて、坂手島で当時唯一の教諭をしていました。その父が早くに亡くなった為、後を継ぐような形で隆も教員を目指します。母に女手一つで育ててもらい、亀山町の三重県立女子師範学校を卒業して、坂手村小学校の教員として勤務していました。
 乱歩が<鳥羽おとぎ倶楽部>の活動の打ち合わせで職員室を訪れた際に出会った女性教員が隆でした。
 乱歩は、都会的な感覚と先進的な考えを持つ、俗にいう<新しい女>の隆に惹かれ、鳥羽を離れた後も手紙のやり取りを継続し、想いを深めていきました。
 大正8年、乱歩26歳の冬、東京で支那蕎麦の屋台を引いていた極貧生活の中、乱歩に呼ばれ鳥羽を出てきた隆と結婚しました。隆の故郷には駆け落ちの噂も流れたそうです。
 昭和40年7月28日、乱歩が脳出血で亡くなるまでの長い間、乱歩の人生を支え続けました。
 誰もが知っている有名な文豪の妻としては、隆自身は表立って語られることが少ない印象なのですが、仲睦まじい写真や、乱歩が尻に敷かれるような関係が伺えるエピソードなども残っているので、極貧時代から戦争を乗り越え、強い絆で結ばれた夫婦関係であったのだろうと想像できます。
 乱歩が今も大作家として後世に語り継がれているのは、作家としてデビューする前に鳥羽で出会った隆の存在が大きいのでしょう。
 隆と結婚して、子どもが出来たことで、いつまでも転職を繰り返しているわけにもいかない!と、本気で創作に取り組むようになったのかもしれません。
 大正10年に長男・隆太郎が生まれた後、大正11年に「二銭銅貨」「一枚の切符」を書き上げ、馬場狐蝶(未読で返却)や森下雨村に送り、大正12年の『新青年』四月増大号で「二銭銅貨」が小酒井不木の「海外の作品に勝るとも劣らない」という熱い推賞文付きで掲載され、探偵小説作家としてデビューすることになるのですから。

 志摩はよし 鳥羽はなおよし 白百合の 真珠のごとき 君がすむ島

 この歌は乱歩が、妻・隆のふるさとである坂手島を誉めた歌です。
 文学館の入場チケットが、二十面相の栞になっているのですが、その裏面にも、こちらの歌が載っています。

旅の記念品が日常使いできるのって嬉しいですよね!

乱歩と鳥羽②岩田準一との出会い

 後に、画家・風俗研究家として名を残す岩田準一と出会ったのも、鳥羽時代でした。
 大正7年、鳥羽造船所に勤務していた乱歩が、当時中学生だった岩田準一の個展に訪れ、岩田の絵を見たことが切欠でした。
 岩田準一は、鳥羽で生まれ、後に竹下夢二に師事した画家でもあるため、乱歩の「パノラマ島奇譚」「踊る一寸法師」「鏡地獄」に挿絵を提供したことで知られていますが、柳田国男の主宰する『郷土研究』に寄稿したり、南方熊楠との往復書簡が残されているように、民俗学の方面でも知られている人物です。主に風俗研究、特にライフワークでもあった男色研究は、乱歩にも強い影響を与えています。
 乱歩の長編傑作として現在でも絶大な人気を誇る「孤島の鬼」は、乱歩作品の中でも珍しくはっきりと同性愛表現が描写されている作品(同性愛を匂わせる表現は他の作品の中にも多々ありますが)で、主人公・蓑浦金之助と諸戸道雄の関係性が物語の発端でもあり、事件を追う過程でも重要な要素となっており、また、結末の衝撃と余韻は、同性愛という要素無くしては、ここまでの作品になり得なかったと言っても過言ではない、重要なキーワードになっています。その、主人公・蓑浦のモデルは、岩田準一ではないかとも言われています。
 モデル説は、乱歩と岩田の二人が同性愛的関係にあったという訳ではなく、「孤島の鬼」執筆の経緯にあると思われます。
 乱歩が小説家として世に出る切欠としても知られる先輩作家・森下雨村が当時編集部長をしていた雑誌『朝日』に「陰獣」のようなものを書いてほしいと依頼され、執筆のため鳥羽を訪れていた乱歩が旧友である岩田を呼び出し、岩田の持参した『鴎外全集』の随筆を読んで着想を得て書かれたのが「孤島の鬼」であると言われています。そのため、時期的なものと、岩田自身が男色研究家でかつ美青年であったという評伝的な理由から、モデルと見られているのだろうと思います。

 実際、乱歩と岩田は男色研究仲間として、戦時中に休筆を余儀なくされた時期に二人は国内外の男色文献を読み漁り、競うようにカード作成に励みました。そして、乱歩は昭和18年に集めたカードを岩田に譲渡しており、研究家としての岩田に対する乱歩の敬意を感じます。
 また、乱歩と岩田は二人で『衆道歌仙』という連歌を36句作っていたりもします。
 そういった経緯から、年は少し離れていましたが、趣味の合う友人関係が伺えます。
 展示コーナーの本棚には、岩田準一の日記(しかも直筆)の複写の一部が(乱歩に関する記述があるものを抜粋して)ファイルされており、鳥羽時代の日記では<平井さん>と本名で書かれていたのが、作家になったあとは筆名で書かれているなどの変化を見ることが出来て面白いです。

 乱歩と岩田の関係性については、消失前の<鳥羽みなとまち文学館>で館長をされていた、岩田準一の孫である岩田準子氏の著書に詳しくありますので、興味がある方はご一読を。
 ただし、これを史実と捉えるかフィクションと捉えるかは、自己判断で。
 孫だからこそ書くことが出来る内容であり、ファンなら読んでおいて損はない一冊であることは間違いないです。(私個人としては決定的な記述が残されている訳ではないので、これまで書いたような趣味友の立場であり、これ以上二人の関係性について踏み込んだ言及はしませんが)

 先述のファイルの中にある岩田準一の日記の抜粋には、谷崎(潤一郎)作品を読んだという記述が頻発していました。
 乱歩は『私の履歴書』の中で「私の生涯で最も感激したのはポー、谷崎潤一郎と鳥羽時代に読んだドストエフスキーの三作である」と書いているので、本当に乱歩と気が合ったんだろうな、ということが伺えます。
 この二人の会話を聞いてみたい気持ちになりますね。

文学館の感想など

 メイン展示は、乱歩の紹介と上記した二人との出会いが中心でした。

乱歩ゆかりの地マップ。聖地巡礼が捗る。

 他に、入口近くの大きなパネル<乱歩ゆかりの地マップ>には、乱歩が住んでいた住所や、勤務していた<鳥羽造船所>、座禅を組んだ<光岳寺>、「パノラマ島奇譚」の<パノラマ島>のモデル説のある<相島>(現・ミキモト真珠島)、隆の故郷<坂手島>の<村万商店>などのゆかりある場所がまとめられており、聖地巡りにありがたい案内。

光岳寺。乱歩もここで座禅を組んだとか。

 受付の横の背面では<乱歩シアター>があり、乱歩の撮影した真珠島の海女さん達の映像が見ることが出来ます。7分程度の短い映像が繰り返し流れているので、展示を見ながらタイミングをみて最初から最後まで気軽に見ることが出来ます。
 ただ、その、「わぁお!」って感じのシーンもあるので、お子様連れの時はちょっとだけ注意w
 あと、若い女性の生足並べて撮って「大根のはじらい」って、先生w
 こういったもの(作家自らが撮った映像など)が残っていると、作家が何に興味をもち、どういうところをどういう風に見ていたかが垣間見えるので、後世のファンにとっては嬉しい展示です。

 先ほど岩田準一の項目でも触れた日記のファイルは、<乱歩シアター>の横にある、関連図書コーナーに置いてあります。
 少年探偵団シリーズや、乱歩全集、春陽堂の復刻版など、テンションの上がる本棚となっています。

春陽堂復刻版。復刻でも実際手に持ってみると感慨深い!

 個人的に、展示の近くに全集置いてあるの助かる……。鳥頭なので、展示見てて、よく「ん?これ何だっけ……?」みたいなこと思うんですが、すぐ確認できるのありがたい。大体の文学館は資料室に全集も置いてあるので、離れてるんですよね。コンパクトなりの利点というか。
 おかげで、岩田日記に谷崎作品の記述多いの見た後、すぐ乱歩の『私の履歴書』確認できました。

 展示室の中央部分には、火災から救い出された書簡やリニューアルオープンまでの歩み、乱歩の愛用品や、岩田準一の書簡の展示がありました。
 ほんと、よく救い出してくださいました……。そして、公開できる形にしていただきました……。もう感謝しかないです。(火災から復旧までの展示見てる間ずっと「地上の星」が脳内再生されてました。凄い。)
 学芸員さんの問題とか予算の問題とか色々あるので簡単には言えませんが、いつか総合図録とか作って欲しい……。現状、絵葉書二枚(一枚100円)と謎解きキット(500円)しか、お金落とすとこ無いので……。

今のところ課金できるもの全て。(入館料含む)

 屋外展示に繋がる中庭部分には二十面相のパネルがあり、フォトスポットにもなっています。このレトロな路地裏感がたまりませんね。
 少年探偵団シリーズを夢中になって読んでいた方にとっては、ここが一番テンションの上がるスポットかもしれませんw

私は腕組で撮らせていただきましたw

 展示室の裏手にある屋外展示コーナーには、「屋根裏の散歩者」「蟲」のワンシーンを和紙彫塑家・内海清美氏が再現した和紙人形の展示もありました。

両作とも特に好きな作品なので嬉しい!

作品の朗読も流れていて、コンパクトながら雰囲気のある空間になっていたのですが、メチャクチャ晴れてる柘榴忌だったので、こちらは最初から最後まで屋外で聞くのは断念しました……。

 まだリニューアルして数か月という時期で、幻影城(蔵)が豪雨の影響で現在非公開ということなので、これからに期待という部分もありますが、あの火災から、コロナ禍の中、この短期間でここまで復旧して下さっただけでも充分有難いですし、地元のみなさんの想いがひしひしと伝わる展示に胸が熱くなりました。
 文学館の雰囲気も、私が来館した時のスタッフさんは、笑顔が素敵な女性で、色々と気さくに話しかけて下さったり、地元の方と思われる初老の男性(スタッフさんとお話されてる感じから)が、私が柘榴忌だから他県から来館したことを知ると嬉しそうな笑みを浮かべてくださり、展示を見る私や他の来館者さんをにこやかに見守っておられたのが印象的でした。
 鳥羽のみなさんに支えられ、愛されているんだと感じられる、温かみのある文学館でした。
 また、展示替えや新規イベントの際には、ぜひ行きたいです!(伊勢うどんも食べ損ねたのでw)

おまけ。謎解きゲーム「江戸川乱歩の暗号日記」

 謎解きゲーム好きな友人(同人活動のサークルメンバー)と一緒に行ったので、文学館への課金も兼ねて「江戸川乱歩の暗号日記」もやってきました!
 一般的に文学館がやっている謎解きやクイズって、作家を紹介する意味合いが強く、展示をよく見てもらう目的で作られていることが多いため、パネルに答えが書いてあるだけで、よく読めば解答は埋まるし、なんなら調べたことのある作家だったら展示見ないでも解けるみたいなことが経験則としてあるのですが……ふっつうにちゃんとした謎解きゲーでしたね!

 A3サイズの紙を二つ折りにした、コンパクトな見た目に反して、展示見た上でちゃんと考えて解かないとダメな謎で、乱歩に詳しいと有利とかもほぼなく、謎解きゲームとして楽しめる歯ごたえのあるものでした!
 乱歩詳しくなくても、在中して下さっているスタッフさんが優しい雰囲気の話かけやすい方だったので親切丁寧に解説してくださいますし、ヒントも聞けば薄っすら出してくださるので、謎解き苦手な方でも館内展示で解く謎は安心してください。

 謎解きの後半は、文学館を出て、鳥羽の街を散策しながらLINEを使って解いていく形式で、鳥羽の町にあるものを上手く利用して作ってありました。
 町を歩きながら体を使い、スマフォというアイテムを使って謎を解く体験が、少年探偵団気分を盛り上げてくれるのも、乱歩らしい演出というか。
 炎天下の中と和装だったので体力削られまくりましたが、謎解きは凄く面白かったので、熱い時期に行かれる方は熱中症対策を万全にして、ぜひチャレンジしてみてくださいね!

おまけ。めっちゃイイ顔していたので、ついw

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