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”飲み会が苦手です”

焼き鳥とサラダと、ジョッキに入った飲み物。空になったお皿。フライドポテトと唐揚げ。和気藹々とした空間、全身の筋肉を強ばらせながら端の席にいる私。輪に入れているようで入れていない、そんな私。

飲み会は苦手です。何故なら、飲み会に行くといつも自分が嫌になるから。

人と目を合わせることすらままならなかったあの頃よりは、目を見ながら人と話せるようになったけれど、それでもなお、私の飲み会スキルは下の上くらいだ。

4、5人でテーブルを囲んで目の前に並ぶ料理をつつく。他愛もない話、恋愛の話、これから先のこと。(ちなみに、まだお酒は飲めません。この日はアルバイト先の送別会で周囲は成人ばかりの空間でした)

自分から話題を切り出すことはまずないので、人が話しているのを聞いて頷いてみたり笑ってみたり、驚いてみたりしている。ずっとそんな様子でいると、気を遣って自分に話を振ってくれる優しい人がいる。とっても有り難くて、そして何よりも申し訳なくて仕方ない。

「杉岡さんはどう?」

面白いことも言えなければ、ありきたりな回答しかできない。

「うーん、私は、…ですかね」

一言発して、それで終わる。心の底から机に突っ伏して謝りたい。いや、本当は違うんです、もっともっと話したいんです。

自分のターンが来たからには話を広げたいという気持ちはちゃんとあって、次に発する言葉だって用意してある。もう喉まで言葉は来ているのに、声にならない。こんなことを言うと場がシラけるんじゃないかとか、引かれるんじゃないかとか、そんな考えが頭を駆け巡る。自分の中にある本当にちっぽけで、でも凄く大きなプライドが足を引っ張って。

本当は夢があって、やりたいことがあって、こんな人になりたくて。こないだこんな面白い出来事があったとか、だいすきなアーティストのライブに行った話とか、すっごくくだらないけどちょっと泣けたり、クスッと笑えて愛おしいと感じたこととか。私だって話したい、誰かに聞いて欲しいのに。

飲み会の場で素性をさらけ出すことが(あるいはさらけ出しているフリすら)出来ない私は結局、その場を心から楽しむことができない。その結果、毎回恒例お得意の相槌と愛想笑いのオンパレードだ。

愛想笑いは凄く疲れる。頬が硬直しているのを感じて、貼り付けた笑顔を保ち続ける自分がロボットみたいで嫌になる。あの場所で心から笑える人と、ハリボテの笑顔でその場を凌ぐ私は、一体何が違うんだろうか。

二次会のボウリングには行かなかった、即決で。

「明日は朝早いので…すみません。今日は楽しかったです」

本当のところ、翌日の予定は夕方からだったけど。

二次会に行ったところで、空気と同化することを私は知っている。周囲に気を遣わせてしまう自分の姿が容易に想像できたし、もう十分すぎるほどに疲れていた。また端っこでひとりぼっちになるくらいなら少しでも早く家に帰りたい、頭の中はただそれだけだった。

家に帰り、自分の部屋に倒れ込む。アウターを適当に脱ぎ捨てて、荷物をそこら辺に放り投げて、だらり、と床に寝転ぶ。肩の力がスッと抜けて、やっと本当の自分になれる。作り笑いの呪いが解けて、重すぎるため息が漏れた。そして、その瞬間に虚しくて堪らなくなった。

いつもそうだ。有り難く誘ってもらえた飲み会に「今日こそは頑張って行ってみよう」と意気込んでいっても、席についた瞬間「来なければよかった」なんて平気で思ってしまう自分がすごく嫌だ。みんなが楽しめている場を、どうして私は同じように楽しめないのか。そんな自分がすごく冷めているように感じて、薄情に思えて、自己嫌悪でいっぱいになる。

楽しそうにしていた周囲の表情と、部屋でへたれこむ自分の現状を比較しては勝手に落ち込む。その自分の姿が最高に滑稽で、それもまた泣ける。否が自分にしかないからこそツラい。飲み会が苦手なもの同士にしか刺さらないこの感覚を、一刻も早く”分かり合える誰か”に話したい気持ちが込み上がってくる。誰かに共感してもらわないと虚しさと情けなさで孤独死してしまいそうな気がする。

本当は人と話したい。心から笑いたいし、楽しいと思いたい。せっかく輪に入れてもらえているのに、疎外されているように感じて身勝手な被害妄想が止まらない。とはいえ、あの空間を本当の意味でみんながみんな心から楽しんでいる訳ではないと思っている。

輪の中心に躍り出る人、会話が円滑になるようアシストする人、注文を率先してしてくれる人、各々に役割があってそれが上手くハマるからこそ楽しめる。自分の役割を見つけられる人は、あの空気感に振り落とされることなく着いていける。役割すら見つけられず、端でポテトサラダをちびちびと食べている私にはその権利がない。ただそれだけのことだ。

苦手を克服できる自分になりたい。2時間3000円の飲み会を、有意義だったと思えるようになりたい。変わりたいな、変われるかなあ。





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