見出し画像

50歳不動産鑑定士が"手触り感"のある投資にたどり着いたら、怖さが和らいだ話

コツコツ投資家さんインタビュー。今回はブログ「セルフ・リライアンスという生き方」を運営する下山さん(50歳)のストーリーです。

下山さんは大学卒業後、大手企業の会社員などを経て、33歳のときに独立。現在は不動産鑑定事務所を開業しています。プライベートでは都内のマンションで妻と2人暮らし。東京・中央線沿いの商店街の一角にある、喫茶店でお話をうかがいました。


きっかけは将来に対する漠然とした不安

――いつ、どんなきっかけで投資を始めたのですか。

下山:投資をはじめたのは会社員として働いていた27歳の頃です。きっかけは将来に対する漠然とした不安ですね。当時は「仕事以外で稼げるといいなぁ」くらいの軽い気持ちでした(笑)。

オリックス証券(現.マネックス証券)に口座を開設し、簡単な株の本(銘柄選びやテクニカル分析の本など)を読んだり、マネー雑誌をみたりして、儲かりそうな株やREIT(上場不動産投信)などを買いました。

最初は怖いもの知らずで、信用取引(現金や株式を担保として証券会社に預けることで、その担保の何倍もの金額の取引ができる)もしていてました。

――投資を始めるのにハードルはなかったですか?

下山:始めるときは絶対儲かると思って始めますから。だから、ハードルは特になかったです(笑)。

――なるほど。始めたら儲かるはずだ、と(笑)。目論見通り、儲かりましたか?

下山:儲かったものもあるし、損したのもある、という感じでしたね。儲かるときもあるけれど、儲かると調子にのってお金をつぎ込んだりして、最終的に含み損になってやる気がなくなる…。その繰り返しでした。当時は投資というよりもギャンブルみたいな感覚でした。株価チャートしか見てなかったですし。

そして、2008年のリーマン・ショックのときには投資していたREIT(上場不動産投資信託)が経営破たん。投資していた株も激下がりしてしまいました。

インデックスファンドとの出会い

――それはツライですね…。その後、投資信託の積み立てを始めようと思ったのはどうしてですか

下山:しばらくは含み損を抱えて何もしない状態でしたが、多少はお金をふやしたいという気持ちもあり…。もう少し地道なやり方はないだろうか、と調べ始めました。

それまで投資信託についてよく知りませんでしたが、本を読んでみて、分散とか、ドルコスト平均法(積み立て)などに魅力を感じるようになりました。これなら自分でも続けられるかもしれないと思い、2009年頃からインデックスファンドの積み立て投資を始めました。

ほぼ時価総額に沿った配分にし、株式にも債券にも分散投資をしていました。内藤忍さんの『資産設計塾』などを参考に、教科書通りの運用です。「eMAXISシリーズ」や「eシリーズ」(三井住友トラスト・アセットマネジメント)などを利用しました。

――下山さんは自営業ですよね。報酬が振り込まれる銀行口座から投信を買い付けるかたちにしていたんですか。

下山:いえ、銀行口座から証券口座に移して、そこで積み立てていました。株式投資から撤退して何百万円かまとまったお金があったので、それを証券口座に入れて、その資金で投信の積み立てをしました。

その後も、余裕のある範囲で、いったんSBI証券に移して、そこから投資信託の積み立てをしています。

――投信の積み立てを始めてからは順調でしたか。

下山:2013年にアベノミクスで株価が急上昇し、為替も円安に振れました。それで、投資していたお金が短期間に1.5倍になりました。

ところが、急激な上昇をみて、逆に「また下がったらどうしよう」と、怖くなってしまったんです。そして、保有する投信の大半を解約してしまいました。

相場はその後も上がり、結果的に機会ロスになりました。当時はリスク許容度以上に、リスクを取りすぎていたのだと思いました。

年を重ねて価値観に変化

――リスク許容度のお話は後半に改めてうかがいます。インデックスファンドの積み立てから入ったわけですが、今は全然持っていないのですね。

下山:はい。2013年から2014年にかけて徐々にインデックスファンドからアクティブファンドにシフトしていきました。今は完全にゼロですね。

移行の第1期は、先ほどいったように、怖くなってインデックスファンドを解約した時期。それで、2014年の3月にはリスク資産と安全資産が半々くらいになりました。

第2期は鎌倉投信やコモンズ投信の影響を受けて、アクティブファンドに転向していった時期。そこで、インデックスファンドを解約していった感じですね。この頃から、自分のお金を託す"投資する先"についてもちゃんと考えたい、自分の意思で選択したいと思うようになったことが大きいです。

2013年6月に結い2101(鎌倉投信)、2014年春にコモンズ30ファンド(コモンズ投信)、そして、2015年7月からセゾン資産形成の達人ファンド(セゾン投信)の積み立てをスタートしました。

現在の投資状況

――今はどんな投資をしていますか。

下山:今はアクティブファンドと個別株への投資がメインになっています。割合は個別株33%と投資信託などが67%(2024年3月末時点)。国内株式と外国株式の割合はだいたい6対4です。

自営業者なので、もともと非課税口座はiDeCo(個人型確定拠出年金)をメインに利用していて、旧NISAはあまり積極的に使っていませんでした。ただ、(拡充された)新NISAはさすがに使おうと思い、iDeCoも含めて「どこで、どのファンドを積み立てるか」を整理しました。

現在はNISA口座(SBI証券)で6本、iDeCo(楽天証券)で3本の投資信託を積み立てています。それ以外で積み立てているのは鎌倉投信の「結い2101」(特定口座)だけです。NISAの非課税投資枠は余っているので、チャンスがあれば成長投資枠で日本株(個別)に投資したいと思っています。

【下山さんが保有する投資信託】
◆積み立て中
NISA口座(SBI証券)
<つみたて投資枠>

・長期厳選投資おおぶね
・キャピタル世界株式ファンド(DC年金つみたて専用)
・iTrustインド株式
<成長投資枠>
・おおぶねJAPAN(日本選抜)
・ベイリー・ギフォード インパクト投資ファンド
・iTrust新興国株式

特定口座(鎌倉投信)
・結い2101

◆保有(直販)
・コモンズ30ファンド
・ひふみ投信
・ひふみワールド
*その他、セキュリテ、投資型クラウドファンディングなど

iDeCoで積み立て中(楽天証券)
・コモンズ30ファンド
・セゾン資産形成の達人ファンド
・キャピタル世界株式ファンド(DC年金つみたて専用)

――アクティブファンドにシフトしていった理由は何でしょう?

下山:40歳を過ぎた頃から、多少はお金に余裕が出てきたこともあるかもしれません。そして、鎌倉投信との出会いも影響していると思います。

鎌倉投信は、年に1回受益者総会を開催したり、定期的に投資先の会社を訪問するツアーなどを企画したりしています。受益者総会では運用担当者からの運用報告に加えて、投資先の企業経営者の講演やパネルディスカッションが行われるほか、投資先企業が提供する商品・サービスを紹介する展示ブースなどもあります。

そうした場に足を運ぶことで、自分のお金が役に立っている実感が持てます。値動きだけを考えていた頃と違い、企業が行う事業の意義や社会的な役割を考えるようになりました。

投資信託を選ぶ基準

――投資の本来の目的は資金を必要とする人に自分のお金を融通して、広く世の中の役に立つように使ってもらうことですものね。投資信託を選ぶときの基準はどこにおいていますか。

下山:投資哲学が明確で、投資先企業を厳選して長期で保有していること、企業とのエンゲージメント(対話)を重視していること。そして、運用報告会などを通じて、顧客(受益者)とのコミュニケーションを大事にする顔の見える運用、投資プロセスの丁寧な説明といった点を重視しています。

下山さんのポートフォリオ(2024年3月末時点)

――その後は投資スタイルに大きな変化はありましたか。

下山:2019年くらいから、個別株にも投資するようになったことでしょうか。これはおおぶねを運用する農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)の最高投資責任者の奥野一成さんの影響が大きかったです。

もともと自分は会社を選ぶのが苦手、と思っていたのですが、自分で「企業を選ぶ力」を身につけた方が面白いのでは、と思い始めたところ、NVICが運用するおおぶねシリーズの「ビジネスの競争優位性を見極めて、長期で投資する」というお話をきいて…。そういう投資なら自分にとってもいいことだし、社会的にも大切だと思ったので、少し勉強してみるか、と。

20代の頃の株式投資は"なんちゃって"投資だったのですが、今回はちゃんとファイナンスや企業価値評価の本などを読みました。企業の業績を確認したり、「会社四季報」もみたり。

――どんな会社に投資しているんですか。

下山:規模や業種にはあんまりこだわっていません。地方の会社だけど営業利益率がそこそこ高くて、ニッチな領域で稼いでたりといった、地味な会社が多いです。ボラティリティも比較的小さめの会社が多いかな。小さい会社だとIR(Investor Relations=投資家向けの広報活動)に力をいれていて、個人との関係性や発信を重視しているところがよいですね。

基本は長期保有ですが、大きく上がった時には一部売ることもありますし、そこまで厳格ではないです。現預金はある程度貯まったので、「何としても10倍株を探して増やすぞ」とまでの意気込みはなく(笑)、マイペースで投資しています。

リスク許容度の意味

――最近は順調に資産がふえていると思いますが、2013年の時のようにこわくなって売ってしまいたいと思ったことはありませんか。

下山:10年前ほどドキドキはしていません。当時とは投資スタイルやポートフォリオの性質が異なるからしょうか。

2013年当時はインデックスファンドしか持っていませんでした。株式市場に投資しているものの、(指数を構成している企業が)分散されすぎていて、何に投資しているかよく分からない状態でした。投資先に対する確信度や納得感などを持つことができず、「上がっても不安」「下がっても不安」だったような気がします。

今は、個別株にしても、アクティブファンドにしても、自分なりに調べて、価値を創造してくれる企業やアクティブファンドを自分なりの視点で選んで、納得した上で投資しています。そのため、当時より投資金額は大きくなりましたが、相場の大きな変動にも耐えられるようになった気がします。

投資判断の基礎となるファイナンスや会計の知識を身につけたことも大きいです。個々の企業の株価水準が自分の見立てと比較して高いのか安いのか、何となくですが当たりがつくようになりました。

――下山さんにとってドキドキ度は投資金額の多寡ではなかったと。

下山:投資対象に対する"手触り感"が自分なりに増したことで、急落しても、焦って売らなくてもいいと思えるようになったのだと思います。リスク許容度は性格や資産規模だけでなく、どれだけ確信度や納得感を持って投資できているか、投資対象に対する握力の強さによっても変わってくるのかもしれません。20年投資をしてきて今はそう感じます。

――NISA口座でインデックスファンドの積み立てを始める人は増えていますよね。

下山:世界経済の成長と時価総額に沿ったポートフォリオに対する揺るがない信頼がある人は、インデックスファンドの積み立てを続けていけばよいと思います。そこは価値観の問題ですよね。自分には難しかったです。

――積極的に寄付もされていますよね。

下山:投資だけでは解決できない課題もあるので、そこに少しお金を回すことも大事だな、と思って寄付もしています。寄付先は寄付者とのコミュニケーションを大切にし、どういう課題に取り組んでいるかなどを丁寧に説明してくれて納得感のある団体が多いです。

投資にどのくらい時間を充てているか

――投資にはどのくらいの時間を充てていますか。

下山:あまりかけてないですね。投資信託の月次レポートをみる、たまに運用報告会にいく、くらいです。いい意味で時間をかけなくなったというか、他に関心があることに時間をかけています。

あとは、若干投資している会社の決算みたり、気が向いたら、新しい投資先の会社を探したり、株主総会に行ったり…。といっても、専業投資家ではないので、株主総会に出席するのも年5~6社程度ですね。

――家計のお金は下山さんが管理しているのですか。

下山:生活用の口座は一元管理をしていています。資産管理は奥さんがしていますね。エクセルでそれぞれの金融機関にある金融商品を管理しています。自力でマネーフォワードの機能を担ってる感じですね。

友だちとはお金の話はしないですが、長期投資の仲間で定期的に投資の勉強会(こぶね会)などはしています。

長期投資家仲間で定期的に行っている勉強会の様子。
「切磋琢磨は楽しい!」

投資してよかったこと

――投資をしてきて、投資以外に何かリターンを得られましたか。

下山:知り合い・友人が増えました。きっかけは投資家の集まりだったり、運用会社の報告会のボランティアだったりしましたが、その後も投資とは関係なく、長くつきあっている人が多いですね。

趣味の卓球。「本当に奥の深いスポーツです」

個別株投資は世の中の動きや社会の流れ、ビジネス・サービスに関心が高まって、視野が広まったと思います。(NVICの)奥野さんのいうような、「投資したから出世できた」みたいなものはないですけど(笑)。

社会性と経済性は両立する

――投資に対する考え方が変わった部分はありますか。

下山:7年前に取材を受けた時は「社会のためによい投資だったら、経済性は多少犠牲にしてもいい」的なことを言ったと思いますが、そこはちょっと変わった、というか、間違っていたかもしれないですね。

いい会社は社会課題を解決してるわけだから、長い目でみて利益を上げ続けている会社はすべてのステークホルダーに対して価値をバランスよく提供しているはず。経済的に価値を高めてる会社は、社会的にもよい会社であるはず、と考えるようになりました。たとえば、継続的に営業利益率やROE(自己資本利益率)が高い会社を選ぶことは大事なんじゃないか、と。

純粋に儲かり続けてる会社を選ぶことは、社会的にも意味がある、というのがちょっと腹落ちするようになりました。社会性と経済性を両立させるのが難しいというよりは両立するもの、なんですよね。

――そう考えると、社会性をうたう投資信託も相応の結果が求められますね。

下山:そうですね。価値を創造している会社を選んで投資する、といっている以上は、結果的に指数を上回る運用成果をあげることは重要だと思います。そうでないと、価値を創造する企業をきちんと選べていない、ということになってしまいますから。

――ゴールはどこにおいていますか。

下山:特に決めていないです。資産形成という意味では結構できてきたので。それは貯蓄と労働と、節約の効果も大きくて、投資だけではないのですが…。だから、資産をさらに増やそう増やそう、というよりは自分がいいと思える会社や投資信託にマイペースで投資をし続ければよいかな、と思っています。そして、必要があれば、柔軟に取り崩します。

――いつまで働く予定ですか。

下山:お金の面を考えたら、早めに辞めてもいいのですが、本業で社会に貢献するのはやりがいがあるし、仕事自体は好きなので、求められている限りは働くと思います。

今は家づくりに関心があります。ずっとマンション暮らしでしたが、50歳になり、今後の人生のため一戸建てを建てようと検討中です。快適で住み心地がよく、長く暮らせる家を建てるため、夫婦で勉強しているところです。

車や高級時計などには興味がないし、モノもそれほど持ちたくない。というか、あまり持っていないです(笑)。自分たちにとって、心地よい暮らしをしていきたい、と思っています。

(2024年4月26日取材)

編集後記

下山さんとお話していて、投資のスタイルや1人ひとりの価値観に根ざしたものなのだと、改めて感じました。

投資スタイル
下山さんの場合、個別株→パッシブ運用→アクティブ運用(アクティブファンド)→アクティブ運用(アクティブファンド+個別株も)、というように投資スタイルが変化しています。

ずっと同じスタイルを堅持する人もいれば、思考の変化、知識・経験などを経て、運用スタイルが変わっていく人もいます。どちらがよい・悪いではなく、取材を通して感じるのは、その人の性格や価値観に沿った投資スタイルに収れんしていくのだなぁ、ということ。投資に唯一の正解はありません。自分にとって心地よい、続けやすい投資とのつきあい方を模索していけばよいのではないでしょうか。

リスク許容度
リスク許容度を考える際、どこまで下がっても耐えられるか、ということで、おおまかな目安として「期待リターン±(リスク×2倍)」くらいの変動を想定しましょう、などといわれます。どこまで耐えられるか、金額や割合(%)でイメージすることが多いです。

今回、リスク許容度について、下山さんが投資金額の多寡ではなく、「投資対象に対する"手触り感"」「投資対象に対する握力の強さ」を挙げていたのが印象に残りました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました! noteの「スキ」ボタンをクリックしていただけると嬉しいです。今後もコツコツ投資家さんへのインタビューを続けていく予定です。ご意見・感想などがありましたら、お寄せください。取り入れていきたいと思います。

これまでのコツコツ投資家さんのインタビューはこちらで読めます。


いただいたサポートは取材に協力してくださる投資家さんへのお土産と、遠くに住む方に会いにいくときの移動代に充てたいと思います。あちこち飛んでいきたい!