大病を経て一命を取りとめた45歳・投信ブロガーの価値観は、どう変化したか
コツコツ投資家さんインタビュー、今回は「いつか子供に伝えたいお金の話」というブログを運営する虫とり小僧さん(以下、虫とりさん・45歳)のお話です。現在、虫とりさんは妻と、子ども2人と郊外の一戸建てで暮らしています。
投信ブロガーとして有名な虫とりさんですが、昨年(2023年)10月に急性大動脈解離で緊急入院。ご本人曰く、「一時は生死の境をさまよった」とのこと。ご家族に最後のメッセージを託したとも言います。
入院前に取材のお願いをしていたのですが、今回オンラインでお話をうかがうことができました。虫とりさんが投資を始めて、続けて、そして、今にいたるストーリーです。
きっかけは終身保険をすすめられたこと
――ご無沙汰してます。思ったより顔色がよくて、安心しました。
虫とり:ありがとうございます。昨年いろいろあってから、投資関係の人と話すのは初めてかもしれません。
――それは光栄です。よろしくお願いします。改めて、虫とりさんが投資を始めたきっかけを教えてください。
虫とり:2002年頃からの数年間は戦後最長の好景気といわれていましたが、実生活でその実感がまるで得られませんでした。色々思案するうちに「好景気の恩恵を受けるには投資をする(株主になる)しかないのかなぁ」と思うようになりました。が、当時は投資って怖そうだと思い、なかなか具体的な行動を起こせずにいました。
直接のきっかけは2005年に保険の営業マンに終身保険をすすめられたことですね。当時付き合っていた女性(いまの奥様)との結婚を意識し始めたこともあって、入念に保険の比較検討をしていたのです。
その中で、「なぜ保険会社は我々から集めたお金よりもたくさんの支払いを約束することができるんだろう」と疑問に思い、そこから生命保険について調べ始めました。その結果、保険会社は手数料を差し引いたお金で「運用」というものをしているらしいということがわかってきました。
自分で運用ができるのであれば、保険商品は万が一のときの大きな保障だけにして、お金をふやす運用は自分でしたほうがよさそうだと思いはじめました。
――なるほど。そこから最初にどんな行動をしましたか。
虫とり:投資なんて、なんだか怪しいギャンブルだと思われそうで、身内にも相談できませんでした。そこで、ひたすらインターネットで検索しました。当時はネットの情報があまり充実していなかったため、彼女(いまの奥様)を無理やり連れて、投資信託の評価会社が主催する投資信託の無料セミナーに行ったりしました。
真面目な彼女は、最初は熱心にメモをとっていたものの、途中から寝てしまい、運用の話はふつうの人にはハードルが高いと思ったのを覚えています(笑)
インデックス投資との出会い
――関心がないと眠くなりますよね(笑)。そこから投資信託の積み立てに至ったのはどういう経緯からですか。
虫とり:調べているうちに、インデックスと呼ばれる様々な市場の平均値を指数化したものが存在することを知りました。大儲けを狙うなら、個別企業の株式売買や信用取引をしたほうがよいのかもしれませんが、個別企業の財務や価値の分析、業績の株価への織り込まれ具合などを考えている時間はありません。かりに時間があったとしても、自分にはそんな器用なことができるとは思えませんでした。
そこで、資産形成のために以下の3つの方針を決めて、複数のインデックスファンドを組み合わせて世界の株式や債券に分散投資を行うことにしました。
ただ、正直こわいという気持ちもあったので、最大限節約すれば2年間は生活できるだけのお金を預金口座に確保した上で、投資信託の積み立てをスタートしました。最後はもう「好奇心と勢い」ですね。
――投資信託の積み立てを始めてからは順調でしたか。
虫とり:それが、いざ始めてみたら、一生懸命に勉強して一度決めた資産配分を変更しようとしたり、情報収集をして少しでも手数料の低い商品(たとえば海外ETF)を買ってみたり、積み立て投資をしているのにタイミングを考えて買おうとしたり…。
投資を検討する段階では「投資に時間をとられたくない」という前提で方針を決めたのに、いざ始めてみると、投資にかなりの時間を費やしていたんです。
手間と時間をかけたのに
――それは想定外ですね。そうした状況が落ち着くきっかけは何でしたか。
虫とり:同僚がセゾン・バンガード・グローバルバランスファンド(現セゾン・グローバルバランスファンド)というバランス型の投信を淡々と積み立てていました。一方、僕は友人に比べて(インデックスファンドを組み合わせるなどして)4分の1の手数料に抑えたり、投資するタイミングを一生懸命に考えたりしていました。ところが、リーマン・ショックから2年ほど経った時、ふたりの運用成績を比較したら、彼のほうがよかったんです…。
――あらら…。
虫とり:いやー、ある程度、基本型を押さえておけば、労力をかけても運用成績はそれほど変わらないということを実感しました。
もちろん、投資を始めた時期や、どの時点で運用成績をみるかによっても結果は違うので、一概にどちらがよいとは言えません。ただ、一生懸命に効率的な資産配分を追求したり、手数料がもっとも安い商品を追ったりするのはほどほどでいいかな、と。
投資に回さないお金(預貯金などの安全資産においておくお金=無リスク資産)だけはしっかり確保しておいて、あとはできるだけ手間をかけないシンプルなスタイルにすることが大事というところに行き着きました。
投資にかける時間もコストです。気づくのに少し時間がかかりましたが、私にとって、投資は家族との時間を割いてまでするものではなかったのです。本業もありますしね。
シンプルに管理したい
――それをきっかけに方針を見直されたわけですか。
虫とり:はい。資産管理に新たに2つの項目を加えて、優先順位も見直しました。
投資をはじめたときは何よりも手数料の安い商品を使って分散投資をすることを資産管理の最優先事項としていましたが、「手間をかけずにシンプルに投資する」ことを優先する気持ちが強くなりました。
低コストにこだわりすぎて、投資商品を次から次へと乗り換えたり、情報をインプットしすぎてコロコロと資産配分を変えたりしないようにしようと心に決めたのです。
――それで1の「シンプルな管理」を追加したわけですね。5の「いじる余地」を入れているのはなぜですか。
虫とり:面倒くさがりなのに、自信過剰(オーバーコンフィデンス)という性格は変えられそうにありません。「オレは相場を読める」「うまく運用できるはず」と思ってしまうと、資産配分の変更や余計な売り買いをする可能性があります。そこで、あらかじめ資産配分が決まっているバランス型投信を積み立てのメインに据えることにしました。
虫とり:ただ、それだと面白みに欠けるので、自分でも少しだけ資産配分の比率を調整できる余地を残したいと思いました。そこで、バランス型投信を全体の80%、先進国株と新興国株のインデックスファンドを各10%ずつ積み立てていくことにしました。複数利用していた証券口座も、SBI証券1社に集約しました。
こうしたことで、月に1~2回程度資産状況を確認して、必要があれば、リバランス等のメンテナンスを行うだけですむようになり、投資にかける時間は大幅に減りました。
――今はどのような投資をしていますか?
虫とり:商品を変更したくらいで、基本的な方針は今も変わらないですね。3本の投資信託をクレジットカードで積み立て、ポイントもゲットしています。
今後も、NISA口座を利用し、無理のない金額で、毎月投信を積み立てていくつもりです。ただ、特定口座(や旧NISA)で保有する投信などを売却して、NISA枠を埋めていくことはするかもしれません。理論的には早めに使ったほうがお得になる可能性が高いので。
――虫とりさんが商品を選択するときの基準は何ですか。
虫とり:コストと規模、安定的に資金流入しているか。運用会社のカルチャー、フィロソフィー(哲学)というと大げさですが、繰上償還を繰り返しているようなところは避けたいですね。ずっと運用してくれそうな会社の商品を持ちたいです。
――iDeCoも利用されてましたよね?
虫とり:はい。2017年から加入できるようになったので、楽天証券のiDeCoを利用しています。iDeCoは60歳まで引き出せず、長期運用になるので、こちらは先進国株と新興国株のインデックスファンドを積み立てています。
当初は半々で積み立てていましたが、先進国株の比率がふえてきたため、今は新興国株ファンドの積立額をふやすことで配分を調整中です。
値動きに慣れるには
――投資を始めて20年近くになりますが、当初値動きになれるのにどのくらい時間がかかりましたか。
虫とり:「長期投資だから大丈夫」くらいのイメージで始めたものの、最初は値動きが気になって仕方なかったです。最初の頃は毎晩投資信託の評価サイトで基準価額が更新されるのをチェックして記録していたくらいです(笑)。私の場合、値動きに慣れるのに半年、心を乱されなくなるのには4~ 5年かかりました。
投資を始めて、3年ほどでリーマン・ショックに遭遇しました。当初、預貯金からまとまった金額を投資に回したのですが、その時は投資したお金が半分近くまで減りました。正直、ウン百万円のマイナスを見た時にはかなりへこみました。何とか持ちこたえることができ、積み立て投資も続けていたので、結果的にお金をふやすことができましたが、あの時の感情を思い出すと、正直ツラかったです。
「まとまった資金があれば一括投資していい?」と質問する方も多いと思いますし、よく議論になりますよね。当時の経験から「理論上はまとまったお金があったら一括投資がよいと思うけど、メンタル的には(下がったら)相当キツいよ」ということは言っておきたいですね。
――やはりどのくらい下がっても精神的にも経済的にも耐えられるかは想定しておく必要がありますね。
虫とり:マーケットの深くて長い谷を乗り越えて市場に居続けると、精神的にも慣れてくるし、損益もマイナスにはなりにくくなります。コロナショックのときもズドンと3割程度は下がりましたが、損益はプラスでしたから。
ただ、リーマン・ショックの時には5年以上マイナスの状態が続きました。含み損を抱えながら、安いところで投信を買い続ける、市場に居続けるという時期を経験したことは、あとになって活きるわけで…。(下落相場で)不安になったときには、"将来に対する耐性を養う"みたいに思うとよいかもしれません。
あとは、大前提として、長い目で見れば世界経済全体ではプラスになるだろうという考えを持てるかどうか、でしょうか。過去のデータを知ってるかどうかも結構大事だと思いますね。本来は下げ相場がある程度続いてくれたほうが積み立て投資の場合はプラスに働くわけですし。
お子さんの教育資金
――お子さんの教育費はどう準備していますか。
虫とり:教育費は日々の生活運転資金や預貯金から支払っていて、必要であれば、自分の運用資産を取り崩すこともあると思います。
子どもたちのお金を置いておく場所としては、子ども名義の銀行口座や証券口座を作っています。お年玉や入学祝いなどをもらったら、半分を預金に預け、残りの半分は投資信託を購入するようにしています。
長男は2009年から、長女は2012年から特定口座で投信を購入しています。途中からジュニアNISA口座を利用しましたが、2023年で廃止になったので、2024年からは再び特定口座で投信を購入する予定です。当初はバランス型投信を、今は全世界の株に分散投資をする"オルカン"を買っています。
子どもに渡すのは、結婚するときになるか、大学入学のときになるのかはわかりませんが、どこかの段階で「お前たちが子どもの頃からもらったお金を預金と投資信託で半分ずつ運用してきたら、それぞれこれだけの金額になったんだぞ」と言って、そのしくみを説明したいですね。
ほどほどの満足
――19年投資を続けてこられたのはどうしてだと思いますか。
虫とり:手間かけずに、(ある程度)再現性が見込める投資をしようとすると、長期・積立・分散投資よりもベターなものを見つけるのは難しいと思うんですよね。
それを踏まえて、自分なりに納得感があれば、あまり細かい金融商品の優劣やわずかなコストの差、資産配分は過度に気にしなくてよいのではないかな。個人が投資による長期の資産形成で成功するキモの部分はそういうところではないです、たぶん。続けることが大事だと思います。
あまり怖がりすぎず、でも、欲張りすぎず。"ほどほど"でいい。そう思って、自分はバランス型投信をメインにそのまま保有し続けています。そもそもインデックスファンドを選んだ時点で、"ほどほど"ですしね(笑)。アクティブ投資も、(自分が)好きで、ほどほどに分散してやるなら、それもまたよし、だと思います。
――投資をしてきてよかったと思いますか。
虫とり:お金が増えていくに従って安心感が増えていき、少しずつ不安が減っていった、というのはありますね。
去年10月頃、本当に死ぬ寸前までいって…。最後のメッセージを家族に伝えるところまでいったんですが、そのとき(万一自分に何かあっても)国の遺族年金があるし、加入している「収入障保険(逓減型定期保険)」もあるし、あと、積み立ててきた投資信託などがあれば、子供たちが大学に行けるくらいは何とかなるだろう、という安心感はありました。
さいわい職場の理解もあり、在宅で少しずつ働けるようになりましたが、ここから先、勤労収入を増やしていくのは難しいでしょう。そういう意味でもまとまった金融資産があることはよかったと思います。
社会保険は本当に大事
――投資のゴールは決めていますか。
虫とり:金額は特に決めていません。でも、今回のことがあって、仮に自分に何かあっても、家族は遺族年金を受け取れるわけだし、このまま生き続けることができれば、それはそれで何とかなるだろうと思いますし。そういう意味ではお金の不安ということからはほぼ解放されつつあるかもしれませんね(笑)。
あと、健康保険に入っていて本当によかったです。だって昨年10月の医療費なんて、健康保険適用前の請求金額が軽く1,000万円を超えてましたからね。ビックリしました。それが数十万円ですむうえに、さらに勤務先からの付加給付もあり、自己負担はもっと少なくてすみましたから。
――社会保険は本当に大事ですよね。高額な医療費を支払ったときは高額療養費制度(法定給付)がありますし、勤務先の健保組合によっては独自の給付制度(付加給付)で、さらに負担が軽減されることもありますしね。
虫とり:社会保険制度はすごいなぁと思いました。
――今回の件で、投資やお金に対する考え方は何か変わりましたか。
虫とり:はい、もちろん。お金の使い方って、どれだけ貯蓄するかなども含めて、「今と将来に向けての満足度の配分」みたいなところがありますよね。
急病で倒れるまでは、世の平均よりは長く生きるような気がしていたし、それを前提に、そうした場合に備えないといけないと考えていました。今は現実的に考えたら、平均余命まで生きられたら、大大大成功でしょう。60歳まで生きられたら、それだけで嬉しいという状態になったので、何か買う時もあまりケチらないようになりましたね(笑)。
いざ身体を壊してしまうと、お金を使える場所がほとんどないんですよね。今はまだ旅行にも行けないし、いいものを食べるといっても、食べるものにも制限があって…。そうなってみないとわからないかもしれませんが、楽しみをあまり(先に)とっておいてもね…。ある程度は使っておかないともったいないと思いますよ。
――掲載するお写真を、とお願いしたのですが、この2枚にした理由は何かあるんですか?
虫とり:上の滝壺がそのまま温泉になっている写真は(宮城県)鬼首温泉の吹上温泉。もう一枚はどこだか忘れましたが、これも数年前に旅行先で撮った1枚です。どちらもまた行きたいのに、簡単には行けなくなってしまったところです。
「お金は使ってこそ」という意味もあるし、体験に使ったお金であれば、いつでも思い出して懐かしめるという意味もあります。そして、元気になってまた旅行したいという意味もありますね。
まだやりたいことがたくさんあるのに、今はここにとどまったまま、という感じでしょうか。もともとは格闘技や筋トレ、秘湯めぐりなどが趣味でしたが、特に格闘技と筋トレは継続が困難になってしまいました。新たな趣味を模索中ですが、今は特に思いつきません。
そうした状況ですが、息子が頑張って(希望する)高校に合格するなど、いいこともある。今の生きがいは子どもの成長を見守ることですね。家族と穏やかな時間を過ごせていることが何よりです。
(2024年6月24日取材)
編集後記
昨年秋に緊急手術→入院され、心配している投資家さんも多かったと思います。私も、画面越しにお顔を拝見することができて、正直ホっとしました。このブログを読んだら、ご家族に愛されていることもわかります。もう少し回復したら、また旅行に行けるとよいですね。
今と将来に向けての満足度の配分
将来の自分・社会のために貯蓄や投資にお金を回すことはもちろん必要ですが、今しかできないこと(体験など)にもお金を使いたいところ。入ってきたお金(お給料や報酬)を今と未来にどう振り向けるのか、そのバランスをしっかり考えたいですね。
ベストよりベターを
投資を始めたばかりの頃は、どうしても不安や恐怖、欲といった感情に支配されがちです。ベストを求めて一歩が踏み出せなかったり、挫折してやめてしまったりするくらいなら、ベター(ほどほど)で上等。自分なりに継続できるスタイルを模索しましょう。長期でコツコツ続けることが大切です。
バランス型投信
運用期間が長く長くとれる人は株式に投資する投資信託+預貯金の組み合わせたり、投資金額を少なくすることで調整すればよいでしょう。ただ、(運用期間やリスク許容度などを考慮して)値動きをマイルドにしたい人はバランス型投信をメインに据えるという選択肢もあります。
ただ、バランス型といっても、いろんななタイプ(投資対象や資産配分、運用スタイルなど)があります。過去の運用実績(特にリスク=ブレ幅)も様々です。もともとバランス型は1本で運用をお任せできる(完結できる)のがよいところ。虫とりさんは自分なりにアレンジしていますが、多くの人は自分に合ったものを1本保有すればOKです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました! noteの「スキ」ボタンをクリックしていただけると嬉しいです。今後もコツコツ投資家さんへのインタビューを続けていく予定です。ご意見・感想などがありましたら、お寄せください。取り入れていきたいと思います。
過去のコツコツ投資家さんインタビューはこちらから。
いただいたサポートは取材に協力してくださる投資家さんへのお土産と、遠くに住む方に会いにいくときの移動代に充てたいと思います。あちこち飛んでいきたい!