【日記】台湾で読む日々 6.8 〜6.12 魚でも鶏でもなく犬

6.8 Thu

山の頂上が見えないほどのくもり。いつの間にか日が経って、6月に入っていた。もう日記は9歳ごろから20年以上書いているので、間がなくなっているかのように、書かない期間があるなんてざら。その間にあったことを振り返っておく。

魚の目ができて、皮膚科へ。
病院にいくと、いつも少し困る。普段使わない中国語、あるいは英語の単語を話さなくてはいけない。まず、「魚の目」を中国語で調べる。魚の目ではなく「鶏目」であることがわかる。なんとか受付で伝え、診察。何を言っているかいまいちわからない。足の裏を見せる。体が硬くて、足の裏を上に受けるのに苦労する。患部は窒素で焼かれ、また来週来るように言われる。伝わったか不安なのか、先生はグーグル翻訳を私に見せ、「また来週来てください」と入念に伝えてくる。症状の説明が書いたレジュメを見ると、大きく「疣」と書いてあった。どうやら魚でも鶏でもなく犬だったらしい。

夫のプレゼントを買う
『シャネルーその言葉と仕事の秘密』を読んで、夫にシャネルの香水を買うことを思いついてしまった。
先日「メンズ向け!モテる香水」みたいな動画を見たせいかもしれない。
我々の購買意欲はあちらこちらに散らばる情報に無意識のうちに左右されているのだ。
夫が普段使っているものが女性向けのソープ系の香りだったので、ガラリと雰囲気は変わるが、大人ダンディーな香りのものを求めてシャネルのカウンターへ。
2歳が走り回る中、なんとかBLEU DE CHANELのeau de parfumを嗅ぐと、一発で好きな香り!だと思い即決。来てすぐに購入を決める日本人に店員さんは少し戸惑っているように見えた。
夜夫に渡すと早速つけてくれて、その匂いに包まれながら眠った。

人と遊ぶ
こちらに来てから知り合った人と、家で遊んだり、ランチをしたり。
大人になってから、友達を作る難しさを感じる日々だけれど、明確に向こうから「仲良くなりたい」と示してくれるのは嬉しい。
素敵なお店に美味しいランチを食べに行って、そういえば、昔はこういうところに行って、友達ときゃっきゃしていたかも、と思い出す。
市場で買ったというライチをたくさんいただいたりして嬉しい。

最近よく、自分について考える。
『存在の耐えられない軽さ』で、テレザが言っていたことを思い出すのだ。

またもし、私の体の一部分がそれぞれ大きくなったり、小さくなったりして、あたしとは似ても似つかないくらいになったら、それでもまだあたしはあたしなんだろうか、テレザと言う人間がまだいると言えるのだろうか?
 もちろんだわ。たとえあたしが全然あたしに似ていなくなっても、中にあるあたしの心は同じなんだし、その心は自分の体に生じることをそっと見守っているしかないんだもの。

p.160、クンデラ、『存在の耐えられない軽さ』、「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-3」、西永良成訳、河出書房新社。

子どもを産んでも、私は私?本当に?
母親という社会から求められる像(体)に一人だった自分から変化しても、私は私だと、自分を保持していられるのだろうか。
人1人生み出すなんて大仕事をして、人間は同じでいられるんだろうか。いや、変化は当然だしそれが悪とは思わないが、母親として生き、母の役目を終えた時、何も残らないのが怖いのだ。だから私は、必死に今日も何かを得ようと本を開き、何かを学ぼうともがいているのかもしれない。



6.12
今日もじっとりした朝。
4歳のギャン泣きボイスで目をさます。
朝の準備をする夫もお手上げ状態。
私はのっそりとベッドから抜け出し、抱き上げ、なだめ、少し怒り、朝食を食べさせるところまでなんとか進める。
4歳は夫にはとにかく甘えん坊、を通り越して暴君だ。
思い切り甘えられる相手がいることはいいこと、と自分に言い聞かせる。

だるい体にスイッチを入れるため、ノリノリの洋楽を聴く。
明日は人が来るから、放置していた水回りを掃除し、朝ごはんはプロテインで済ませる。
なんとも人間らしい午前の過ごし方だ。

昨夜、アニー・エルノーの「事件」を読んでいた。
語り手は書くことで「あの時」の記憶を、感情を取り戻そうとするが、読者はそれを追体験する。
望まない妊娠の焦り、中絶の恐怖、世界からの断絶。
中絶が禁じられていた、1960年代のフランス。
Sexは生殖のための行為で、避妊や中絶が禁じられるのは、ある意味では”正しい”のかもしれない。
快楽を求めた先の中絶は悪かもしれない。
けれど正しさが人を救うとは限らない。

自分は女性だし、子持ちだから、特に中絶の場面は恐ろしく、本を少し離しながら読んだ。
彼女の小説は「嫉妬」もだが、感情のリアリティ、再現性がすごい。読みながら私は「私」に、そして「わたし」になっているのだから。映画も見たいな。


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