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妄想レビュー返答

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こちらは、企画「妄想レビューから記事」の返答をまとめたマガジンになります。 企画概要はこちら。 https://note.com/mimuco/n/n94c8c354c9c4
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#冒険

小説『天の川を探して』【note創作大賞応募作品】

   【プロローグ】 私が小学五年生の夏、父と母と私の家族三人でY県の山奥にある村に引越しした。  家はとても古い小さな木造の日本家屋で、玄関の土壁の端っこが剥がれて竹小舞がむき出しになっており、居間まで風が吹き込んできた。時々、そこからムカデやトカゲが家の中に入ってくると、母は悲鳴を上げて「早く街に帰りたい」と文句を言っていたけれど、私はこの家のピカピカの青い瓦屋根と、広い広い庭を見渡せる長い縁側が気に入っていた。  街にいる頃は、マンションに住んでいたから小さなベランダに

【新】連載小説「天の川を探して」(1)冒険の始まり(ミムコさん企画「妄想レビューから記事」参加作品#妄想レビュー返答)

 私が小学五年生の時、父と母と私の三人家族でY県の山奥にある村に引越しした。  コンビニでお菓子を買うことも、休みの日に映画に行くこともできない、田んぼと山ばかりの村だったけれど、新しい小学校は小学二年生から六年生までの八人の生徒だけで、転入生の私を優しく受け入れてくれたから、私はすぐにそこでの暮らしもそんなに嫌ではなくなった。  特に、同い年のカズキくんとチハヤちゃんとは仲良しで、カズキくんのふたつ年下の妹・ミヤちゃんを加えた私たち四人は、学校が終わればいつも一緒に遊ん

連載小説「天の川を探して」(3)子どもたちの秘密(ミムコさん企画「妄想レビューから記事」参加作品)

「でも、狸(たぬき)川って大きいんでしょ? どうやって渡るの? どこかに橋でもあるの?」  チハヤやカズキがいくら楽観的とは言え、橋がなければ小学生だけで狸川を渡ることなど不可能に思えた。 「橋はあかんな。ずーーっと川下らなあかん。でも、大丈夫や。カズキがおるから」 「せや! 兄ちゃんの出番や!」 「お前らが威張んなや!」  私が「何のこと?」と不思議な顔をしていると、カズキがポンと肩をたたいた。 「アンちゃん、安心し。うちは『亀』の家やからな」  カズキはそう言うと、野

連載小説「天の川を探して」(4)亀宮神社(ミムコさん企画「妄想レビューから記事」参加作品)

 チハヤの口笛で鳥たちが光の道を作る。この光は、「彦星様人形」のいる「きのみや神社」に続いているらしい。  私はポケットにしまった人形を優しく触りながら、「きっと、あなたは『織姫様』なのよね。チハヤちゃんたちが言うんだもん、間違いない。もうすぐ、『彦星様』に会えるからね」と心の中で話しかけた。人形はうんともすんとも言わないけれど、喜んでいるような気がした。  暫く山の中を進むと、突然ぽっかりと空が開けた。もう夜になっているけれど、空は厚い雨雲に覆われたまま月さえ見えない。

連載小説「天の川を探して」(5)出逢いの橋(ミムコさん企画「妄想レビューから記事」参加作品)

「三途の川」と聞いて、私はどきりとした。  子どもの私は「三途の川」が何か詳しくは知からなかったけれど、亡くなった人たちが渡る川だということをどこかで聞いていた。三人と一緒にいると不思議なことが起きてわくわくしていたけれど、そんなところへ連れて行かれるのだとしたら話は別だ。急に背筋に冷たいものが流れていく。  カズキが足を止めたのは、祠(ほこら)のすぐ近くにある山から流れる湧き水でできたような細く小さな川だった。狸川がゴーという音だとしたら、こちらはチョロチョロだ。ただの

連載小説「天の川を探して」(6)天の川(ミムコさん企画「妄想レビューから記事」参加作品)

 すると突然、小川の「あっち側」の山の中から、冷たい突風が私たちを強く吹き付けた。 「わあ!」「きゃあ!」「うわあ!」  あまりの強い風に、私たちは全員、声を上げて一斉に尻もちをついてしまう。  突風は私たちを倒した後、木の葉や土埃を巻き込んで、勢いよく空に昇って行った。 「何や、今のは! 皆、大丈夫か?」  カズキは一番にミヤの手を取ってから、私たちの安全を確認した。ミヤは、尻もちをついたまま、ぽかーんと口を大きく開けている。私とチハヤは、地面に倒れたものの怪我はなく、「

連載小説「天の川を探して」(7・最終話)天を見上げて(ミムコさん企画「妄想レビューから記事」参加作品)

 その時、ミヤが空に向かって大きく口を開けていることに、カズキが気が付いた。 「ミヤ、何やっとねんや。わけわからんもん、口に入れたらあかんで」  カズキが声を掛けると、ミヤは「らって、おいひいんよ。兄やんも食へてもえーよ」と、口を開けたままもごもご話した。 「──おいしい?」  不思議に思った私とカズキとチハヤは、降り続ける小さな「何か」をてのひらで受け止めようと、両手でコップの形を作る。  こつん、こつん、こつん。降り続ける小さな「何か」は、やがて五粒ほど私のてのひら