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弁当が好きだ。

−−煮卵、梅干し、鶏肉を醤油で焼いたやつ、じゃがいもをシャキシャキに炒めたやつ、白いごはん−−

 
 弁当を詰めるのが好きだが、特にこだわりはない。冷凍食品や惣菜を使わないのは、単に金がないだけだ。手間を買って食費を安くしている。

 実家にいた頃から弁当は毎朝詰めていた。自分と、父の分。父のはついでだ。ひとり分もふたり分も、手間はあまり変わらないから。父の分は私が詰めなくても母が詰めるので、彼女の仕事を少し減らす助けはできていた。

 弁当を詰め始めたのは、ただ母の役割を自分で担い始めたわけではなく、当時の同僚に「会社の仕出し弁当を買って食べるなんて、もったいない。1食400円もして、脂っこいものしか入ってないんだよ、あれには。美味しくもないし。弁当詰めてきなよ、夕食の残り物とか適当でいいんだからさ! あんなのにお金払うなんてもったいないよ!」と言われたのがきっかけだ。

 本当に混じりっけなく純粋な気持ちで、「確かに!」と私は頷いた。その翌日から、弁当を詰め始めた。

 やってみたら意外と私に合っていた。早起きして、家族が寝静まる青暗い、肌寒い朝に、ひとり、台所に立つのが。

 思えば早起きは元から得意と言ってよかった。学生時代の早朝コンビニバイトに、旅館の朝の配膳など。遅刻したこともほとんどない。

 朝を苦には思わなかった。むしろ、朝日が完全に昇る前に目覚められると安心した。ゆっくり明るくなっていく窓の外を見て、これから今日が始まる、そう実感する。

 弁当を詰め、洗濯機を回し、出勤の準備をし、アニメを1話観て、それでも部屋を出るにはまだ早い。あと20分はぼーっとしていられる。最高。私は私のタイミングで、1日を始められる。早起きは、そんな気にさせる。

 弁当作りは習慣として定着した。私は私が詰めた弁当を会社で食べるのが楽しみだ。安っぽくて、素朴で、テキトーで。腹に入ればオッケー!って感じが、とても好き。

 せっせと週末に作り置きするのも、弁当に詰めるおかずを増やしたいからだ。100円ショップで買ったなんの個性もこだわりもない、洗いやすいだけのタッパーにごはんとおかずをいくつか詰めれば、ちゃんと私のお昼ごはんになる。すてきだ。

 ひとり暮らしを始めた今も、昼食に自分で詰めた弁当を食べたくて、毎朝早起きしている。

 −−−私、ここで、生きてまーす!−−−

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