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アガサ・クリスティ『ゼロ時間へ』三川基好訳、早川書房

去年の暮に読み始めて元旦で読み終えた。(最後の最後に来たときに長い地震があったがそのまま読み続けた…。)

一年の終わりと始めはどうも落ち着かなくて、ちゃんと本を読む気分になれないことが多い。それで今回は新しい本には手をつけずに、かなり昔に読んだこの本を本棚から取り出して読み始めたのだが、ありがたいことに全然覚えておらず(!)初読のように楽しめた。

実は、暮れにもう1冊読んでいたのだ。初めての作家のミステリーで、軽いタッチでジョークがいっぱいのもの。でもいくら娯楽作品とはいえ、最初に人が死んでいるのにこんなに明るいのは変だよなぁと違和感を感じながら読み終えた。そのすぐ後にそれとは対照的なこの『ゼロ時間へ』を読んで、クリスティの人間の描き方はやはりさすがだと思ったのである。

「ゼロ時間」とは殺人が行われた瞬間のことで、そこに至るには関係する人間たちのあれこれの経験があり事情がある。それらが絡み合ってついにゼロ時間になるのだという考え方。この小説では、本来事件とはまったく関係がないはずだったある男の自殺未遂の話や、事件に関わることになる刑事がかつて娘が学校で巻き込まれたトラブルの話などから話が始まっていく。そして殺人事件はやっと小説の後半で起きる。わたしは推理小説には詳しくないけれど、この手法はかなり斬新なものだったらしい。

クリスティをまた読みたくなった。


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