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『短歌タイムカプセル』東直子ほか編 (書肆侃侃房)

短歌のアンソロジー。ソフトカバーで軽くてカバンに入れやすい本。値段も手ごろ。通勤電車の中で読んだら良さそう。(わたしは通勤していないけどね。)わたしは俳句や短歌にはあまり縁がなくて、どちらかというと詩を読むことが多いのだが、このアンソロジーで短歌を集中的に読んでみて、五七五七七の短歌独特の言葉の空間がとても面白いと思った。狭すぎず、かといってそれほど広くないのでやっぱり不自由なのである。たくさん読んでいくうちに、自分でも詠めないものかと思ってしまう。でも五七五七七はけっこうきつくて簡単ではない。以下は好きだった歌のごく一部。そのうちに再読したときには違う歌がいいと思うかもしれなくて、それも楽しみ。

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息を呑むほど夕焼けでその日から誰も電話に出なくなりたり  石川美南

もういやだ死にたい そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい 岡野大嗣

あの夏の数かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ  小野茂樹

遊ぶ子の群かけぬけてわれに来るこの偶然のやうな一人を抱けり  川野里子

立てるかい 君が背負っているものを君ごと背負うこともできるよ  木下龍也

一斉に都庁のガラス砕け散れ、つまりその、あれだ、天使の羽根が舞ふイメージで  黒瀬珂瀾

猫じゃらしにつよく反応せし頃のきみをおもへり十年が過ぐ  小池光

ここはくにざかひなので午下がりには影のないひとも通ります  笹原玉子

食べ終えたお皿持ち去られた後の泣きそうに広いテーブルを見て  佐藤りえ

好きでしょ、蛇口。だって飛びでているとこが三つもあるし、光っているわ  陣崎草子

こんなにもだれか咬みたい衝動を抑えて紫陽花の似合うわたしだ  陣崎草子

あやめあやめたぶんこれから繰り返すあやまちさえもわたしのものだ  田丸まひる

振り向かぬ子を見送れり振り向いたときに振る手を用意しながら  俵万智

世界よりいつも遅れてあるわれを死は花束を抱えて待てり  西田政史

こんなにもふざけたきょうがある以上どんなあすでもありうるだろう  枡野浩一

ふるさとがゆりかごならばぼくらみな揺らされすぎて吐きさうになる  山田航

おねがいねって渡されているこの鍵をわたしは失くしてしまう気がする  東直子




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