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有栖川有栖さんと吉川トリコさんの優しさに包まれた夜。①

気がつけば早くも一週間が経ってしまったが、有栖川有栖さんと吉川トリコさんをお迎えしてスペースで公開対談を開催した。が、大変申し訳ないことに大波乱のスタートとなってしまい、パニックで幽体離脱しそうになったのでその様子もお届けしたい。



吉川トリコさんの『小説家のトリ説 初級編』(以下トリ説)刊行を記念したスペースを開催したいと考えた時に、すぐに頭に浮かんだのが有栖川さんだった。一線を走り続ける大人気のミステリの書き手なのはみなさんご存知だと思うけれど、同時に「有栖川有栖創作塾」という小説教室を開いて長年沢山の生徒さん達に向き合っていらした方でもある。

私は会社員時代にたまたま生徒さんの原稿を読ませていただく機会があり、有栖川さんがとても丁寧にその方に接していらっしゃるのを間近で見た。何かを教える、教えられるという関係にはどうしても上下ができやすいと思うが、有栖川さんはとてもフラットで親切で、編集者である私が知っている姿と全くずれがなかった。他の作家さんに接する時、編集者に接する時、読者の方に接する時、生徒さんに接する時のどれを取っても差がなく丁寧で礼儀正しいって、簡単なことではない。

作品が素晴らしくて人としても素敵で、何だかとても良いものを見せていただいた。こんな大人になりたい。そう思ったことを覚えている(でもその時点で私は30歳をとうに超えていた気がするので、何言ってんだろうって感じですが)。

トリ説も吉川さんの作家志望者、新人作家さんへの愛情に溢れた優しい本で、お二人には共通点が多いのではないかと感じた。そんなわけで有栖川さんにお願いしてみたところ、有難いことにO Kをいただき公開対談の開催に至ったのだが……当日はアクシデントで始まったのだった。


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元々出演者のお二人には5分前にスペースに入っていただいてスタートに備えましょうか、と言っていたのに、開始時間になっても有栖川さんがスピーカーとしてお話しできる状態にならなかったのだ。続々と集まるリスナー、どうやったら解決できるのか分からないトラブル、そしてもうよく分からない感情で半笑いの私。

その間、吉川さんに一人でトークいただきながら、私は有栖川さんにお電話でスペースへの入り方やスピーカーへの切り替え方をご説明していたのだけど、どうやってもマイクがオンにならない。電話の向こうの有栖川さんのお声も弱りきっている(しかしそんな時でもお優しい)。ネット関連に最低限の知識しかない私は、はっきり言ってほとんど役に立たないのであった。

ただ、ああでもない、こうでもないとお話ししていて分かったのは、有栖川さん側の問題ではなく、どうもXの不具合ではないかということだった。同時に、私の準備不足のせいなのも間違いない。予行演習をしておくべきだった&スペースで起こり得るトラブルについて勉強しておくべきだったのに……でも気がついた時には遅い。

後から録音を聞いてみたら、吉川さんは現在ご執筆中の作品(「つぶれた苺を食べること」CLASSY.で連載中)のためのリサーチや、有栖川さんとの打合せの様子、ご自身のデビューのエピソードなどを孤軍奮闘でお話し下さっていた。いきなりお一人で話させてしまったのに頑張って下さっていて泣けた。ちなみに吉川さんもまた、とにかくオープンで優しく、「友達になりたい作家」ランキングがあったら一位に輝くに違いない(と私は勝手に思っている)方なのであった。こんなトラブルの時でもお優しくて、ただただ申し訳なかった。

トラブルを解決できる目処が立たず魂の抜けかかった私が「今日は延期するしかないかも」と諦めかけた時、突然、有栖川さんが颯爽と登場された(アーカイブの28:10頃です)。なんと有栖川さんは自力で問題を解決して下さったのだ。吉川さんと私は大喜びでお迎えし、リスナーの方達も拍手のアイコンを次々と送って下さった。あたたかい……。有栖川さんと吉川さんだけでなく、ファンの方達まであたたかい……。

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有栖川さんの登場で全て終わった気がして「お疲れさまでした!」と言いたいところだったが、そこからがようやく本番なのだった。「せっかく入れたので、これ以降は一生懸命喋ります!」という有栖川さんのお言葉を皮切りに、「創作塾」のことを伺うところからスタートした。

有栖川さんはなんと17年も小説教室をされていて、のべ500名以上の方に教えていらしたとのこと。元々は中山市朗さんのお誘いがきっかけで、ご自身が作家を志してからデビューまで長い時間がかかったこと、新人賞の選考委員を務めていても応募者に直接アドバイスをできるわけではなく、もどかしいお気持ちを抱えていたこともあり、「私なりに話せることはあるはず」と思って始められたそうだ。

そして、トリ説のご感想も伺った。

ちなみにこの本は吉川さんがコロナ禍で横の繋がりがなくて困っている新人作家さんをサポートするために始めたマシュマロの企画が元になっていて、新人さんだけでなく小説家志望の方達からのありとあらゆる質問にも答えている。新人賞応募に向けて実践的なアドバイスもありつつ、執筆を続けるモチベーションを保つメンタルのことにも踏み込んで解説している珍しい本でもある。

有栖川さんからは「何と言っても感心するのは吉川さんの丁寧さ。こんなことに迷ってます、困ってますという相談に、すごく丁寧に寄り添っている」とのお言葉をいただいた。「すごく丁寧にご説明されていて、小説のやり方は人によって違うけれど、全部に納得のいくお答えを返していて読み応えがありました」とも。担当編集としては嬉し過ぎるご感想だった。

「回答もさることながら、小説を書いている人は、他の人も同じようなことで困っているんだとか、そういうところも確かに難しいよねとか、共有できるということも意味がある」

というご指摘も「そうそう、そうなんです!」と嬉しくなった。


まだスペースの本編について始まったばかりだけど、長くなり過ぎるので、2回に分けて公開させてもらおうと思う。続きはまた来週!




当日のスペースの音声は下記からお聴きいただけます。

『小説家のトリ説 初級編』刊行記念スペース・アリスとトリコの小説講座・ゲスト有栖川有栖さん




『小説家のトリ説 初級編』の詳細はこちら。