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写真展「border」徹底ガイドvol.10 見えない明日へ(border | HongKong)

Wall_Eは、各所に点在するborderをコラージュする壁になっています。一つ一つの写真から、2020年代という時代が透けて見えるものであってほしいと考えています。

#24 HongKong 2019

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1997年7月1日、香港返還という歴史的なイベントを僕はテレビで見ていた。艾敬(アイ・ジン)という若い歌手が「我的1997」という曲をヒットさせていて(曲自体は94年に日本発売)文化的に遅れた本土の女の子が、憧れの香港に行ける…という歌詞がとても新鮮だった。

私を夢の世界に行かせてよ 私に出国の紅いスタンプを頂戴
1997年、早く来て ヤオハンって本当はどんなところ?
1997年、早く来て 私、HONGKONGに行けるわ
1997年、早く来て 私を香港コロシアムで歌わせて
                           艾敬「我的1997」

僕は1995年に中国大陸を回ったことがあったのだが、艾敬が歌うように当時香港は別世界。borderの向こうはイギリス領の夢の世界だったのだ。

それから22年後の1999年7月1日、僕は香港にいた。ヘルメットにゴーグル、マスクを付けた群衆に紛れながらも、黒いシャツを着ていると逆に危険だと思い、白いシャツを着ていた。大通りは群衆で埋め尽くされ、ピリピリとした空気が周囲を支配する。ボランティアの学生さんが、僕の両手にサランラップを巻いてくれた。催涙ガスを食らった時に皮膚を守るためなのだそうだ。その晩、学生たちは立法会へと流れ込んだ。動乱が始まろうとしていた。

「我的1997」を歌っていた艾敬は今、アメリカで暮らしている。かつて彼女が夢見た街は今、塗炭の苦しみを味わいながら大きな覇権の波に飲み込まれようとしている。香港の街を覆い尽くすほどに膨れ上がった巨大なデモの流れ。その中心にいるのは、1997年前後に生まれた子どもたちだ。この光景は、どんな未来に結びつくのだろうか。

#25 Salalah Gun Souq, 0man 2010

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丁寧に整備された古いライフルを手にする初老の男性。場所はオマーンにある銃のマーケット。ここではアンティークの銃、そしてナイフを手に入れることが出来る。
僕は将来、19世紀に作られたライフルを軸にした作品を撮りたいと考えている。銃という大量生産品が様々な国に渡り、それぞれの国の歴史を変えていく、そんなストーリーだ。その最初の一歩としてこの一枚をborder展に展示した。
オマーンの西隣はイエメン。現在は内戦が激しくそのborderを越えることはできない。 



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