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写真展「border」徹底ガイドvol.13 見えない明日へ(border | Mexico)

 Wall_Eの最後はアメリカとメキシコの国境で撮影した横長の写真と、霧に覆われた東京の写真で終わる。それぞれの写真はどんな意味を持っているのだろうか。

#30 Tijuana. US-Mexico border 2019

住宅街の向こうに広がっているのは、まるで竜の背中のように波打ちながら伸びる国境のborder。撮影した場所はメキシコの最北端、もしくはアメリカ最南端の境界線の街、ティファナだ。
アメリカとメキシコの国境線は全長3141キロメートル。今でこそ当たり前のこの国境線だが、確定したのは150年前にすぎない。

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そもそもサンディエゴもロサンゼルスもサンフランシスコも、全てメキシコの一部だった。いまでは考えられないことだが、テキサスは独立国(テキサス共和国1836-1845)だった時期すらあるのだ。結局、米墨戦争(1845-1848)で多数の犠牲者を出すことによってカリフォルニアをはじめとする多くの州が米国領となった。この地域の街の名前がスペイン語の響きを持っているのは、そんな理由がある。現在の国境線が確定したのはちょうどペリー提督が黒船と共に浦賀にやって来た年(1853)のことだ。

アメリカ合衆国の発展とともに引かれたborderだが、アメリカ経済が発展するとともにメキシコや中米からの不法入国者が常態化する。不法移民は米国南部の農業労働を支えたが、一方で犯罪組織や麻薬の密売にも繋がった。2006年の安全フェンス法で両国の間に壁を建設することが決定。2016 年に当選したトランプ大統領がその壁をより高く、より長くしようとしているのはご存知の通りである。

地図上に引かれた一本の線は、人々の運命にどんな影響を与えるのか。

 日曜日、ティファナの海岸線にあるフェンスでは、アメリカとメキシコに別れた人たちがフェンス越しに対面することができる時間がある。サクラメントに住んでいるという子供連れの家族が、メキシコに住むおばあちゃんに子供達を会わせに来ていた。フェンスの空間から出た指を触れることで温もりを感じることができるトランプ大統領の時代になって厳しくなった国境管理が、家族を引き裂く。

実は僕も簡単にはアメリカに入れない。パスポートにはイラクのビザが貼られているし、イランや北朝鮮への渡航歴もある。大使館で面接を受ければビザが下りるかもしれないが、いずれにせよこの時の訪問で僕はアメリカに入ることは出来なかった。
越えられないborderの向こうにあるアメリカという国は、とても遠く感じた。

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