ホーチミンでベトナム戦争の歴史を追う
旅の初めはホーチミン。慣れないリモートワークと格安ドミトリーでの生活を数日こなした後は、おしゃれなカフェに行ったり、スパに行ったり、オペラハウスで素敵なショーを見てきて、自由に海外での生活を満喫。
それでも「なんか物足りないなー」とホーチミンの歴史を学ぶために観光をして、最後に訪れたのがベトナム戦争証跡博物館。
結論から言うと、ホーチミンで訪れた場所で一番衝撃的で、行ってよかったと思える場所でした。
資料館では、世界各国のジャーナリストたちが命がけで撮影し、思わず目を背けたくなるような、かなりきつい写真が多く展示されています。
それでも、残酷な戦争が過去に実在し、それに苦しめられた人がいたこと、同じ歴史を繰り返してはいけないと、この資料館は後世に伝えてくれます。
Those who cannot remember the past are condemned to repeat it - George Santayana
(過去を記憶できない者は同じ過ちを繰り返す。 - ジョージ・サンタヤナ)
値段はたったの15,000バーツ、日本円で75円。正直もっとお金を出してもいい。それくらい、ホーチミンに訪れたのなら、かなりショッキングではあるけれども、ぜひ訪れてほしい場所です。
過去を記録した者として、その歴史と感じたことをまとめたいと思います。
ベトナム戦争とは?
簡単にベトナム戦争の説明を。今すぐ詳細の歴史を学びたい人は、中田敦彦のYoutube大学の動画を見ると良いです。
ベトナム戦争は、「宣戦布告なき戦争」であったため、始まった日を明確に決めることができません。一般的に開戦は1955年とされ、1975年4月30日に終結したと言われています。
戦争の主な内容は、「北ベトナム軍」と、「南ベトナム軍・アメリカ軍」の戦いです。
「北ベトナム軍」は、今では英雄となったホーチミンが軍を率い、フランスの植民地だったベトナムを解放して、共産主義を実現しようと立ち上がります。
一方、「南ベトナム軍・アメリカ軍」は、ベトナム人の中でも共産主義に反対する知識人や資本主義の人々と、世界の共産主義化をなんとしても阻止したいアメリカがそれを軍事介入する、この2つの対立でした。
北ベトナム側の兵士数は126万人、対する南ベトナム軍・アメリカ軍は200万人が戦争に参加したといわれ、約20年のうちに大量の死者・行方不明者を出しました。
泥沼化したベトナム戦争の悲惨さ
この戦争は、アメリカ人にとっては目を背けたい悲惨な戦争でした。これは資料館にあったアメリカが関わった戦争の比較表。
(「TABIZINE」より)
第二次世界大戦での戦争は3年だったのに対し、ベトナム戦争はなんと17年も続きました。そして、なんとアメリカ軍は撤退し、北ベトナム軍は勝利を納めたのです。
当時、アメリカでは徴兵制が用いられ、若者が戦場に送り出されましたが、長期による戦争で多くの兵士が疲弊し、休暇で日本に行ったアメリカ兵士の中には、そのまま日本へ逃げ出す者もいました。
(予告『ハーツ・アンド・マインズ』より)
アメリカ軍が使用した爆弾の合計は、第二次世界大戦では500万トンに対し、ベトナム戦争は1430万トン。動員数は、第二次世界大戦の約半分の800万人でした。
歴代4人の大統領が、北ベトナムに勝てると判断を誤り続け、大量の爆弾を投下し、長期化したこの戦争。どれだけ悲惨だったかが分かる比較表です。
対して、北ベトナム軍の独立への執念を感じさせられます。
誰が敵かわからないアメリカ軍
この戦争で驚くべき一つの事実が、北ベトナム vs 南ベトナム(+アメリカ)との戦いであったため、アメリカ人にとっては誰が敵か判断がつき辛かったことです。
加えて、アメリカ軍は、北ベトナム軍のゲリラ戦術に苦しめられ、次第にベトナム人の全てが敵(ベトコン)に見えるように。そのため、アメリカ軍は疑わしいベトナム人は一般人でも捕らえ、殺害するようになりました。
ベトナム戦争は〇〇が終わらせた最初の戦争
ベトナム戦争は、他とは大きく違った側面があります。
それは、ベトナム戦争は、メディアが終わらせた初めての戦争だったことです。
この戦争は、初めてメディアの自由報道が認められ、一般家庭のお茶の間にも戦争の様子が流れました。
これはアメリカの戦略で、メディアの報道により
1. 世論の好印象を得ること
2. 自国の愛国心を高めること
を目的としました。
しかし、結果は逆効果でした。
独自に調査を行う報道員が増えた結果、アメリカが報道をコントロールできなくなり、お茶の間のTVに流れ、生々しい戦争の映像はアメリカ自国民の反戦感情を産むようになったのです。
日本人写真家による「安全への逃避」
(爆撃からの逃走。 © Corbis/沢田教一(UPI))
「安全への逃避」と題された写真が資料館で展示されていました。これは日本人の報道写真家の沢田今日一さんが撮影した写真です。
沢田さんが戦場に赴いたとき、米軍の爆撃から逃げるため、川から渡ってきた家族を発見しました。こんな日常が17年間至る所で発生していたのです。
この写真は、ベトナム戦争の現実を問いかけ、翌年米ピューリツァー賞を受賞し「戦争の終結を2年早めた」とも言われています。まさに、ベトナム戦争はメディアが終わらせた戦争だったのです。
Facebookでも議論になった「戦争への恐怖」
この写真は、ベトナム人のニック・ウット氏が、南ベトナム軍がナパーム弾を投下し、泣き叫びながら彼の方へ走ってきた子どもたちを撮影した「戦争への恐怖」という写真です。
裸の少女が泣き叫んでいる様子から、「ナパーム弾の少女」とも呼ばれています。
この写真を見た時、本当に胸が苦しくなりました。「もし、自分がこの時代のこの国に生まれていたら、そこはもう地獄のような...」と想像すると、かなりこみ上げてくるものがあります。
(実際の資料館で撮影した写真)
また、2016年にノルウェーの作家がこの写真をFacebookに投稿したところ、少女が裸という理由でFacebook社に写真を削除されてしまいました。
これに対し、「私たちが共有する歴史の編集」だと批判が集まり、大きな話題になりました。(結果的にFacebookは謝罪をしなかった)
残酷な兵器、枯葉剤
ベトナム戦争で使われた残酷な兵器があります。それが枯葉剤です。
ベトナム軍のゲリラが身を隠す木や食料を奪い、一掃するために、ベトナム南部に8000万リットルの枯れ葉剤が散布されました。
枯葉剤は一度巻かれるとジャングルを一掃するほどの威力を持っていることに加え、これには実は発がん性や、奇形児を生む副作用を持つダイオキシンが含まれる事実が後から発覚しました。
資料館では、枯葉剤による多くの奇形児の写真が展示されています。皆、しっかりと写真を目を向けるも、本当に悲しい顔をしていました。
この枯葉剤の影響は今何世代も続いています。ホーチミンの市内でも腕を失った人や、顔が腫れおそらく枯葉剤の影響を受けているだろう人が募金を求めていました。目を背けたくなりましたが、これが現実でした。
今年の2019年4月に、アメリカはベトナムの枯れ葉剤貯蔵施設跡で1億8300万ドル(約205億円)規模の浄化作業を開始したようです。(作業の完了までには10年かかるという)
枯葉剤の被害者「ベトちゃん・ドクちゃん」
枯葉剤による被害者において、日本でも「ベトちゃん・ドクちゃん」が有名です。この2人は下半身がつながった結合双生児として生まれました。
兄のベトさんは急性脳症を発症し、その後意識不明の重体に。2人とも死亡してしまう事態を避けるため分離手術が行われました。
兄のベトさんは2007年に他界されました。弟のドクさんはその後結婚し、今でもベトナム戦争の残酷さ、枯葉剤による残虐性を語っています。
この目で過去の歴史 / ファクトに目を向ける
本当に恥ずかしくも、この資料館を訪れるまでは、「ベトナム戦争ってよく知らないけど、すごく長く続いた戦争なんだよね」と言ったぐらい無知な自分でした。
しかし、実際に観光客 / 旅人として、その体で資料館と街を訪れ、その目で見て感じることで、今まで教科書の情報でしかなかったものが、本当のリアルになりました。
展示されている内容は本当にショッキング。でも、もしベトナムのホーチミンに来たら、多くの人に訪れて欲しい場所です。
決して、昔のことではない。日本が原発で敗戦してから起こった、長期に渡る戦争。その傷跡は今も残っています。
【ベトナム戦争証跡博物館】
Address: 28 Võ Văn Tần, Phường 6, Quận 3, Hồ Chí Minh
Google Map: https://goo.gl/maps/ULJwiTkjAHGES5iH6
ベトナム戦争を学べる動画
今回資料館を訪れた後に、ベトナム戦争に関する動画をいっぱい見たので最後にご紹介します。(ネットで何でも勉強できる本当に良い時代...!)
1. 「東南アジアとASEAN誕生の歴史〜後編〜ベトナム戦争」
冒頭でも紹介した、中田敦彦のYoutube大学「東南アジアとASEAN誕生の歴史〜後編〜ベトナム戦争」がおすすめです。
あっちゃんの笑いあり、テンポよく分かりやすいトークで歴史を学べます。(ベトナム戦争は6分~)
2. 池上彰の現代史講義 「ベトナム戦争と日本」
信州大学で行われた池上彰さんの特別講義がYoutubeで見れます。少し知識がある人にはこちらがおすすめ。めちゃくちゃわかりやすく、さすが池上さんという内容です。
3. The Vietname War / Netflix
ネットフリックスで見つけた長編ドキュメンタリー。
映画と思ったら、何と全18時間のドラマでかなりのボリュームですが、テンポがよく、実際にベトナム戦争を経験した人たちの話が聞けて、これがすごく面白く現実味を感じられます。Netflixに登録している人には是非おすすめ。
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