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新型コロナウイルス 、反人種差別デモと偽情報(2)

アメリカでは、新型コロナウイルスのパンデミックがまだ続く中、米ミネソタ州ミネアポリスでジョージ・フロイドさんが警官に押さえつけられ死亡した事件を受け、各地で大規模なデモが起きています。それに伴い、オンラインのデマや偽情報も問題になっています。

「ネット上の一見馬鹿げたデマを真剣に取り上げる必要があるのか」「信じるのはごく一部の人で、実際の生活にはそこまで影響はないのではないか」という声もよく耳にしますが、アメリカに住み、パンデミックとデモを巡る議論をウォッチしていて改めて「共通しているな」と感じることは、誤情報・偽情報はオンラインにとどまらず、オフラインでも大きな影響を与えているということです。

パンデミックとデモに関し、アメリカで実際にどんな誤情報・偽情報が拡散しているのか、そしてそれが私たちの実生活にどのような影響を与えているのか、関連する事例や研究を紹介したいと思います。今回の記事では抗議活動の様子を紹介しつつ、デモを巡る偽情報や誤情報に焦点を当てます。

全米各地で続くデモ

フロイドさんが死亡した事件に関するデモは、全米50州に拡大しています。私が今住んでいるニューヨーク・ブルックリン地区でも毎日至るところでデモが行われています。パンデミックはまだ続いていますが、私も最大限の予防措置を取って、友人らと一緒にデモに参加しました。

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ブルックリンにあるバークレー・センターでのデモの様子(筆者撮影)

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路上を行進するデモ参加者ら(許可のもと筆者撮影)

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プラカードを掲げるデモ参加者(許可のもと筆者撮影)

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デモが行われている周辺では、参加者に無料で水や食料、マスク、消毒液などを配るボランティアや、けが人が出たときに備えた救急隊として参加する市民も多数いました。ほとんどの人がマスクを付けて参加しています。一部のデモは激化して逮捕される人も出る事態になっていますが、私が参加したものを含めて大半はとても平和的に行われており、参加者は「Peaceful Protest!」(平和的なデモを!)と何度も呼びかけていました。

フロイドさん死亡事件とデモを巡る偽情報

デモを巡っても、オンライン上でさまざまなうわさや偽情報、誤情報が飛び交っています。

フロイドさんの首を圧迫して死亡させた主犯の警官デレク・ショウヴィンは第2級殺人容疑で訴追されましたが、ソーシャルメディアでは「保護観察措置にしか処されていない」とする偽情報が拡散されました。

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(広く拡散されたこのツイートのアカウントはすでに削除されているため、BuzzFeedNewsの記事よりスクリーンショット)

また、フロイドさんは実際には死亡していない、生きている証拠がある、と主張する動画やツイートも蔓延しています。下記のツイートは、「興味深い動画を見てほしい。このドクター(博士)は、ジョージ・フロイドが生きていると言っている。私が知らなかった証拠も提示している。ミネソタは民主党が強い地域だから、心理作戦を頻繁に行っているんだ」とし、証拠とされる動画を投稿しています。言うまでもなく、この動画はすでに、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)加盟のファクトチェック団体によって虚偽と判定され、YouTubeでも視聴できなくなっています。

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デモを巡っては、平和的に抗議活動を行っているにもかかわらず逮捕される事例が起きており、アメリカでは1万人以上が逮捕されています。そのため、多くのデモ参加者は警察の顔認識システムを使った監視を避ける対策を取っていますが、ソーシャルメディアでは「メイクをすれば顔認識されない」という誤った噂も広まっています。

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ホワイトハウスが根拠のない情報を拡散

さらに、ホワイトハウスの公式ツイッターアカウントも偽情報を拡散しています。

ソーシャルメディア上で、抗議活動を妨害するために、何者かによって路上にれんがや石などが積まれる事案が発生しているとする動画が一般ユーザーらによって複数投稿されました。BBCやBuzzFeed、Viceなどのメディアが行ったファクトチェックでは、れんがは抗議活動が起きる前から建設工事などのために積まれていたものだったことが分かっています。にもかかわらず、ホワイトハウスはすでに根拠がないと断定された複数の動画を組み合わせ、以下のようなキャプションとともにソーシャルメディアにアップしました。

「アンティファやプロフェッショナルのアナーキストたちは、我々のコミュニティを侵略しようとしている。れんがや武器を使って、暴力を誘発している。これはacts of domestic terror(国内のテロ行為)に当たる」

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(ホワイトハウスがツイッターに投稿したビデオとキャプションのスクリーンショット。出展:The Intercept

「アンティファ」はアンチ(反)ファシスト運動のことを指します。トランプ大統領は、「大多数の警察官」への支持を表明する一方で、アンティファがデモに絡んで暴力や破壊行為を推進しているとして、テロ組織に認定すると発言していますが、その根拠は示されていません

ホワイトハウスはフェイスブックとツイッターから動画を削除しましたが、詳しい説明や釈明はなく、ツイッターではすでに100万回以上再生されていました(保存された動画はこちらから見ることができます)。

武器を持った住民が反アンティファの抗議活動

オレゴン州では、このうわさを信じた住民たちが、ショットガンやライフルなどの武器を持ち、フロイドさんを巡る反人種差別デモの近くで「反アンティファ」の抗議活動を行っています。NBCニュースの記事によると、住民らは「(大富豪で投資家の)ジョージ・ソロスから資金援助を受けたアンティファが、近隣都市から流れ込んできている」といううわさを聞いて参加しているといいます。ワシントン州やインディアナ州でも同様に、反人種差別デモの近くで、銃を持ったグループがアンティファに対抗するための「パトロール」を行うなどしており、平和的に行われている抗議活動に混乱をもたらす可能性が指摘されています。

一方で、この動画を巡っては、れんがや石は、平和的な抗議活動を妨害し、暴力を誘発する目的で「アメリカ政府が意図的に設置した」とする根拠のない情報も、左派の反トランプ活動家らによって拡散されています。れんがは「政府によるset-up(罠)だ」と主張するこのビデオは、フェイスブックで9万を超えるいいねなどのリアクションが付き、少なくとも340万回再生されています。また、このビデオでは、新型コロナウイルスも抗議活動を妨害するためのより大規模な政府の陰謀だと主張しています。

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新型コロナウイルスの事例と同様に、今回のデモに関しても、オンラインの誤った情報や陰謀論が実際に人々の行動に影響を及ぼしています。また、人種や政治的信条を超えて団結を訴えるデモが、こうした偽情報やうわさを一つのきっかけとして、逆に人々の分断をさらに煽ってしまっているとも言えます。








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