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椎葉にある良きものを、なくしたくない。若手事業継承者が300年先につなげる未来へのバトン

2021年度、椎葉村は第6次長期総合計画づくりを行っています。
この記事では、計画づくりの中で行った住民インタビューをもとに、
一人ひとりの椎葉村への思いをまとめ、皆さんにお届けします。

今回お話を伺ったのは、有限会社鈴木組の鈴木宏明(ひろあき)さんです。

鈴木組は主に建設業を営む企業です。
3代目の宏明さんは、近年チョウザメを養殖して「平家キャビア」というブランドを立ち上げて製造販売したり、椎葉の特産品「ねむらせ豆腐」の事業継承をするなど、新たな分野にも進出を続けています。

そんな宏明さん、2021年2月に行われたアトツギ甲子園では「キャビアから始まる無くさない世界」と題したピッチ(プレゼンテーション)で、応募者数101人の頂点である最優秀賞を受賞した実力の持ち主。

【アトツギ甲子園とは】
若い世代の事業承継や、世代交代に伴う新規事業による中小企業の成長を促進するため、全国各地の中小企業の承継予定者(アトツギ)が新規事業プランを競う中小企業庁が主催のピッチイベント。

秘境・椎葉の地から、全国へ。
常に上を目指して挑戦を続ける宏明さんの思いを伺いました。

継ぐ気のなかった家業を前に見つけた「新しい挑戦の場」

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もともとチョウザメの養殖を始めたのは、宏明さんのお父さんだったそうです。

「(養殖を始めた当初は)まだビジネス化できてなくて、養ってますってだけの状態だったんです。そこをキャビアまで製品化して『平家キャビア』という名前で売ったのが僕なんです

大学を卒業後は一般企業に就職した宏明さん。
大学で学んだ情報システムの知識を活かし、ゆくゆくは東京でITでの起業を考えていたそう。

今でこそ椎葉に根ざして新規事業に挑戦的に取り組む宏明さんですが、元は地元に戻ってくるつもりは全くなかったと話します。

「きっかけがあって椎葉に帰ってきて、チョウザメの養殖をし始めて、商品作りを始めてとやっていくうちに、だんだん楽しくなってきて。楽しくなってきたら、椎葉村も好きになってきた。それで最終的に、ここに住んでやっていくと決めました」

初めは乗り気ではなかった「家業を継ぐ」ということ。

でも実際に始めてみると、その内容をそのまま継承するばかりでなく、自分で新しく挑戦できることがどんどん見えてきたという宏明さん。

それが、椎葉に住み、働いていく未来への「ワクワク感」を生み出していったようです。

コロナ禍でも、過去最高売り上げを達成!

事業についてお話をする中で、話題は新型コロナウイルスに。

キャビアの納品先は結婚式場やレストランが主なため、大打撃を受けたという展開かと思いきや、意外な答えが返ってきました。

「ここ数年で急成長しました。コロナウイルスで大変なことはもちろんあったんですけど、どうやってキャビアを売るのかいっぱい考えて。それで結果的には過去最高の売り上げとなって、より成長できました」

急成長の要因は、毎日のSNS発信と、イベントのファンの方たちのお陰だと宏明さんは語ります。

「今まで、来てくれた人がキャビアを試食できるような、実質お金にならないイベントをたくさんやってたんです。周りからは、そういう人たちはお客さんにならないって言われました。でもコロナ禍になってキャビアを買ってくれたのは、そういった人たちでした

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結婚式場への納品がキャンセルになり、行き場を失った大量の在庫を抱えた時も、その状況をSNSに投稿した宏明さん。
すると、そこからたくさんの人が購入してくれて、追加で生産しないと追いつかないくらいだったのだそう。

直接お金に結びつかないように見えても、消費者との関係を大切にする。

こまめなSNSの発信を通して、身近に感じてもらい、ファンになってもらう。

そんな意識の積み重ねによって、自分の想像以上に応援者が増えていたのだということが目に見えた出来事でした。

300年先の未来に向けて、“救う”ことがミッション

宏明さんのチョウザメ養殖には、目標があります。

それは、「命のバトンを300年先までつないでいく」ということ。
企業理念でもあると、宏明さんは語ります。

自分が影響を与えられる世代。
人が100年生きるとして、自分、子ども、孫。
この3世代であれば、イメージができる。

300年先の未来へ向けた思いです。

「チョウザメはもともと絶滅危惧種で、その卵を食べるっていうことが、果たして良いことか悪いことか悩んだ時期もありました。でも、天然よりもおいしいものを安い値段で提供できるようになれば、最終的に天然資源として回復してくるんじゃないかと思ってて」

さらにこう続けます。

「レッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)の中でも一番絶滅の危険性が高い動物と言われているチョウザメが救われたら、他の動物もきっと救えると皆が思うし、実際にそうできるんじゃないかと考えてます。そういう目的で『チョウザメをレッドリストから外す!』って言ってます


「救う」というのが、宏明さんにとっての一つのミッション。
その思いは、さらに別の事業にも広く視野を向けさせました。

昨年、事業継承という形で宏明さんが引き継いだ、椎葉の特産品「ねむらせ豆腐」があります。

ねむらせ豆腐

「本当にいい商品で、昔から地域に根付いた商品なのに、継承者がいないことでなくなってしまう商品がある。まずは椎葉村でなくなるものを、なくさない。僕が継ぐことによって、なくさない。そうやって少しずつ変えていきたいです」

それは、企業としての成功だけを見ていては、決して生まれない思いです。

椎葉にある良きものを、なくしたくない。
自分にできることは何か。

なくしたくない地域資源、地域の価値を前に、決してそれを他人事にはせずに真剣に考え、行動するその姿に、私たちが感じるものは確かにあるはずです。

日本三大秘境・椎葉村というブランド力を味方に

複数の事業を並行して、着実に成長を遂げている宏明さん。
椎葉で新たな事業を興すということは、率直なところ、どうなんでしょうか。

椎葉って、日本三大秘境ということもあり、やっぱり知名度がそれなりに高くて注目されやすいんです。椎葉でちょっと面白いことをやると、すぐメディアが来て取り上げてくれるから、お得ですよね。普通だったら広告宣伝費を何十万、何百万とかけないとPRできないところを、タダでできてしまう」

「それに、初めて椎葉に来る人は『こんなに山奥とは思いませんでした』とびっくりしてくれる。そこが好きです

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椎葉村は、どこか突き抜けている。

全国にある多くの山間地や田舎の中でも、ここまで「本当に山ばかり」の地域は、なかなかない。
だからこそ、他との差別化ができて、注目を集めやすいというのは大きな強みです。

さらに、また一つ重要な視点も。

「例えば東京で同じことをやってても、すごい人がたくさんいるんで、霞んじゃうんですよ。でも椎葉では(同業者の)ライバルがいないから独壇場になれる。それで慢心せずにやっていけば、目立った上で実力が付いてくる。小さいことからそういう『勝ち癖』を付けるっていうのは大事だと思うし、そういったサイクルを自ら作りやすい環境にあると思います」

宏明さんが所属する商工会の青年部では、勢いのある椎葉の若手事業者たちが切磋琢磨しながら、村を盛り上げています。

「(これからの椎葉について)起業する人が増えるとおもしろいし、行政にはそういう人たちの背中を押してくれるようになってもらいたい。そうすれば、椎葉で仕事を興したいと思う人が増えるんじゃないかと思います」

一人で頑張るより、仲間がいた方が絶対にいい。
それが一人、また一人と増えたらさらにいい。

そこに行政のサポートも相まって、自ずと盛り上がっていく。
そんな相乗効果が生まれることが理想的です。

”椎葉村の愛称”を増やしていく未来へ

鈴木さんFBより

椎葉村の人口は2千人、鹿は4千頭なので、鹿の村と言われますが
チョウザメは1万尾いるので、チョウザメの村と覚えてください。

宏明さんが得意とするピッチ(プレゼンテーション)の掴みは、なんともユーモアのあるこのフレーズから始まるそうです。

ピッチの大会では、いつも椎葉村を紹介するところから。
「間違いなく村内で一番椎葉を紹介している」と自負する宏明さん。

毎日続けているSNSでは、日々の仕事内容や、村についてのあれこれを発信しています。そんなSNSがきっかけで、実際に「椎葉に来たい」と言って足を運んでくれる人が、年間300人はいるそうです。

事業に乗り出す大きな一歩も、日々積み重ねる小さな努力も、惜しまないその姿勢。

「チョウザメの村」と宏明さんが胸を張って紹介するように、椎葉村に新たな愛称を与えてくれる新たな起業家が、椎葉でまた生まれることを期待します。


インターン生
中川note_エディター


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