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『椎葉ラボ』発のスモールビジネスが誕生! ゆずビール・物産・ワンコイン丼で「やってみたい」を形に

椎葉村で新たなローカルビジネスに取り組むチャレンジャーを応援する『チャレンジ・応援!椎葉ラボ』では、椎葉村をフィールドに自分でプロジェクトを立ち上げて楽しみながら活動する村内外の方を『プロジェクトオーナー』としてサポートしています。

今回の記事では、2024年3月3日に開催された『椎葉でこんなことやりました報告会』の様子をお伝えします。


忘れてはいけない「自分がやりたいから」という動機

まずはじめにゲストスピーカーとして登壇したのは、日々とデザイン株式会社の甲斐慶太朗さん。東京から宮崎県延岡市へIターンして起業した経験での苦労と学びを『「コネなし、金なし、知識なし」のよそ者が始めたリアルなローカル起業』と題し、実感の込もった切実な体験談をユーモアたっぷりに話してくださいました。

甲斐 慶太朗 氏
日々とデザイン株式会社 代表取締役/クリエイティブディレクター
1990年、福岡県生まれ。東京のベンチャー企業でブランディングの武者修行を行ったのち、2017年に父の地元である宮崎県延岡市へIターン。2019年にコワーキングスナック「n計画」をオープンし、その後は離島・島野浦にて唯一の食堂「満月食堂」オープン、「濃厚鯛ほぐれ」の開発など、地域でのデザインを軸にした取り組みが各メディアに注目される。しかし裏側では「忙しいのに稼げてない」という会社経営の課題に直面し、現在も試行錯誤の真っ最中。


延岡を拠点に、「何ができるのか」「何を求められているか」「何がしたいのか」を考えながら、地域でのデザインを軸にしてコワーキングスペース兼スナックや食堂をオープンしたり、商品の企画開発やブランディングを手がけるなどの事業を展開してきた甲斐さん。その中で多くのメディアに注目されて知名度が上がり、地域を担う期待の声も高まっていく一方で、実際のところの経営はかなり苦しい状況に追い込まれ、精神的にも参っていった苦しい過去があったと話します。

甲斐さん
「地域のためにやるんじゃない。自分がやりたいからやる」これが僕は本当に大事だと思っていて。やはり自分がやりたいからやっているんだな、そう考えないと、やりきれなくなる時がくるんです。「地域を背負う」とか考えると潰れます。自分が動いた結果「なんか地域が良くなったね」ぐらいの感覚でやっていかないと

プロジェクトが進み、大きくなっていくにつれて様々な要素が絡み合っていきます。世間の評価、地域からの期待、批判、そしてお金のこと。多くの課題で目の前が阻まれ、追い詰められそうになった時、ふと頭をよぎるのは「自分はなんのためにやっているのか?」という疑問だと甲斐さんは示唆します。

その答えが「何かのために、誰かのために」という他人本意ではなく、「自分がやりたいからやるんだ」というシンプルな動機を持つこと。自分の本来抱いた気持ちに立ち返ることが、何度もリスタートを切れる最も強い原動力になるのかもしれません。

『椎葉ラボ』挑戦者3名のプロジェクトをご紹介

さて、今年度の『椎葉ラボ』に参加したのは3名の挑戦者たちです。それぞれの活動内容をご紹介します。

椎葉ラボ1期生の3名。左から下竹さん、椎葉さん、廣末さん

⚫︎下竹重則さん(鹿児島県枕崎市在住)

プロジェクト:サステナブルクラフトビール

椎葉のゆずを使ってクラフトビールを作りブランド化を目指すべく、商品開発にチャレンジした下竹さん。ご自身が代表を務める株式会社DCTが椎葉村のふるさと納税の取り組みを支援していることから、以前より「椎葉で何か新しいことをやりたい」という思いがあったといいます。

この半年で試作品を完成させた下竹さん。椎葉のゆずを使ったウィートエール(アメリカ発祥の白ビール)が来場者へ配られました。ほのかなゆずの香りで、クラフトビールに馴染みのない椎葉村の方でもすっきりと飲みやすい味わいでした。

さらに今後の展開については、ふるさと納税クラウドファンディングを利用して、設備投資にかかる資金を調達し、製品を返礼品として届けるという構想を描いています。ゆくゆくは椎葉にビールの醸造所を作りたいとまで考えている下竹さん。発表を聞いていた住民の方からは、「夢のようなアイデア、期待しています!」との声があがりました。


⚫︎椎葉美那子さん(愛知県名古屋市在住)

プロジェクト:椎葉のグルメを通して村の魅力を知ろう!

椎葉村大河内地区出身の父を持つ椎葉さん。フリーランスとして地域活動やデザインなどの業務を行う傍ら、大学院で中山間地域や文化人類学について学んできました。名古屋市に居住しながらも数年前からたびたび椎葉村を訪れ、村の人との交流を通じて感じた椎葉の魅力を、人や街をつなぐ自身の活動の中で多くの人に伝えてきました。

椎葉村の物産販売や、お茶の試飲会、飲食店とコラボしたメニューの開発など、名古屋市で3つの企画を実施した椎葉さん。乾燥しいたけや乾燥たけのこ、そば、柚子胡椒、ねむらせ豆腐など、椎葉村産の食品はどれも好評で、購入者からは「名古屋で宮崎の物産展があまりないからうれしい」という声をもらったそう。今年の実績を踏まえて、来年度は特に物産販売に力を入れていきたいと話す椎葉さん。名古屋市で年3回のポップアップアンテナショップを開くことを目指します

椎葉さん発表スライドより抜粋


⚫︎廣末克彦さん(宮崎県日向市在住)

プロジェクト:どんぶりで人を幸せにするプロジェクト

椎葉村不土野地区出身の廣末さん。現在はご家族で日向市に住んでいますが、椎葉村に通いながら畜産の仕事を続けてきました。それに加えて、学生時代から好きだった料理を活かした仕事が椎葉でできないかと以前から考えていたこともあり、『椎葉ラボ』をきっかけとして日替わりランチ丼の製造・販売に挑戦しました。

屋号を『晴れむすび』として開業した廣末さん。その名の通り、はじめはおにぎり弁当の販売をしていましたが売れ行きが芳しくなく、周囲の声を参考に、ワンコイン500円の日替わり丼へ軌道修正。地道な努力で口コミも徐々に広がり、今では役場のある上椎葉地区を中心に毎日30食ほどを安定して販売できるようになってきました。椎葉のお米や野菜を使うことで、地元の生産者へ還元することも大切にしています。

廣末さん発表スライドより抜粋

日替わり丼の販売を続けながら、いずれは椎葉で飲食店を構えることができたらと話す廣末さん。この日来場した方からは「いつも美味しくて健康的な手作り丼が食べられて僕は幸せになってます」というコメントも。『どんぶりで人を幸せにする』というプロジェクトがしっかりと実を結んでいるようです。

▼廣末さんの活動について、詳しい記事はこちら


「やってみたい」の連鎖が村をつくる

3名それぞれのやり方でトライしてきた今年の『椎葉ラボ』。どれも「やってみたい」の気持ちからアイデアが生まれ、少しずつ実現していきました。

その様子から感じるのは、何かに挑戦する時、「一人じゃない」ということがどれだけ心強いかということです。たとえ挑戦するのは自分一人だとしても、周囲に相談できる仲間がいること。共感し合い、応援し合い、そして共に高め合える誰かの存在は、何ものにも変えがたい後押しとなります。こうして発表の場があり、話を聞くために人が集うということにもあらためて大きな意味を感じました。

『椎葉ラボ』は、まだ始まったばかり。ここで生まれた「やってみたい」がこれからもどんどん広がりを見せ、また別の「やってみたい」を持った新たな仲間が寄ってくる。そんな連鎖が、椎葉をもっとおもしろくしてくれるのではないかと、わくわくしています。


取材/文/写真 中川薫


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