M-1グランプリは一回終わった方がいい

オードリーが2008年のM-1グランプリで2位となった後、彼らが売れるまでの苦労話を何度かメディアで聞いた。

ショーパブでの活動、ボケとツッコミの入れ替え、春日の格闘技挑戦、さまざまな紆余曲折を経て春日のキャラ漫才でようやくテレビに出演出来るようになり、そしてM-1でその苦労は報われた、というもので、それは今でも感動ストーリーとして語られている。

しかし、忘れてはいけない。
彼らはM-1に出た当時まだ8年目で、2人とも二十代だったのだ。

ご存知の通り、2010年までのM-1グランプリは結成10年目までしか出場資格がなかった。

これは単に「若手のための賞レース」という意味ではない。
立ち上げメンバーである島田紳介曰くM-1は「諦めさせる為の大会」なのだ。

10年目までに評価されないような芸人はその後どれだけ活動しても厳しいわけで、人生立て直せるうちに芸人をすっぱり辞めさせて、新しい道を歩んで欲しいという「親心」的大会だったのだ。

つまり、オードリーは2位だったものの、8年目にM-1にて評価された。
M-1がやろうとしている芸人活躍ストーリーの一端を担った一例と言える訳だ。

歯車がおかしくなったのは、M-1が5年の休止に入り、その後復活したタイミングだと思う。

5年の休止期間中に出場資格がなくなった芸人を救済する為、結成15年まで出場OKとなってしまった。

正直2010年までのM-1でもラストイヤーやそれに近い芸人の活躍が目立った。
それだけ「芸歴」というのは面白さにも繋がってくる。
当然復活後のM-1は結成11年〜15年の芸人で溢れかえることになる。

問題はその後もしれっと出場資格を15年で据え置いていることだ。
休止期間の救済措置なら毎年1年ずつ短くして10年目までに戻すのが筋だが、出場芸人数を減らしたくないのかそのままになった。
結果、フレッシュ感の薄いただの漫才大会になってしまっている。

そして、M-1の存在価値が地に落ちたのが今回の錦鯉の優勝である。

俺としても今回の大会で一番面白かったのは錦鯉で異論はない。
でも正直それは「当たり前」でないとおかしいのだ。

結成こそ9年目だが、ツッコミの渡辺さんは前述のオードリーと同い年の43歳。ボケの長谷川さんに至っては50歳であり、同期はタカアンドトシである。

鳴かず飛ばずでダラダラやっていたが、お互い良い相方を見つけたことでお笑いへの気持ちも改め、昨年4位、そして今年優勝を掴んだ訳だが…

冒頭で話した通り、大会の始まりである「諦めさせる為の大会」とは対極にいるコンビである。

歴が長くなればなるほど舞台には慣れ、持ちネタや引き出しの数は当然増える。
1回戦からファイナルまで最大7回のネタ見せ、その内被りネタもあるとして面白いネタを4、5個持っていれば優勝できる大会において、20年以上の芸歴がある芸人が出ること自体「反則技」なのである。

さらに問題は「ポスト錦鯉」が乱発する可能性が出てきたことだ。
今のルールだとベテランがコンビを組み替え、15年間も挑戦できてしまう。
錦鯉の二匹目のドジョウ(ややこしい)を狙うベテラン芸人が出てきてもおかしくない。

「諦めるきっかけであったはずの大会」が、「諦められない芸人崩れおじさんの希望」になってしまうのは、大会の意義として大きくズレていると思う。

正直M-1アナザーストーリーの長谷川さんのお母さんに電話するシーンは見ていられなかった。
自分の息子が50歳まで鳴かず飛ばずの芸人を続けるのを見守り、「ようやく安心だね」なんて言っているその様は可哀想すぎた。

そういう意味では、まだまだ笑いのレベルは低いものの「芸歴10年目」の縛りを追加したR-1グランプリは英断だったと思う。

そしてその煽りを受けたのがM-1というのも皮肉である。
結果、売れない11年目以上のピン芸人がユニットを組みM-1に流れ込んだことで更にフレッシュさは失われた。

怖いのは、そうしたベテラン勢が大会を占めることで、本当は売れるはずの若手芸人たちが早々に諦めてしまう逆転現象が起きそうだということである。

最近の若者は現実主義な人が多く、「上が詰まっててダメだな」と思った将来の可能性ある才能達がさっさと見切りをつけて芸人を辞めてしまう…
そんな芸能界にとっての痛手をM-1が担ってしまう可能性があるのだ。

そして結果的に「M-1出場」という肩書きを持っておじさん達がテレビに出まくり、若者のテレビ離れは加速していくという最悪シナリオまである。

正直、俺はここでM-1は一旦終わらせた方がいいと思う。
既に大会の趣旨とはずれた方向に行っており、このままではただの漫才演芸大会になってしまう。

上沼さんやオール巨人さんも審査員を引退したがっているし、いいタイミングではないだろうか。

百歩譲っても、「芸歴10年目」縛りにすべきである。
当然大会としての笑いの質は一定期間落ちると思う。

しかし、そうしてでもM-1は芸人を「続ける人」にも「辞める人」にも「明日を見せてくれる」大会であるべきではないだろうか。

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