君が、紛れもなく1番だった。


君が、

紛れもなく1番だった。


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普段は、人や物事になるべく順位をつけないようにしている。だって、1位じゃなかったものたちが悲しくなっちゃうかもしれないから。だけど、今日は素直に、心の内で思った、君が1番だったって。

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君は、まだ小学校2年生の男の子だった。少し多動で、勉強が嫌いで、楽しいことが大好き。身長は私のおへそくらい、両親が選んだであろうニューバランスの靴をはいた、ふわふわした髪がとても可愛らしい、男の子だった。


そんな君が、小学校4年生になって。もうすぐ5年生になる、3年間を一緒に過ごした。週1回、多ければ週2回。振替の多い生徒だったから、「2週間ぶりだねえ」と声をかけることも少なくなかった。


君は、とてつもなく手がかかる生徒だった。手がかかる、と言うととても悪く聞こえてしまうかもしれないが(実際昔は困ってたような気がする)。そりゃそうだ、勉強なんて大嫌いだったもの。同級生と比べると圧倒的に苦手なものが多くて、足し算と引き算の繰り下がりと繰り上がりがわからなくて。5+8=13が覚えられなくて、指で数えた。そんな君が、勉強し続けたこと、塾に来続けたことがどれだけすごいことだろう。もちろん、周りの方のサポートあってこそだが。それでも、どれだけ大きなことだろうか。


授業中、何度も席を立って、「トイレ行ってくる!」と逃げ出した。その度に迎えに行った。(も〜〜またかい!)と思っていたのに、不思議だねえ、今はそんな君の行動ですら可愛いと思うようになったよ。

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「ハルトくんダメだよ、座って。」
「声もう少し小さくしようね、みんなびっくりしちゃうよ。」
「だーめ!一旦勉強進めるよ!」

土曜の17:30。人の少ないタイミングで、響いていたであろうわたしの声。

何度他の講師に謝っただろうか。その度に、

「ひつじ先生、大変でしたね〜」
「手がかかる生徒でしたもんね」
「いや〜自分は無理です(笑)」

他の講師からはこんな言葉を何度もかけられた、本当に何度も。笑

最初は

「ほんっまにやばいです…」って言ってたのに、今では「言うてですよ、可愛いんで」なんて言うようになっちゃった。むしろ、そんなこと言われたくない、って思うくらいになってしまった。


そりゃそうだ、あんなに小さな子が毎日頑張ってることが伝わってくるんだ。それを3年間感じ続けてみろよ、誰だって好きになる。いつのまにか、大切になってたんだよな。


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君は、たくさんのことができるようになった。
掛け算もできるようになったし、21×3を暗算でできるようになった。国語の読解文を一題、解けるようになった。おしゃべりと、勉強の切り替えができるようになった。できなかったことが、できるようになる。先週と今の君で、成長がわかる。そんな瞬間を隣で何度も見せてもらった。

人の凄さ、子供の希望、そういうのを実感して、愛しく思うようになったのはもしかしたら君がきっかけだったのかもしれない。

(ちなみに、頭を撫でると、もう!と逃げ出すようになった、けどこれは照れ隠しだと信じてる。)


きみは、
たくさんの苦労と、
たくさんの成長を見せてくれた、させてくれた。

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冒頭に戻る。
人や物事に順位をつけることは、あまり良くないと思っている。だけど、もう私は塾講師じゃないから。過去になったから、これくらいはいいんじゃないか。


ハルトくん、きみが。

きみが、紛れもなく私の1番の生徒だった。

別れが惜しかった、嫌がられてもハグをしてお別れをすればよかった。だけどまたきっと会えるだろうから、ってことにするよ。


大きくなったきみにも会いたい、タイムマシンが欲しい。

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