ヨウジという男
その男とは、いつも外で会っていた。
数ヶ月に一度、私へのプレゼントを持ってやってきて、一緒にどこかへ出かけて、ご飯を食べて帰る。
ただ、それだけ。決して家には上がらない。
男のプレゼントは、いつも趣味が悪い。
限定品ではあるらしいディズニーの革の腕時計とか、妙なワンポイントの入った真っ白なダウンのロングジャケットとか。
たぶん、行きつけのスナックのママとか、飲み屋で知り合った女あたりに選んでもらっていたのだと思う。夜のお店で働くひとが好きそうな物が多かった。
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言葉巧みで歌がうまくて、お酒と美味しいものが死ぬほど好きで、どうやってもレールをはみ出すような生き方しかできない男。
その昔、酔っ払ってバイクで側溝に突っ込んだことがあるらしく、まるで長年柔道をやっていた人みたいに、片っぽの耳たぶがつぶれていたっけ。
決められたルールに従うのが大嫌いで、自慢したがりで、周りの人にいつもチヤホヤされていたくって、誰よりも寂しがり屋な男。
いいオッサンなのになぜか女にはモテていたけど、本当はずっと癒されるただひとりを求めて、いつまでも夢をあきらめられないこどもみたいな男だった。
なんだ、こうやって羅列してみると、まるで自分のことみたいじゃないか。
しっかりと男のDNAを受け継いでしまった私。
私たち親子の間では、たまに話題にのぼっても決して「お父さん」なんて呼ばれることはなく、いつでも「ヨウジ」と呼び捨てにされていた。
産まれてすぐに離婚したため父親についての思い出がほとんどなく、とにかくヨウジを毛嫌いしていた妹への誕生日プレゼントは、「何を選んでいいか分からないから」といつも現金だったのに、私へのプレゼントだけは毎回勝手に選んで買ってくるのが鬱陶しかった。
「どうせ趣味の悪いものくれるんならお金でいいのに」そう言って、いつも押し入れに放り込まれる贈り物の箱たち。
引っ越しのたびに見つけて、引っ張り出してはまたしまい込んで、とうとうどこへやったか分からなくなってしまったな。
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社会人になり、私が遠くへ引っ越すことになった時、久しぶりにヨウジと会うことになった。
さすがにこんなタイミングだし、親らしく娘にお餞別でもくれるかな…と思ったら、「お父さんもうすぐ入院するからお金貸してもらえへん?」とへらへら冗談っぽく笑うヨウジを見て、ああコイツは一生変わらんな…と苦笑するしかなかった。
それっきり、ヨウジとは連絡がつかなくなった。
いったんは退院して働いていたものの、その後も入退院を繰り返していたというから、いまとなっては生きているのか死んでいるのかさえも分からない。
そうしてすっかり大人になった私は、口べたで不器用で誠実な、お酒のまったく飲めない男と一緒に暮らしている。
ヨウジのことは、記憶のかなたにしまい込んで。
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嘘のようで本当のようで、やっぱりちょっとだけ空想も混じってるのかもしれない。そんなわたしの人生を彩るひとびとの、おはなし。
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