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【恋愛小説】㉛最初の恋人 最後の恋人 〜嘘~

美々と昌人は達也の元に歩み寄った。

達也はこぶしを握りしめ、うつむいて立っていた。

「たっちゃん、どうした?」
昌人が声をかけた。
少し間をあけて、達也は突然、座り込み、土下座をした。

美々も昌人も驚いた。
「たっちゃん、どうした!?何してんだよ!?」
昌人は達也の腕を掴み、立たそうとしていた。
美々はただ、呆然と見ていた。

達也は立とうとしなかった。
「昌人、ごめん。ほんと、ごめん。・・・オレは今日、二人に別れるように言いに来たんだ」
「えっ!?どういうこと!?ちょっと言ってる意味がわからん・・・」
昌人はうつむく達也に何度も問いかけた。
この状況が理解出来ずにいるようだった。

美々は静かに話し始めた。
「さっき、昌くんが別れさせに来たのかって聞いた時、なんで嘘ついたの?」
美々は冷静だった。
昌人は思い出したように、
「そ、そうだよ!、さっき、「いいや」って、ちがうって・・・」

「昌人に聞かれて、思わず、「いいや」って言ってしまった。昌人がオレのことを信じてくれているから、本当のことを話せば、絶交されるんじゃないかと、咄嗟にウソが出てしまった」
達也はずっと下を向いていた。

「えっ!?えっ!?・・・なんで美々、そんなに冷静なんだよ!。知ってたのか?」
昌人はまだ状況が飲み込めずにいる。

「うん、だからずっと言ってたよね。本当の事しか言ってないって・・・」

「知ってた!?なんで!?なんでオレだけ知らないんだよ!本当の事って、じゃあ、金目当てって・・・、たっちゃん!!そんな酷い事を美々に言ったのか!?」

達也は正座した膝に握ったままのこぶしを置いて、うつむいていた。

「昌くん、それはちがう。それを言ったのは、達也くんじゃない」

「えっ!?ちがう!?ウソなのか!?」

「ウソじゃない。達也くんが言ったんじゃないの。別の人・・・」

「別の人って誰だよ!!たっちゃんは誰か知ってるのか!?」

達也はためらいながら、電話で「金目当て」と言った友人の名前をあげた。

「あ〜、アイツかぁ・・・」

昌人が納得している様子に、美々は驚いた。
そんな奴と友達なのか、と。
そして、昌人は続けて言った。

「で、たっちゃんは美々に酷いことを言ってるアイツをなんで止めなかったんだよ!?」

「・・・オレも、そう思ってたんだ・・・。金目当てじゃないかって・・・」
達也は美々に申し訳なさそうに答えた。

「応援してくれるって言ってたろ・・もう、ワケわかんねぇよ。何がホントで何がウソなんだよ・・・」
昌人は部屋の中を頭を抱えながらウロウロしていた。

美々はまた、静かに言った。
「達也くん、なんで本当のことを言おうと思ったの?黙ってたらバレなかったのに・・・」

「美々ちゃんこそ、なんでオレがウソをついてるって言わなかったんだよ・・・」

「なんでオレ無しで話しが進んでるんだよ・・・。どうなってんだよ・・」
昌人は完全にパニックになっていた。

美々は昌人に言った。
「後でちゃんと話すから。」

そして、美々はゆっくりと、でも、はっきりと話し始めた。

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