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ダブルヘッダー

今月に入ってベースが届いた。2020年末のコロナ最盛期に暇つぶしと思って買ったものの3ヶ月で挫折し実家に置き去りにしていた、あのベースである。

きっかけは、大学の友達が音楽室でギターを弾いていたことだ。わざわざ重たいギターを家から持ってきて1時間ちょっと音楽室を借り、ちょこちょこ練習しているという。ある時、彼に誘われたので軽い気持ちで練習風景を覗きに行ったところ、アンプに繋がれて室内に響き渡るその爆音のあまりのかっこよさに震えた。そしてこの日の夜、「時間がある時にベースとその他もろもろを持ってきてほしい」と親にLINEを打った。


久しぶりに触るベースは何かしら覚えていそうでほとんど何も覚えていなかったが、まあそもそも思い出す程の技術も付けずにやめたしええか、と切り替えた。とりあえずその友達と「なにか1曲合わせたいな」という話になり、三ノ宮の「246」というレンタルスタジオを1時間だけ予約してみた。

彼は何回か来たことがあるらしく慣れた様子で受付から部屋まで進んでいったが、僕は中に溢れかえる楽器を背負った人たちの玄人感に圧倒されていた。こんな素人が来てしまってすみません、と弱々しくなってしまった。まあ実際、なんの曲を合わせるでもなくお互いアンプに楽器を繋げてジャカジャカべんべん弾いていただけの1時間だったので、スタジオを借りる必要は無かった気もする。ただ、こういう世界というか空間があるんだ、という感動はあったので行ってみて良かった。 


そのギター君とは先日行われたプレゼンの発表グループで一緒だったのだが、4人いるそのグループのうちたまたま残りの2人も楽器ができる人間だった。ピアノとドラム、つまり一応は4人でバンドが組めてしまうという奇跡的な構成。ボーカルも練習曲もまだ何も決めてないが、別に誰に向けて演奏するわけでもないので問題ない。バンド名はプレゼン発表のタイトルをそのまま使おう、なんてとこまでは話が進んだ。

高校に入学したての頃、数ある部活の中から特に軽音楽部とスキー部に惹かれ、悩みに悩んだ末に後者を選んだ。その選択に後悔は全くしてないが、まさかこうやって誰かと練習できる環境がやって来るとは思いもしなかった。ベースを買ってからも1人で黙々と練習するもんだと思っていたし、そもそも黙々と練習すらせずに放置していた。

とにかく卒業までに1曲くらいは自信を持って弾けるようになりたい。スラップのべんべん音に憧れていきなり『秒針を噛む』みたいな難しい曲ばかり練習し基礎をおざなりにしていたので、今は初歩の初歩からYouTubeで勉強している。コードとかいう存在も初めて知った。こんなにかっこいいのかと今感動してるとこである。ちなみに楽譜はまだ読めない。


メンバーの1人であるピアノ君は高校の頃からの友達なのだが、彼の家の近所にある「パルシネマしんこうえん」という映画館を最近教えてもらった。今までは我が家の近所にある「元町映画館」や「シネ・リーブル神戸」、あとは「kino cinema神戸国際」なんかに通っていたしそれで十分に事足りていたのだが、この「パルシネマ」の登場は僕の生活を一段と映画の世界に引き込んでくれた。

ここの最大の魅力は、そのラインナップにある。これまで僕が通ってた3つの劇場もそれなりに再上映はやっているのだが、この映画館は凄まじいサイクルで面白い過去作を公開しまくっている。

そして、もう1つの魅力がチケットの安さである。今日はクリストファー・ノーラン監督の『プレステージ』を観てきたのだが、これが学生なら900円で観れる。しかも、現代では珍しくなった2本立て上映もいまだにやっており、これも同じく900円で観れる。しかもしかも、今日初めて渡されたポイントカードには8回観れば1回無料と書かれてある。しかもしかもしかも、通常は1回につき1スタンプのところ学生なら2スタンプも押してくれる、つまり4回観に行けば1回無料ということである。ここまで来ると経営が心配になる。

客からの上映リクエストをかなり反映してくれるらしく入口には投票箱が常設されてあるので、今日は初めて『哀れなるものたち』と書いた紙を入れてみた。今年の初めに観たのだが、内容もさることながら劇中の音楽があまりに不気味でゾワゾワして印象的な映画だったので、ぜひ映画館でもう一度観たい。Spotifyかなんかに「Poor Things」と打てばトラック集が出てくるので試してみてほしい。何回聴いてもいまだにすごくゾワゾワする。


そんなわけで「パルシネマ」にはこれからも通い詰めようと思うのだが、なんならこのまま社会人になっても元町に住み続けてもいいなあと思い始めてきた。いや、元町から引っ越したくないというのは前からずっと感じてるし言ってきたことなのだが、いよいよ本気で離れたくなくなってきたのだ。1年目は関西のどこに配属か分からないので未知数だが、2年目から通う予定の本社までの通勤時間は1時間くらいである。

正直、毎日のことを思うと通勤時間30分圏内に住みたいし新しい環境に身を置きたい気もするが、今の自分には元町が理想的すぎるのだ。もちろん今みたいに好きな時に映画を観たりパン屋に行ったりメリケンパークに行ったりなんてのは無理な話だが、それでもたまの休日を過ごす場所としてここは完璧なように思える。


映画館に限らず、美術館とかライブといった娯楽には学生に優しい価格が用意されていることが多い。大人ほどお金は無いが大人より多感な学生の間に色々な世界に触れて色々感じた上で大人を迎えてほしい、という大人たちのこの上ない優しさの結晶だと僕は思う。

留学先で最初から最後までずっと僕の世話をしてしてくれた通称Kさんの家にいた時も同じことを思ったが、やはりこういう恩というか優しさは自分が受けた分だけ下の代に還元しなければいけない。いけないというか、単純にそうしたいなと思えるように最近なってきた。


先月の頭くらいだっただろうか、具体的な時期は忘れてしまったが大学1年の頃からずっと所属していた大学のサークルを抜けた。留学から帰ってきたあたりから就活だのなんだのを理由に、そして時には言い訳にしながら練習や飲み会には参加しなくなった。なぜか急にしんどくなってしまったのだ。そもそも僕は一定期間会わなくなった人と勝手に心の壁を作りがちではある。ただ、留学前はあんなに楽しめていたサークルでの飲み会がどうしても億劫になってしまった。

留学中に一度だけ行ってみて改めて感じたのだが、僕はクラブだのディスコだので楽しむことができない人間だ。友達に誘われたのでこれも人生経験だと思い酒を入れてギアを上げようとしたのだが、疲労感だけが残った。まあ音楽に合わせて体を揺らすという部分だけで見ればフェスやライブとか変わらないので全く楽しくなかったわけではない。それでも、あの空間に染まりきれない自分がずっといた。サークルでの飲み会も最初の頃は心から楽しめていたのだが、途中からはまさにこの「ディスコにいる時」のような感覚がずっとあった。多少無理をしてテンションを上げなければ周りの普通についていけなくなっていたのだ。

一度苦手意識を持つとそれはなかなか払拭できない。これまで散々お世話になったんだから参加しないとな〜という意識はあったがそもそもそんな変な意識がある時点でおかしな話だし、さっきも書いたが結局ほとんど参加しなかった。 

ただ、僕はこのサークルに所属したことを後悔はしていない。ここで知り合った同学年の友達たちのおかげで大学生活は本当に楽しいし、その先輩たちは僕らの面倒を本当によく見てくれた。ほとんどの飲み代を出してくれたし、キャンプやサーフィンなど色んなところに連れてってくれた。問題なのは、受けた恩をしっかり下に還元しないままにサークルを抜けたという部分だ。本当に恩知らずな行為だとは自分でも思う。とはいえ、サークルを抜けたことも後悔はしていない。それくらいあそこに居続けるのがもはや苦しかったのだ。だからこの問題はややこしい。たかがサークル、されどサークルだと思う。


僕は先輩力のようなものがまるで無いので、あまり後輩に奢った経験が無い。恋愛においてもほとんど奢った経験が無いので、誰かの前でビシッとカッコつける上手いやり方がまるで分からない。だが、「パルシネマ」で格安に映画を観たり、Kさんやサークルの先輩たちと過ごした日々を思い返すと、自分も子どもとか誰かしらに何かしらを還元したいなあと思う。奢りと還元はちょっと違う話かもしれないがまあ気にしないでほしい。

以前にも書いたが、僕は好奇心で申し込んだ流れそのままに所属している団体が2つある。まあ片方はまだなんの活動もしてないし、8月まで特に予定も無いのであまり所属感は無い。とにかく、自分の存在が何かしらの形で役に立つのならそれは嬉しいことだなという気持ちで参加している。やはり人間はずっと一人ぼっちで自分のために生きるよりは何かしらの集団に属して、そこで誰かに存在意義を認められたいんだと思う。もちろん好奇心も動機の1つにはあるが、社会とか誰かに今までもらってきた恩を還元したいという気持ちはずっとあった。このままもらってばかりの人間にだけはなりたくないという気持ちがなぜかあった。

それが会社でいうやりがいにも繋がるのかなと思うが、僕が今やりたいのはどちらかというと給料の発生しないボランティアの方面かもしれない。ボランティア団体だって僕だってお金が無いと存続できないからお金を無視するなんてのは綺麗事だが、なるべくお金とかは気にせずに自分が手伝いたい形で何かを手伝ってそれが結果的に誰かのためになっているというのが理想的だなと思う。今年の夏は、新潟の糸魚川市や島根の海士町に数日間滞在したり文学フリマにスタッフとして参加したりする予定なのだが、どれもこれも同じような気持ちで申し込んだ。

とりあえず大学を卒業したら会社で働き三昧侍になると思うしそれも立派な社会貢献なんだろうが、どうにかそれ以外の場所でも何かしらの活動を続けたいので、まあとりあえず色々やってみようと思う。


ちなみに今回のタイトルは最近YouTubeで観た『MLB2012 イチロー8打数7安打4盗塁&決勝タイムリーの神モード突入』という動画が影響している。ダブルヘッダーにも関わらず2試合ともに打ちまくって走りまくって大活躍したイチローを観て「うおおおお」となった。そして今日の僕も2連続で記事を書いてもうすぐ完成するので「うおおおお」となっている。まあ日を跨いでしまったが、それでも一貫して良い集中力だったと思う。

ここ数年は大谷の異次元の活躍のおかげで毎朝の気分が爽快だ。眠たいのは眠たいけど。時間が合えばBSの1チャンネルで生中継を見るし、スポナビの野球速報アプリを開いて凝視する時もある。だが個人的に1番好きなのは、Twitterを何気なくスクロールしている時に大谷速報垢の「きたぁあああああああああああ!」というツイートが流れてくる瞬間である。これは「大谷がホームランを打ちました」という意味なのだが、大谷がホームランを打つと僕もこれくらいテンションが上がるので気持ちを代弁してくれている気分になるのだ。やはりあれだけホームランが打てるというのは稀有な才能だと思うので、大谷には打率より盗塁より勝ち星より奪三振数よりホームランを意識して野球をしてほしい。


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