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Workshop Spirit #3「創造性からワークショップのスピリットを探る(講師・安斎勇樹)」【イベントレポート】

全6回の講座とオリジナルワークショップの実践を通じてワークショップの源流を探求し、実践者としての“魂”を洗練させる『Workshop Spirit』。その第3回が、6/15(土)に開催されました。

『Workshop Spirit』講座スケジュール
・4/13「キックオフ - ワークショップスピリットへの旅立ち」
・5/19「ワークショップのスピリットを体感する(中野民夫)」
▶︎6/15「創造性からワークショップのスピリットを探る(安斎勇樹)」
・6/29「組織開発からワークショップのスピリットを探る(中原淳)」
・7/13「ワークショップのスピリットと自分」
・(ワークショップのスピリットを活かしたワークショップを公開・実施)
・9/28「ワークショップスピリットの開花-実践報告会」
※()内は担当講師。敬称略。


今回の講師は安斎勇樹。弊社ミミクリデザインの代表であり、他方で東京大学大学院の特任助教として、創造性を引き出すワークショップデザインとファシリテーションの方法論について10年以上研究を続けている研究者でもあります。

▼本日の講師
安斎 勇樹(東京大学大学院 情報学環 特任助教 / 株式会社ミミクリデザイン 代表取締役)

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私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。商品開発、人材育成、地域活性化などの産学連携プロジェクトに多数取り組みながら、多様なメンバーのコラボレーションを促進し、創造性を引き出すワークショップデザインとファシリテーションの方法論について研究している。主な著書に『ワークショップデザイン論-創ることで学ぶ』(共著・慶応義塾大学出版会)、『協創の場のデザイン-ワークショップで企業と地域が変わる』(藝術学舎)がある。

第三回となる今回のテーマは、「創造性からワークショップのスピリットを探る」です。前半では安斎がワークショップにのめり込むきっかけとなったエピソードの紹介や、大学在学中から博士課程までのあいだに様々なかたちで出会った“師”たちから、何をどのように学びとったのか、自身のワークショップ観の原点となる経験が語られました。

後半からは、安斎が専門としてきた学習論の観点から、「創造的活動」「創発的コラボレーション」「活動システムの変容」といったキーワードから、今回のテーマである「ワークショップにおける創造性」について考えを深めていくことに。デューイやヴィゴツキー、ベイトソン、エンゲストロームなど数々の“知の巨人たち”が提唱する学術的理論が解説されるとともに、それらを援用するかたちで、「ワークショップスピリットとは何か?」という問いに向き合っていきました。

創造性から探る、安斎にとってのワークショップスピリットとは?


冒頭で安斎は、第二回講座で体験した中野民夫さんの原点であるジョアンナ・メイシーによるワークショップについて、「中野さんのワークショップスピリットに触れ、非常に揺さぶられ、共感した部分もありながらも、一方で明確な『違い』も感じていた」と話します。そして、その「違い」に焦点を当て、じっくりと言語化していった結果、「創造性から探る安斎にとってのワークショップスピリット」が見えてきたそうです。

その上で、半日程度の短い時間の中で「創造性」という際限なく奥深い領域からワークショップを語るためには、これまで10年以上ワークショップの実践と研究だけをやり続けてきた中で得られた「theory(個人の経験則から導き出された持論)」と「Theory(アカデミックで実証された理論)」を総動員する必要があった、と安斎。

そこで、今回の講座は、安斎の個人的な体験や、大学院の修士・博士過程にお世話になった“師”たちから受け取った知見や経験と、ワークショップを学習の観点から支える様々な理論とを結びつけ、理解を深めていくかたちで進められました。

幼少期〜大学生時代
父・安斎利洋さんからの影響と、ワークショップの原風景的な実践について


午前中は、安斎がワークショップという営みに興味を持ち、研究するに至るまでの個人的な変遷が中心に語られました。中でも、システムアーティストである父・安斎利洋さんについては、(少し前まではなかなか認めたくなったと言いながらも)ワークショップについて探求していく上で大きく影響を受けた一人として、数々のエピソードを話してくれました。

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次に安斎にとって大きな転機が訪れたのは、大学4年生のことだったと言います。その当時安斎が自主的に開催していた体験型の学習プログラムの中で、ある吃音を持つ小学生が、グループワーク中の些細なことをきっかけに劇的に変わり、自信をつけていく様子を目の当たりにしたそうです。その時はまだ「ワークショップ」という言葉は知らなかったものの、その経験は今日の安斎にとっても、ワークショップ実践における原風景となっているようでした。

修士〜博士課程時代①
尊敬する“師”たちとの出会い


その後安斎は、本格的にワークショップデザインについて研究することを決め、大学院に進学します。大学院の修士・博士課程を振り返って、「非常に恵まれた環境だった」と話す安斎の言葉通りに、そこでは安斎が研究と実践を往復しながらワークショップについて理解を深めていく上で、重要な契機となる出会いがいくつもありました。所属研究室の指導教官である山内祐平先生を筆頭として、創造性の認知科学を専門とする岡田猛先生、ワークショップを通じて日常生活におけるメディアと人間の関わり方を問い直す「批判的メディア実践」に取り組む水越伸先生といった先生方から教えを受けながら、様々な領域からワークショップを捉え、多くのエッセンスを学んでいきました。

また、学外でも、同志社女子大学の上田信行先生や、企業とのイノベーションに精力的に取り組む中西紹一さんとプロジェクトを共にしながら、「ワークショップから“創発”が生まれる確信」を徐々に深めていった、と述懐していました。

幕間
「ワークショップデザイン論」を批判的に読む


講義の合間には、2013年に出版され、安斎も共著者として参画した「ワークショップデザイン論(慶應義塾大学出版会)」を批判的に読み、アップデートするミニワークの時間が設けられていました。「徹底的に批判していただいて構わない」と話す安斎に、参加者たちがそれぞれの体験に基づいた視点からフィードバックや質問を飛ばしていました。

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修士〜博士課程時代②
偉大な理論家たちとの出会い


午前中では大学院時代の安斎の周囲の人物とのエピソードや、そこから学び取ったワークショップのエッセンスを中心に話が展開されましたが、一方で安斎のワークショップスピリットを語る上で欠かせない要素のひとつに、100年以上続くワークショップの歴史や、その根底にある「学習」という概念について研究し、理論的に支えてきた研究者たちへの深いリスペクトがありました。

そこで、午後の講義からは、それらの研究者たちが提唱する理論を参照しながら、学習論的な観点からワークショップを捉え、「(学習を通して)人間が変わっていく仕組み」を紐解いていきました。そして、その「変容」というキーワードから、ワークショップにおける創造性の本質へと迫っていくことに。「為すことによって学ぶ」と主張したデューイや、社会構成主義を提唱したヴィゴツキーを中心に、ワークショップの理論的源流とされる理論家たちの考え方が、体系的に解説されていました。

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ワークショップにおける“創造性の階型”


深奥を語ろうとするときりがありませんが、今回のテーマに関連して安斎が特に大きく取り扱った学習論の学説ないしは概念を二つ取り上げるとすると、ベイトソンによる「学習の階型論」と、エンゲストロームによる「拡張的学習」の二つが挙げられます。

安斎はそれらを創造性の文脈に置き換えて、「革新的なアイデアが生まれない状態=既存の活動システム内に閉じている状態」と捉え直した上で、「組織がイノベーションを起こしていくためには、これらの活動システムが新たな意味や目的を持った活動システムへと変化していく必要がある」と語っていました。

そして、そうした変化をもたらす何かこそが創造性と呼ばれうるものと仮定した上で、ワークショップにおける創造性の階型を「個人レベル」「グループレベル」「システムレベル」の3層に分け、各層の変容のあり方について、詳しく論じていました。

<ワークショップにおける創造性の階型>
階型 I :個人レベル
個人に内在した衝動が喚起され、ポテンシャルが発揮される。
階型 Ⅱ :グループレベル
参加者同士の創発的なコミュニケーションから新たな意味が生まれる。
階型 Ⅲ :システムレベル
既存の活動システムが異化され、新たな活動システムの可能性が探索される、


「遊び心」から、活動システムの変容を促していく


そのような「活動システムの変容」を促すためには、具体的にどのようなアプローチがあり得るのでしょうか。安斎は、ジャック・メジローの変容的学習理論を援用した「痛みを伴うアプローチ(Painful Approach)」と、実験的に普段と違うモードで活動し、既存の活動システムを異化しながら、新たな活動システムの可能性を探索する「遊び心のあるアプローチ(Playful Approach)」の二種類があるとの仮説を話し、安斎が特に重視している後者のアプローチについて解説していきました。

また、「遊び心のあるアプローチ」に関連する重要なキーワードとして安斎が掲げたのが、人間が持つ「飽きる」という性質でした。現在の活動システムに飽きて、努力の方向性や取り組み方を変えてみることが、非線形的な変化の生成に繋がるのではないか、と。とはいえ、ただ単に「飽きる」だけで創造性が発揮されるのかというと、もちろんそんなことはありません。既存の活動システムにどのような揺さぶりをかけ、変容を促していくのか。様々な観点から刺激的な仮説が次々に提示されていました。

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安斎が「僕の全てを詰め込んだ」と語る半日間の濃密な講義を終え、最後に円座になって簡単に振り返りを行いました。決して平易な内容ではなかったため、参加者もまだ完全には腹落ちしきれてはいない様子でしたが、それでも奥深さに触れること自体を楽しんでいる参加者が多く、全体的に非常に満足度の高い学習経験となっていたようでした。

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次回は立教大学の中原淳さんを講師として、「組織開発」の文脈からワークショップ・スピリットを探求していきます。どうぞお楽しみに!


■『Workshop Spirit』の今後のスケジュール

『Workshop Spirit』講座スケジュール
・4/13「キックオフ - ワークショップスピリットへの旅立ち」
・5/19「ワークショップのスピリットを体感する(中野民夫)」
▶︎6/15「創造性からワークショップのスピリットを探る(安斎勇樹)」
・6/29「組織開発からワークショップのスピリットを探る(中原淳)
・7/13「ワークショップのスピリットと自分」
・(ワークショップのスピリットを活かしたワークショップを公開・実施)
・9/28「ワークショップスピリットの開花-実践報告会」
※()内は担当講師。敬称略。
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■今回の講座について、安斎の視点から語られたエッセイはこちら

■また、安斎の個人インタビュー記事も公開中です





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