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心臓を捧げよ。

『 心臓を捧げよ 』

某漫画の有名なポージング。
アニメや漫画を読む習慣は無いけれど、これくらいなら耳にしたことがある。
文字通り、『 命を懸けて 』という意味なのであろうが…
命を懸ける程 価値のあるものは、今の私には到底見当たらない。

仕事も恋愛も、それなり。
多少の余力を残しつつ、余裕を持ってこなせば 相応の結果が得られた。
全力は疲れるし、一生懸命は馬鹿らしいし、必死は羞恥心しゅうちしんの方が勝る。
テストには 毎回、満点を取れない保険をしっかりかけてから挑むのだ。
傷つかない為の予防線は ぴんと張られ、一先ひとまとどこおりなく終えると、ほっと胸を撫で下ろす。
そして、「 大人になると、皆 こんなものだ 」と、悟りきった顔でうれうことも 忘れない。

だからなのか、いつしか、二人称で自分を見る自分が居た。
自分のことなのに、どこか 他人事のような…
俯瞰ふかんとも、客観視とも違う感覚。
だが、こんなものだ。

少し前に LINE を交換した彼は、非常に連絡がまめ。
こんな筆不精ふでぶしょう相手に
『 おきた 』
から
『 ねる 』
まで、律儀に報告をしてくれる。
初めはわずらわしさすら感じていたのに、今では、釣られて返事をする。
『 おはよう 』
から
『 おやすみ 』
私は、すっかり釣られたというのに…
いつまで経っても、彼の態度はつれないし、心が釣れない。
だが、こんなものだ。

彼が 他の女の子と楽しげに話すのをの当たりにする度に、苛苛いらいらする。
彼の言動に一喜一憂いっきいちゆうする、一人称の私が居た。
独り占めしたい欲求は、予防線を優に超える。
それなのに、相変わらず 付かず離れずの距離感。
こんなもので…いい訳ない私は、彼の左胸目掛けて思いっきり引き金を引いた。

必ずや、仕留めてやる!

今度は、あなたが…
『 心臓を捧げよ 』


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