蝉。
雨が上がると、蝉達は また、一斉に鳴き始めた。
耳を劈くような その命の音が、今は煩わしくも感じる。
『 蝉の生命は 短い 』と聞くが、それは地上に出てからのこと。
一生の内 大半を土の中で過ごした後、ようやく成虫になって自由を得ると、限りある命を燃やしながら、ひと夏を懸命に生きるのだ。
一方で、路上に目を落とすと、ひっくり返ったものを見かけることがあるが…
死んでいるのかと思い、気にも留めず通り過ぎようとすると、
『 ジジッ! 』
と体をバタつかせ、こちらを牽制したような断末魔にも似た声に驚かされる。
彼は、死期が近いのだ。
無抵抗に腹を空に向け、やっと あの憧れた自由に一番近づく時、彼らは、その体の仕組上、地面しか見えてないのだという。
生命の火が陰ろうとしている時、私が見るのは、憧れた空か、それとも、慣れ親しんだものか…
願わくば、後者であるように。
少し足早になったのは…
彼らと比べた自分に、どこか 恥じらいを感じたからであり…
郊外を出て、耳を撫でる風の音が心地いいのは…
微温湯に浸かりきった日々に、慣れてしまったせいかもしれない。
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