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恋人 ごっこ。

『 友だち 』を始めて、私たちは もう 10 年が経った。

付き合いが長くなる程、お互いを知ることは増えていくのに…
反比例して、距離は遠くなる。

この期間、私は彼を異性として意識したことがあった。
例にれず、彼もそうだろう。

毎年のように
「 花火しよう 」
と誘っていた時期もある。
その度に
「 花火とか、嬉しくない 」
と、悪戯いたずらに笑いながら言う。
何に誘っても、仕方なく付き合ってくれている風をよそおうけど…
私は気付いてた。
彼がいつも、帰り道に 遠回りしていたことを。

友だち 6 年目の夏、私は彼に、仕事やプライベートでこらえていた気持ちを吐露とろし、そして 泣いた。
決してさえぎったり否定したりせず、ただ「 うんうん 」とうなずいて聞いてくれるのが彼らしくて、非常に心地よかったことを覚えている。
「 俺、明日 仕事なのに殺す気か 」
と怒り調子で笑いながら、夜通し、どこへ行くでもないドライブにハンドルを握る横顔が、これまでとは違って見えた。
その夜、お互いは深い話をした。
「 女性は、利己主義やからね… 」
冷めた笑いを浮かべながら、言う。
それが、彼の 女性を敬遠けいえんする理由なのだ。
この 6 年の間で、彼が、女性にトラウマにも似たものを持ったことは知っている。
それに対して 私はまた、あれこれと自論を展開して話し、彼もまた、いつもの調子で「 うんうん 」とうなずきながら聞いていた。
一方的に、半ば強引に集合を掛けたにも関わらず、明け方 6 時過ぎ、何もしないまま 律儀にマンションの下まで送ってくれた後、
「 今度、改めて ちゃんとご飯でも行こうか
傷口に塩塗られるのが、案外 心地よかったわ 」
照れ笑いしながら、彼は言った。

しばらくして、私に彼氏ができた。
お世辞にも上手くいっているとはいえない関係を、彼に ぽつりぽつりと話すと、また、「 うんうん 」とうなずいて話を聞いてくれる。
だが、この時は、その後 真っ直ぐにこちらを向いて
「 …もう、別れた方がいい 」
と言ったかと思えば、直ぐに視線をらし
「 上司は、部下に手出せないからな 」
と、罰が悪そうに苦笑いをした。
彼が煙草に火を点けたのは、この 気まずい空気を消し去りたかったからだろう。
吸い終わると同時に、
「 もう、泣かないでいい おまじないを 」
と、優しく微笑みながら頭をよしよしと撫でてくれる。
「 なんかあったら、いつでも言っておいで
…ま、それしか 出来んわな 」
と、彼はそら笑いで続けた。

明け方 6 時過ぎ、今日も律儀に マンションの下まで送ってくれる。
車から降りる動作で、髪が はらりと揺れた。
ふわっと、彼の煙草の匂いがした。

︎︎◌ 追記
様々な笑顔をする『 彼 』を表現してみました。
いつも、「 うんうん 」と聞いてくれる 聞き手の『 彼 』の言葉を、大事につづり…
よく喋る 話し手の『 私 』の台詞を、「 花火しよう 」だけにしたとこも ポイントです。


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