再読のこと(盲目的な恋と友情/辻村深月)

小説の再読というのがどうも苦手だ。

好きな小説はたくさんある。
きっと時間が経ったらもう1度読みたくなるだろうなと思うような素敵な小説にも出会ってきた。

しかし、これまでの人生で全くと言っていいほど再読をしてこなかった。
理由を挙げるのであれば、既に知っている物語をもう1度辿る時間が惜しいと感じてしまうからだ。
再読しようと本を開いてみたこともあるが、「この展開知ってるんだよなあ…」と早々に挫折した。
あの本はおもしろかった、この本はすごく感動したみたいな一言だけの感想は覚えていても、物語の内容を人に説明できるほど詳細には覚えていないのに、だ。
本を1冊読み切るというのはかなりの時間を要する。
そもそも読書する以外にも、仕事があるし家事もあるしネットサーフィンもしたくなっちゃうしぼーっとする時間も欲しいし、とにかく日々時間に追われている。
そのうえ、常にこの世は新たに読んでみたい本で溢れかえってる。
こうして私の人生の中で小説の再読というのは自ずと優先順位が常に下位となっていた。

そんな私だが、休職中で時間を持て余しているからだろうか、最近再読したい熱が沸々と湧き上がっている。
ミステリーは再読する時間がもったいないと感じるジャンルランキング第1位に君臨していたにも関わらず、先日図書館で見かけた次の瞬間手にとっていたのが辻村深月さんの「盲目的な恋と友情」だった。

この作品は私にとって初めての辻村作品で、最初に読んだのはたしか5年以上も前の高校生の頃だ。
読んだ当時から今日にいたるまで、女は怖いという印象を強烈に私の中に残していたが、たしかに今回の再読での印象もまとめてしまえばそこに至る。
だが、やはり5年以上も前に読んだ作品、話の節々を細かく覚えているはずもなく、「女は怖い」という太い木の幹に様々な感想が枝のようについてきた。
そして、最後のどんでん返しには声を出すほど驚いたし、辻村さんのすごさを感じさせられた。

なぜこの作品は「女は怖い」という印象をこんなにも強く抱かせるのか。
それは、とにかく女のどす黒い部分が全部出ているような物語だからである。

「盲目的な恋」に陥り、恋人・茂実への執着が捨てられなくなる蘭花。
助言をしているように見せかけて、元カノとしてマウントをとっている稲葉先輩。
茂実を陰で支配し、茂実の恋人・蘭花を苦しめて楽しんでいるおばさん・菜々子。
そして、「盲目的な友情」に走り、自分が蘭花の1番の親友でありたいと願うあまり蘭花の友達への嫉妬が止まらず、蘭花からの見返りを求めたり、ついには蘭花の結婚式をまるで自分が蘭花の1番の親友であることを証明するための自分の晴れ舞台だと捉えてしまうほどの勘違い女・留利絵。

嫉妬。執念。執着。支配。マウント。
そういったワードを連想させるような、目に見えずとも日々繰り広げられている女同士の小競り合いやマウント合戦を具現化し突き詰めたような物語だ。
盲目的な恋に陥る人はたくさん多いし、私自身コンプレックスが強く友達もそう多くないから留莉絵の蘭花に対する気持ちも「少しは」理解できる。
「少しは」と付けたのは、この作品の恋や友情は、私が理解できる範疇を大きく超えており、蘭花や留利絵のことをかわいそうだと軽蔑してしまうほどに盲目的だからだ。

そう、この作品の題名は至極明瞭で、内容は「盲目的な恋と友情」に尽きる。
先月読んだ辻村さんのエッセイ「図書室で暮らしたい」の中で題名を付けるのにいつも頭を悩ませているというようなことが書かれていたが、そんな明瞭で率直な題名も含めて私はこの「盲目的な恋と友情」という作品が大好きだと感じた。

あんなにも今まで避けてきたのに、再読をこんなにも楽しめるなんて。
以前抱いた一言だけの感想を深掘りできて、なぜ私はその作品を気に入ったのか振り返ることができる。
再読はそんな素敵な機会だ。

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