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「一番怖いのは終わらないこと」【蛇の道】から見えた冷静沈着な憎悪の中に滲み出る切ない人間性

「一番怖いのは終わらないこと」【蛇の道】から見えた冷静沈着な憎悪の中に滲み出る切ない人間性

始終冷たい空間に
虚無しか感じられない。

感情を失くしたものの表情に
貼り付くものは何も無い。

怖いのは「終わらないこと」
心療内科医小夜子のこのセリフを聞いて
スティーヴン・キングの「グリーン・マイル」の結末を思い出した。

終わらないことこそが究極の罰だという。

人は終わりを恐れる。
しかし最大の恐れとは終わらないことなのだ。

明ける朝のカーテンの隙間から漏れる
柔らかな光。
じき色濃

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「ミッドサマー」から見る、続きの人生を生きる為の同調心理と無常による防衛本能の恐怖とは?

「ミッドサマー」から見る、続きの人生を生きる為の同調心理と無常による防衛本能の恐怖とは?

例えば帷の中に悪夢はあるか?
悪夢だけなら日を見れば
次第に薄れゆくであろう。
その恐怖と嫌悪感が。

昨日記憶の引き出しの話をした。

必要な時に引き出したい。
記憶を辿りその時間に戻り懐かしむ。

光年に例えてもいい。

キラキラした脳髄液とともに。
意図もせずに急速に海馬に働きかけて
増大化を否めないのだ。

脳に植え付けられた断末魔の記憶を消すには一体どうすればいい?

泣き叫び思い出し眠

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「言の葉の庭」に見る雨の季節の共鳴り

「言の葉の庭」に見る雨の季節の共鳴り

「どうせ人間なんて
みんなどっかちょっとずつおかしいんだから」

雨の日の公園の東屋で
チョコレートをつまみに缶ビールを飲むユキノの言葉だ。

人間の価値観はそれは異なるものであり
何が正解で何が不正解かなんて問題は実は存在しない。

新緑の葉先からこぼれ落ちる雨の雫が見目麗しい梅雨期の描写が美しい
1日を通して薄暗いシーズンの中で極立って美しいのは束の間の日差しが生む池の水面の煌めきや雑踏の中忙

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【仮想空間に芽生えるシンパシーの行方】

【仮想空間に芽生えるシンパシーの行方】

ヒーローになるという意思は 
あまりにもありふれたものだが

その意思をどう現実化させるのが問題だ。

そこにはいろんな葛藤と妥協があるからだ。

***

実際に存在するのか否か
それを決めるのはユーザー本人であるが
目で見て音で聴いて肌で感じることのできる
「もう一つの世界」は
実は存在しうるのかもしれない。

一方では虚しいだけの華々しい幻影に見え
また一方では主動する世界に映る。

自分そ

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パラサイト



「計画を立てると
人生その通りにはいかない」

寝転がり頭上を見つめて息子に言い聞かせる父親の表情は後悔不安恐怖、期待する少しばかりの希望が現実味なく貼り付いていた。

例えば半地下家族の長女ギジョンが八百屋から桃を一つくすねて華麗にその場を後にする姿。桃の産毛はアーティスティックで、香りを嗅ぐギジョンの白い肌と茶色い髪の毛が陽の光を浴びてふんわりとしたフォルムを生み出し、後ろ姿は光の

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【There's no Born villain】



「ねぇ、生まれつきの悪人はいると思う?」
そう問いかける私に、パートナーは、
アルコールのグラスの氷をカランと音をたてて飲んだ後、
「いないよ、産まれた時はみんな良いんだ。その後の環境がそうさせるんだ。」
と言った。

そんな会話の末に、コーエン兄弟監督作品の「ノーカントリー」に登場する殺し屋アントン・シガーを思い出す。
作品中に彼の姿が映ってもセリフがなく、会話もない。インパクトのある外

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沈黙ーサイレンスー

沈黙ーサイレンスー

耳を劈くような「沈黙」が
世の中には存在する。

この映画の中に、
耳に強烈な圧迫感を与えるような完璧な「沈黙」が2シーンある。

とても、魂にのしかかるシーンだ。

この「沈黙」は、脳が頭の中で膨張するような圧迫感で、とっさに耳を塞ぎたくなるような感覚にとらわれる。

窪塚洋介の演じるキチジローは、
弱く要領良くズルく見えるが、

それだけに留まらない。

アンドリュー・ガーフィールド演じるロド

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アトランティスの心

この作品の中で、
アトランティスとは幻の国と表現されている。
子供の頃は、時が過ぎ行く時間も、あらゆる全てのことが輝かしく映る。
純粋に生きるというころがいかに素晴らしいことか。

この作品は、少年と不思議な力を持つ老人の心の交流と、
少年の心の成長を描いている。
原作はスティーヴン・キング。

アンソニー・ホプキンスの置かれた状況や彼の人生、
比喩的な表現がノスタルジックで切なく映る。
それ

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明日の記憶

*ネタバレあり
先日開催された日本アカデミー賞。
最優秀主演男優賞を受賞したのはこの作品で主演した渡辺謙であった。
その事実を知ったのはこの作品を観た次の日。

シーンにていろいろと考え、心を締め付けられ、出演の二人とともに希望を描く。

いつも思う事だが、
邦画には日本人の性質、性格的なものが何気なく自然に現れている。
最近になってそれがとても目に付くようになり、同時にそれが魅力に思える。

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ウォンテッド

*ネタバレあり
本作品の音楽担当のダニー・エルフマンが歌う、クールなメインタイトル、
それだけでも作品に与えるインパクトは十分だと感じてしまう。
弾丸がスローに描く空間の映像は実に斬新で、
登場人物の個性も合わさって最高にスタイリッシュな作品になっている。
テンポが良く観ていて飽きることのない展開には最高傑作を思わせる。

登場するのは、企業の顧客管理担当として、平々凡々な日々を過ごす青年ウェ

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エンジェルアイズ

傷を負った心が自分の中に壁をつくってしまう。それは自分を守るためなのだろうか。
受け入れたくない現実に壊れそうな心。
それをひた隠すのも人間である自分。
意思をもった、感情を持った人間。
それを解きほぐすのも人間。
寄り添い、支えあい、愛をもって接する事が出来るのも人間だ。

運命という名のもとにめぐり合ったふたり。
強く、直向な美しい警官のシャロンと、謎めいた存在のキャッチ。
お互いに惹かれ

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エリザベスタウン

どこまでも広がる草原とまっすぐ伸びたアスファルトは、どんな可能性も受け入れ、どんな傷心も癒すようにさえ思える美しい景色。

大手靴企業で成功したと思いきや、会社に大損害をもたらしたオーランド・ブルーム演じるドリューは、
ある晩、まさにこの世から去ろうとしていた。
だがその瞬間、姉からの電話。
取り乱す姉の口から出たのは父の訃報だった。
彼は自殺の計画を延ばし、翌日父の住むエリザベスタウンへ向う

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エレファント

*ネタバレあり
ストーリーはゆっくりとその流れを確実に表しながら進んでいく。
芝生の緑が美しい校庭や秋の香りが漂う落ち葉の林道。
どことなく殺風景な校内。
アート映画のような映像の美しさが際立つ。
周りの雑音を一切取り払ったような静かな空間。
それぞれいつものように学園生活を送る学生たちの日常。

それは変わりなく送られていく現実世界。
だけど、同時に、
少しの奇妙さを取り入れた全く異次元のよ

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五線譜のラブレター

素晴らしい作品に出会えました。
観終わってすぐにそう思えた作品。
音楽映画というものはあまり観ていなかった、
そしてこの作品の主人公である、
実在の人物コール・ポーターを知らなかった私だが、
この作品を通して彼の音楽に、愛に捧げる人生が、
通じてきた作品だった。

この作品は実在の作曲家、コール・ポーターの伝記映画なのである。

彼と、彼が愛した最愛の妻リンダ、
そして彼が同性愛者としての

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