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おっさんだけど、仕事辞めて北海道でチャリ旅するよ\(^o^)/ Vol,22 羅臼

2024 0729 Mon
 
おまえ。
相手に呼びかけるとき、この言葉を使わなくなったのはいつ頃からでしょう?

ガキの頃なんて、「おまえ」以外に二人称の言葉なんて知りませんでした。だいたい、日本語って二人称を使わずに、「すいません」が呼びかけ言葉の定番ですもんね。よく考えたら、すいませんってなんやねん、マジで…。


わたしの生まれ育った町には “敬語” が存在しませんでした。噓でもなんでもありません。言葉の通り、敬語がなかったのです。だから、誰でも彼でもタメ口で話していました。
かといって、上下関係がないわけではありません。じゃあどうするのかというと、丁寧に話すんですね、目上の人と話す場合は。
もっと言うと、丁寧に話すと言っても、ちゃんとした丁寧語があるわけではないんですよね、わたしの地元言葉には。じゃあどうするのかというと、自分の考える丁寧な話し方をすることになるのです。
「~さん」という呼び方も基本的には存在しませんから「~君」と君付けで呼ぶことになるんですね、目上の人を。20歳のヤツが30歳のおっさんを呼ぶときに「なあなあ田中君」みたいな話し方になるわけです。
じゃあ20歳のヤツが50歳のおっさんに呼びかけるときにも「~君」と君付けで呼ぶのか? これは、なぜかそうじゃないんですよね。さすがに自分の父親くらいの年齢の人を君付けで呼ぶのはマズい、そういうアレはあるわけですよ。では、それくらい年の離れた人に呼びかけるときはどうするのか? 答えは「呼びかけない」なんですね。
いやあ、日本語って、ホンットに難しいもんなんですね! それではまた!

日本人は儒教の影響を受けており、年長者を敬う文化があります。その点、キリスト教の影響が強いヨーロッパ系の年長者の扱いって、どんな感じなのでしょうか? 非常に興味があります。

 
難しい日本語といえば、二人称。
古くは「な」。それが転じて「なんじ」。「御前」が転じて「おまえ」。「貴様」が転じて「きさま」。なぜか日本においては二人称代名詞に込められた敬意が時代の流れとともに低下する傾向にあるようです。低下というか、「おまえ」はギリまだしも、「きさま」なんていきなり初対面の相手に呼びかけられたら、それは敵意以外のなにものでもありませんよね。

コレ系の奴らになら遠慮なく「おいアニキ!」って呼び掛けられるんですけどね。


羅臼。
なんというか、アレなんですよね。…率直に言って、格好良い。
音の響きも格好良いし、漢字も格好良い。場所も格好良い。知床半島の東に位置し、海岸沿いの道を先へ先へと走れば、やがて通行止めになってしまう。そこから先は手つかずの自然に野生動物が生息する、日本に残された数少ない聖域。
日本国が定めたその聖域に、日常として立ち入ることができる人たちがいます。そう、漁師。羅臼の漁師です。

「もう漁師は儲からねえよ」口々に羅臼の漁師たちは言いますが…。わたしみたいな素人からしたら、立派な港だし立派な船だし、すげえ格好良いんですけど…。


羅臼の銭湯で身体を洗っていると、あとから入ってきたゴマシオ坊主頭のおっちゃんに、いきなりなにやら話し掛けられました。
「はい?」
顔をそっちに向けて聞き返すと、おっちゃんは
「あら? 間違えたわ」
豪快に笑いながら湯船につかりました。そしてしばらくしてから…。
「にいちゃん、…」
なにやらまた話し掛けてきました。しかしいかんせん、この銭湯は横に長く、おっちゃんとわたしは5m以上離れており、風呂場の反響もあってか声がよく聞き取れないのです。仕方がないので、泡のついたままの身体で立ち上がり、おっちゃんの方に近づいていきました。
「にいちゃん、出所してきたばっかりか?」

なんと言いますか、カモメの鳴き声って郷愁を誘いますよね。なぜなんでしょうか? やっぱり演歌とかの刷り込みですかね?


このジョークにやられました。初対面の成人男性、しかも50歳前のおっさんを捕まえて「にいちゃん」呼ばわりし、スキンヘッドに髭面のわたしに向かって「出所したてかいや?」などというギリギリ、いや普通にアウトの与太を飛ばす。
“これがうわさに聞く、羅臼の漁師か…”
「いやいや、バリバリの堅気ですがな。あんさんと違うてやな…」
リミッターを外したわたしのジョークも、もちろん笑い飛ばしてくれます。とりとめのない話(ほとんどが女の話)をしながら、わたしは感心していました。他人に対する距離の詰め方、会話の運び方、もう一人のおっちゃんへのさりげない会話の振り…。
“いやはや、相当モテたはずやで、このジジイは…”
おっちゃんは自分のことを、知床の漁師、ではなく
「羅臼の漁師」
と言いました。となりで笑っているおっちゃんも、
「羅臼の漁師」
と言いました。

やっぱりタフガイが多いと思いますよ、この土地は。「飲む打つ買う」とか「宵越しのカネは持たねえ」とかそういう気風が残ってそうですもの、いまだに。ゴマ塩アタマのおっちゃんも、はっきりいってヤクザそのものでしたからね。


最敬礼でおっちゃんたちを見送ったあと、わたしは今夜の宿、ライダーハウス浜っ子山ちゃんに行きました。宿代3500円。わたしのチョイスとしてはかなり高額ですが、豪華海産物の夕食が付いてこのお値段なのです。少し前に別海町で絶品すぎるホタテを食して以来、わたしはここいらの海産物を食べたくて食べたくてしょうがなかったのです。
朝からの本降り、そして夜には土砂降りが予想される今日の昼前、ようやく繋がった電話先の向こうから、「お忙しいところ失礼いたします。…」と恐縮しながら急な宿泊をお願いするわたしを安心させる、のんびりした声が返ってきました。
「いーよ」

在りし日には、この食堂が、夜な夜な酔っぱらったライダーたちで溢れかえったんでしょうね。いやはや、想像しただけでも凄いというか…。決して悪い意味じゃなくて、なんだかゲップが出そうになりますね…。


山ちゃんももちろん漁師、いや「羅臼の漁師」。おかみさんも「羅臼の漁師のおかみさん」。夕食が豪華で美味しいのは予想できましたが、一緒に泊まったライダーの3人家族に
「雨降ってるからクルマ使いな」
と片道30分近くかかる日帰り温泉に行くために、クルマ(たしかステップワゴンですよ、軽トラじゃなく)をひょいと貸してくれたり、
「明日も雨降ってたらもう1泊していきな。…飯は自分でなんとかしてな」
と、飯ナシなら宿代要らない宣言をしてくれたり…。
なんといいますか、サービスというよりも、親戚みたいな感じで接してくれるのです。

これ、1人前ですからね。…魚介類で腹一杯になったのって、初めてでした。宿の感じもわたし好みでサイコー。本当に気風の良い人たちです。


羅臼。
知床峠を挟んで反対側にある宇登呂は、知床半島観光の拠点として観光客で賑わっています。しかし、わたしは羅臼のこの雰囲気が好きです。漁師町としてのピークはとうに過ぎてしまいました。観光地として、宇登呂に追いつけ追い越せの感じもまったくありません。でも、いいじゃないですか、それで。羅臼は羅臼。羅臼のやり方があるはずです。
羅臼。知床半島の端っこの町。
羅臼。羅臼の漁師たちが暮らす町。
羅臼。いつか、厳冬期の羅臼に来てみたいものです。

誰も釣りしてなかったけど、これどこで釣りしてもメチャクチャ釣れるんじゃないでしょうか。


 

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