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おっさんだけど、仕事辞めて北海道でチャリ旅するよ\(^o^)/ Vol,41 帰結

2024 0906 Fri
 
日本各地で相次いで報告されている、クマによる被害。
2023年度は、ここ15年間でもっともクマによる被害件数が多かったと聞きます。

まずヒグマの突進をサイドステップで躱しつつ、渾身の左フックをテンプルに、返しで右アッパー。たたらを踏んだヒグマの頭を押さえつけながら膝蹴りを連打。剥製相手のシミュレーションでは圧勝なのですが…。実際のヒグマに勝てるかどうかは…。五分五分ですかね。



…怖い話を聞きました。
大雪山のふもとに程近い、とあるキャンプ場。夕方、美瑛岳登山から戻ったわたしは、駐車場に泊めてあるクルマに干されているウェーダーを、目敏く発見しました。
“ほうほう、釣り人が居るってことですな”
さりげなくチェックしていると、視線を感じ、振り返りました。それなりに手入れしているであろうグレーの髭と髪が特徴的なその男性。年季の入ったアウトドアウエアを着こなす彼は、このキャンプ場のもう一人の管理人とのことでした。名前を仮に、マーシーとしましょう。
※元ブルーハーツのマーシーに雰囲気がそっくりでした。

クマに遭遇したらどうする? 幾人もの専門家によるいろんなパターンを読みました。それにわたし自身の経験も含めて言いますね。逃げるな! もし襲われたら、できる限り抵抗しろ! これしかないです。


これ幸いとばかり、連泊申請と同時に渓流釣りについて質問を始めるわたし。
「このあたりだとどこに釣りに行かれるんですか?」
「すぐそこの〇〇川でも釣れますよ」
「へ~。それってどのあたりから釣り始めるんですか?」
「ホントにすぐそこです」
そう言って、Googleマップで入渓ポイントを教えてくれるマーシー。そのポイントがあまりにこのキャンプ場から近かったので、喜ぶと同時にある疑問が浮かびました。
「これ、もっと上流ではどうなんですか?」

ニジマス釣ってもねえ…。

自分が山岳渓流を好むこと、ニジマスではなくイワナやオショロコマを釣りたいことを伝えました。
「ぼくも源流釣りが一番好きです」
この辺りが地元で、亡くなったおじいちゃんは猟師。海でも山でも釣りをし、エサ、ルアー、フライとなんでも来いのリアル釣り師マーシーは、そう断ってから話し始めました。
「これより上流に行っても、そんなに釣果は変わらないです。それに…」
もっと上流、源流域ではどうなのかと食い下がるわたしに、マーシーは真剣な表情でこう言いました。
「この渓の源流域にはクマが出ますから…」
なんと、今年だけで、7度もヒグマを視たとマーシーは言います。わたしも知床でヒグマにアタックされたことを伝えると、マーシーは首を振りました。
「良いも悪いも知床のクマは人慣れしていますから…。この辺のクマはそうじゃないんですよね」
部分的に観光地化された知床とは違い、人間の存在を知らないまま人間の生活圏まではみ出してきたこの辺りのヒグマ。うっかり至近距離で遭遇しようものなら、どういう反応に出るかわからないそうです。
「普通のクマは人を見たら逃げるんです。でも、なかにはそうじゃないクマも居て…」

この森の奥にヒグマがいるかいないかなんて誰にもわかりません。というか、むしろヒグマがいるほうが自然なような…。ちなみに、ヒグマをよく知る人は口をそろえてこう言います。
「やつらはあたまがイイ」


「なぜそんなにヒグマが増えたんですか?」
そんな直球の質問に、マーシーはこう断定しました。
「30年前に『春グマ駆除』を止めたからです」
『春グマ駆除』は1960年代からヒグマの生息頭数抑制のために行われていたそうで、道から要請を受けた地元の猟師が結託し、毎年春に駆除を行っていたのです。
「だから、いずれこうなることはわかっていました。うちのおじいちゃんが言ってましたよ。『30年後にクマの被害がえらいことになる』ってね」
時期までピタリと当てたマーシーのおじいちゃんの慧眼も凄いですが、当時多発していたクマ被害を抑制するために始めた『春グマ駆除』ですから、もとよりこうなることは火を見るより明らかというか…。

動物、かわいいですよね。でも、わたしは自分の身のほうがかわいいです。


「あまりにもクマ被害が多発したもんだから今年からまた再開したんですが…」
苦い顔でマーシーが続けました。
「30年は永いですからね。当時の猟師はほとんど引退してしまったし、若い猟師はまだまだ経験不足で…」
新聞には載せられない話ですが。マーシーはそう前置きしました。
「打ち損じたクマ、つまり手負いのクマが、ここいらの山のそこかしこに隠れているんですよ。奴らは人間を恐れ、同時に憎んでいるんです。そんなクマなら何をしでかすか予想がつかない…」
彼はわたしに向き直りました。
「だから、猟師の友達からこう言われたんです。『3~4年は山に入るな』ってね」
「わかりました」
わたしは頷きました。そこまで諭されて山に入るほど、わたしはアレではないですから。

「サカナだって生きてる!」「釣りはエゴ!」 動物愛護団体に迫られたら、わたしはこう言い返します。「黙っとれ!」


一礼し、管理人室に戻ろうと歩を進めるマーシー。その後ろ姿を見ながら、わたしは聞いたばかりの話を整理していました。
トイレに行き、テントに戻って温泉に行く準備を整え、そして歩いてキャンプ場を出て、…。
“そうだ…!”
なんとも言えないなにか、なにかが引っかかっていました。そのなにかが、わかったのです。急いでキャンプ場に戻り、管理人室のドアを開けました。幸い、マーシーはまだ部屋に居ました。勤務外時間に訪れた非礼を詫びつつ、わたしはこう問いました。
「なぜ、30年前に『春グマ駆除』を止めたんですか?」
皮肉な笑みを浮かべ、マーシーは応えました。
「…動物愛護の観点からです」
黙って頷き、一礼し、わたしは管理人室をあとにしました。

十勝岳、美瑛岳、登ってきました。そこまで標高が高くないのに、さすが北海道、登山してる感が満点でした。サイコー! 特に美瑛岳サイコー!!

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