個人的な離婚のはなし

幡野広志さんの人生相談が炎上した。おおくの女性が怒りや共感を示すとおり、私も自分の体験と絡めて語りたいことがワサワサとわいてわいて、こうしてnoteを開いている。

私の離婚はこの相談者さんの境遇と共通する部分がたくさんあった。離婚に至った元夫の行動要因は①元夫が帰宅せず子育てで孤立したこと、②元夫に風俗や出会い系の利用があったこと、③元夫が浪費を繰り返したこと。背景因子として①子どもが過敏なタイプの自閉スペクトラム症でありめちゃくちゃ育てにくかった、②元夫はADHD(診断済み服薬中)であり、協力して家事や子育てをしていくことが気質的に不可能だった、③私がもともと不安障害であり、安定した自己像がなかったこと、があると思う。

元夫は、暴言はあったが目に見えた暴力はしていない。特定の人と浮気もしていない。借金もしていない。そして収入は高く、まじめに仕事に取組み、会社から評価もされていた。

初めに弁護士に相談に行ったとき、離婚専門を名乗るその女性弁護士は、「その程度で別れるの?」「旦那さん頑張ってかせいでるじゃない」「それだけあなた稼げるの?」「今より生活レベル落ちるけどいいの?」と言った。覚悟が固まっている人だけを受任したかったのだろう(その時点で負け弁ではないかと今は思う)。私はそのまま、その弁護士とは契約せず、うつ状態が悪化し半年後精神病院に入院した。

精神病院の医師は、「あなたの旦那さんのしていることは、法律的にどうとかは私はしらないが、私の立場からすれば暴力と同等だ。ソーシャルワーカーを通じてDV被害のセンターや相談につなぐこともできる」と断言した。半ば怒りを込めて。これはあまりに無力になっている私の代わりに怒りを表現してくれたものと思う。この言葉に私は救われた。結果的にそういう公的サービスは利用しなかったものの、離婚に至る一歩の試金石となったと思う。

幡野さんの人生相談は私の会った弁護士と似たようなものと思う。弁護士でさえこうなので、モラハラを判断することは本当に難しい。私は自分が理詰めで元夫を責めすぎたこともたくさんあったし、元夫の頬をぶったこともあるので、ハラスメントとこちらが一方的に主張することはできないとも思った。嘘認定や被害妄想認定が本当に怖かった。自分に味方してくれる弁護士などいないのではないかと思っていた。

幡野さんの謝罪のうえ相談内容はいま削除されているけれども、相談者さんの今が心配だ。どうか相談者さんが困りを解消できる相談先につながれるようフォローしてあげてほしいと思う。私は一番には「市区町村の子ども家庭相談室」「男女共同参画事業」につながるのが良いだろうと思う。私はそういう機関を通じて精神科通院・入院し、女性だけで運営する法律事務所も紹介してもらった。

この方の相談の本質は①離婚できるかどうか、と②お金をどうしようか、の2点だと思う。相談者さんの夫が離婚を拒否した場合、離婚できるかどうかでまず困難があるだろう。離婚できたとして、条件が整うかどうか、というところも、難しいことを寄り添ってやってくれる弁護士を見つけなければならず、そのこと自体が難しいと思う。

そして何よりも、お金だ。私も、離婚によってそれまでの暮らしがすべて泡と消えてしまうこと、それが何より嫌だった。愛する街、愛するキッチン、愛用する鍋、気の合うママ友、信頼する保育士、何もかも、離婚で結局手放している。これまでのようにデパートのコスメを買うこともできないし、離婚までの一年間、服は一着も買えなかった。子どもに障害があるので、一人で育てていけるのかという不安もものすごく大きかった。子どもをひとり親家庭という少数派にしてしまうことへの抵抗感・拒否感も大きかった。

女性にとって離婚するということはRPGでコツコツステージをクリアしてLV100になったところをLV1所持金ゼロから再スタートするようなものだ。通常LV1でスタートするとき、プレイヤーは一人で、ステージは1からだ。でもLV1再スタートのときは、パーティーに死なせてはいけない仲間が複数いて、さらにステージは1ではない。ある程度進んだところまでしか戻れない。わたしの場合は「こんらん」状態のバディを連れての再スタートだった。

人はいう。「逃げて」と。私は「機能不全の家庭でいさかいの中育つより、片親でもお母さんが笑顔でいる方がまだ良い」と複数の家族や知人に言われた。

でもその先にあることを誰も見てはくれない。お金のこと、子どものこと、決断の先のことを調べて、やって行けるか考える人間は自分しかいない。私から笑顔を奪う夫と繋がりを切ったところで、私が笑顔を取り戻せるかどうかは私の行いのみにかかっている。心がくじけそうで、何度も死ぬことが頭をよぎった。それは生命の放棄ではなくて、巨魁な孤独の塊がちょっとずつ自分の体を崖に追い詰めてくるような、そんな死がよぎった。幡野さんのような、ああいう人生相談の場は、そういう人の、そういう場面を言葉でもってブンと下支えして、勇気づけてこそなのではないだろうか。

相談者さんは23歳とあった。若い。学生の時に妊娠し、すでに子どもが複数あるということは、高校生のときの妊娠だろうか。圧倒的に若い。若くして家庭を維持し、家まで建てて、夫婦はすごく努力したんだろうと思う。それを手放すことはどれだけ受け入れがたいことだろう。決断には時間がかかると思う。ただ、もう夫のこと愛していないよね。夫も多分家族のこと愛していない。これまでの自分の努力や、生活そのものへの愛着だけで、これから先の長い人生を生きることは苦行ではないかと私は思う。私はもう40歳になるので、人生のほとんどのことをあきらめたけれど、相談者さんには時間というアドバンテージがあるので、これからもう一度自分だけの力で家を建てるとか、今と同じような生活を得るのはまったく不可能ではないと思う。そういう未来への希望が、今の決断の一縷になればよいな、と思う。高等職業訓練とか、利用できるサービスの存在も知ってほしい。

幡野さんに知ってほしいことは、「毎日夜中の3時に帰ってきて、土日も家にいない」という人間が普通に存在するということです。私の元夫もそれです。ストレス耐性に低い人、もしくはストレスが大きすぎる人は、ストレスを解消するために、依存的行動に走ることが多いのです。依存行動は生活を蝕む異常行動なので、平板に理解しがたい非合理的な様相を呈するのです。相談者さんの夫は(どうやら同級生のようなので)23歳前後。その年齢の男性にとって家庭が、引き受けられないほどの重責となってしまうことは当たり前かもしれません。そして20代前半というのは、朝まで飲んでも翌日会社に行ける年齢です。ただし、朝まで遊んでいるので多数回事故をおこしているのです。遊びの内容が何かはわかりませんが、「家庭からの逃避行動」だろうと私は思います。

そして、この夫さん、職場の環境が厳しすぎるのではないかと想像します。親族経営の会社で、期待が厳しさに変わること、その厳しさが親族という関係性から容易に一線を越えること、あるのでは。本人にも身内だからこそ下手はできない、報酬の分こたえなければ、というまじめな気質があれば、仕事の場で相当のストレスを感じているのかもしれません。深夜に寝ている妻を起こして掃除をさせ直す、というのは「支配」以外の何も目的としていないでしょう。そういう支配の連鎖を感じます。

本当は相談者さんのように若くして親になった人、私のように高齢で親になってつぶれた人など、親になってからつまづいてしまった人たちに継続的にメンターがつくような、そんな社会サービスがあれば、と思ったりする。私は離婚してすっきりしたけれど、「良かった」とは思っていない。続けられるものなら続けたかった。

いずれにせよ、私は幡野さんの合理的で自立した考え方やキレのある言葉の表現が好きで、人生相談をいつも新鮮な気持ちでみていたので、幡野さんにはこれからも活躍してほしいと思っている。自分の正義で世の中を斬っていき、人望を得るということの快感におぼれすぎないよう祈っている。


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