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仕事はできるのに残念だなあと思われる致命的ポイント

 

飲み込みも早く、地頭が良く、上司の意図や背景をスムーズに理解し、求めるアウトプットを想定の倍の速度で想定の倍のクオリティで出せる、という部下がいた。


バックグラウンドでたしかに有利な部分はあったけれど、それを差し引いても頭のつかい方を知っているという感じだった。


ミスもなく、遅延や失念もなく、ロボットのように正確にしっかりと仕事をこなすその人は、部下としてはとても頼もしく、私は優秀な右腕を得たと素直にうれしかったし、組織にとっても必要な存在と私の上司も認めていたので彼をスピード出世に推薦しそれが通った。


私だけでなく、彼の能力を社内は皆、認めていた。


もう新人とも呼べなくなった数年が経過した頃、彼には後輩ができた。


その子は彼とはまったく異なるタイプで、ただ純粋にサービスが好きで入社してきた子で、情熱はあった。


でもその情熱の組織での発揮のさせ方がまだ本人もコツをつかめていない風で、ほとんどすべてのことを1から丁寧に教えなければ仕事が進まなかった。


理解するにも時間がかかり、同時期に入社したほかの人たちよりも職種がフィットしているとは本人も周囲もなかなか思えてはいなかった。


そんな彼女に対して、彼は訥々と仕事の考え方、進め方などを説くのだけど、それが聞こえてくる私にとっても気持ちを削られる言い方と圧と言葉のチョイスだった。


「これってなんでだかわかりますか」
「これについて、何が正解だと思いますか」
「あの時どうすればこういう事態にならなかったと思いますか」

などなど、これだけでは到底伝わらないのだけどしゃぼん玉メンタルかつ共感性羞恥が異様に強い私にはもう聞こえてくるだけでナイフでぐさぐさ刺されているつらさだった。


私のメンタルのへなちょこさを横に置いておいても、「あれはきついよね」「あの子だいじょうぶかな」という声がちらほら聞こえてきていた。


言っていることが間違っているわけではないのだけど、彼女からの彼を頼る様子や社外からの支持は、まったくなかった。


彼のどういう言動がそうさせてしまうのかな、と考えてみたところ、常にどんな言動にも透けて見える彼の思いに行き当たった。


彼自身メンタルが弱く、常に認めてほしいという気持ちが全身から発せられていて、評価する言動が得られるまで何度も何度も求めていた。


そしてそんな承認欲求の強さから彼は常に、「自分は正しいことを言っている/やっている」ということを全力で主張していたのだ。


相手が誰であろうと、相手に同意や賛同をさせるために会話をしていた。


だから常に一方的で、目的が相手を打ち負かすことで、自分の正しさの証明になっていた。


仮にその内容に同意したとしても、これではコミュニケーションは成立しない。


なぜなら人としての尊重は感じられず、意見の交換にならないから。


彼は非常に仕事ができるだけに、もったいないなあと思っていた。


私が彼の上司であった時、「もう周りは全員、あなたの能力はわかっているし認めているよ。現に昇進もしたのがその証だよ。だから今できていることにフォーカスするよりも、個人としても組織としてもまだ未開の分野を切り拓いていくとどちらの成長にもつながるんじゃないかな。」という話をした。


でも彼のなかではそれは、彼のなけなしの(と思われる)自尊心を歪んで増幅する一助になってしまったようで、そのあとも精一杯の自己主張を続けていた。正義の名のもとに。


いつしか彼は「空回りしている」「仕事はできるんだけどね」と一歩引かれるようになり、プロジェクトを一緒にやりたいと思う人はいなくなってしまった。



彼を見ていたら、「何のための主張か?」を考えなければならない、と思った。


正しさの証明や個人的な主張はいらない。


全体最適のために人はそれぞれ役割を担っているわけで、お互いに尊重されるべきだし、正解のないビジネスにおいては部分的な正しさの集合体が全体としての正しさにつながることもままある。


そしてなにより、社外はともかく、組織内で味方をつくらない手法を進んでとるメリットがどこにもない。


評価されたい気持ちを仕事において全面に出すと、全体を見渡せない人だという印象は避けられない。個人的ながんばりは、組織にとっての絶対では必ずしもない。


正しさの証明はコミュニケーションにおいては何も生まないのだということが証明されたのを見た気がした。


組織が求めるのは個人の正しさではなく全体の正しさであり、全体の正しさは論理や描く未来によって定義されるものであるから、そういう意味でもノイズになる。


他者は常に模範になりうる存在としてどんな時も対峙したいし、自分が完璧な人間ではないということを日頃から自覚していようと自戒していたい。

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