見出し画像

パラレルワールドの自分を救え

パティシエになりたかった。メイクアップアーティストになりたかった。漫画家にもなりたかったし、イラストレーターにもなりたかった。

小学校の卒業アルバムに必ず存在する「将来なりたい職業は?」という項目。わたしはこれが大嫌いだった。”将来の夢”なんていうずっと先の未来のことなどわからなかったし、だからと言って嘘をつくのも苦手だったからだ。

それでも何かを書かなければならなかったので、当時ピアノを習っていたことから適当に「ピアノの先生」と必死の嘘を書いていた。

のちにそれを見た母親には「ピアノの先生になりたかったの?」と驚かれたものである。


そんなわたしが”将来の夢”を真剣に考えたのは大学受験のときだった。母親から「大学に行くのであれば理由が必要」と言われ、将来を見据えた大学選びをしなければならなかった。

そのときに初めて自分のやりたいことを無理矢理にでも探し、候補にあがったのがパティシエやメイクアップアーティスト、漫画家やイラストレーターだった。

どうせなら好きを活かせる仕事に就きたいと考えていたわたしは、安直に当時興味のあった職業をとりあえず並べたのである。

その後、母親に相談するも猛反対された。親心なのだろうがそれらの職業のデメリットを延々と語られ、自尊心の低いわたしは自信をなくしてノックアウト。情けなくもすぐさま全軍撤退、諦めたのである。結果的に「やりたいことは入ってから考える」と母親をなんとか説得し、普通の四年制大学に進学することになる。


そんなこんなでわたしは現在普通の会社に入って営業職をしているわけだが、たまに考えることがある。ありきたりだが、違う道を歩んでいたら今頃どうなっていたのだろうかと。

パティシエになってフランスのパリへ修行に行っていたかもしれないし、漫画家になって売れっ子に!なんて人生ももしかするとあったのかもしれない。パラレルワールドがあるなら是非覗いてみたいものである。

宇垣美里さんのフォトエッセイ『風をたべる』に「私の足元には捨て去った多くの私の人生の骸が山積みだ。」という一節がある。人生は取捨選択の連続で、その度に失う人生が必ず存在していると。

得てして人生の正解というものは未来になってみないとわからないものである。そして、それを正解にしていけるのも自分自身の行動でしかない。

この選択が間違っていなかったのだと証明するために。捨て去った過去の自分を救うために。どんなにつらくても今を大切に生きていかなければと、心からそう思う。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?